2月27日 冬の恋人の日 【SS】雪深い村の恋
【今日は何の日】- 冬の恋人の日
2月14日の「バレンタインデー」と3月14日の「ホワイトデー」の中間の日で結婚カウンセラーなどが制定した日。寒さが厳しい冬でも愛情を育んでくれる2月で、二人の強い結びつきをを表す「きづ(2)な(7)」(絆)と読む語呂合わせで恋人同士の絆を深める日とされています。
【SS】雪深い村の恋
北の村に冬がやってきた。冬はいつも豪雪である。人の背よりも高く雪が積もり、村中を真っ白な世界に変えてしまう。凍えそうな世界へと一変し、村人は引きこもって春を待つ。
そんな村に幼馴染の美雪と太郎という同い年の男女がいた。太郎はこの村にいても手に職をつけることはできないと思い、村を出て街へと出ていってしまった。今から五年前の十八歳の頃だった。一方美雪は体の弱い母の看病のため雪深い村で懸命に頑張っていた。とても親思いで村人からの信頼も厚かった。太郎の家とも近かったということもあり、太郎が村を出てからでも太郎の両親にまで気を遣い、時々訪ねては温かい煮物などを差し入れていた。太郎の両親は、美雪が来るたびに「ありがとう、ありがとう」と頭を下げ感謝していた。そして帰った後は決まって美雪を褒める会話をしていた。
「ねぇ、お父さん。美雪ちゃんは本当に素直でいい女性に育ったわね。それに比べて太郎はどうしているのやら。頼り一つもよこさないなんてね。美雪ちゃんの爪の垢でも煎じて飲ませてやりたいものだわ」
「おお、そうだな。いい子になったな、美雪ちゃんは。太郎の嫁に来てくれると本当にいいんだがな」
「お父さん、うちの太郎には、もったいなさすぎるよ。あんないい子」
街に出ていった太郎は昼夜を惜しんで働いていた。割烹料理屋さんで修行をしていたのだ。住み込みで料理の勉強をする傍ら、夜は経理の勉強も独学で続けていた。村を出て四年が過ぎていた。遊ぶことは一切せずに一心不乱に学び続けていた。手紙を書いたり電話をかけたりすると心が折れそうだったので、それすらも我慢した。誰にも頼らず文句も言わず続けていた。太郎がそれほど強い心を保ち続けられるのは、村を出る時に美雪と交わした約束があるからだった。
「美雪、俺は村を出る」
「えっ、一緒にこの村で頑張ってくれるんじゃないの。うちのお母さん体が弱いから私は村を出られないのよ」
「わかってる。だから五年間だけ、何も言わずに俺を待っていてくれないか。絶対に一人前になって戻ってくるから。そしてその時には」
「その時には、なに?」
「その時には、俺と結婚してほしい。もちろん、俺が一人前になっていたらだけど」
「うん、わかった。私、待ってる。太郎くんのお父さんとお母さんも時々見にいってあげるね。手紙書いてくれる?」
「え、いや。手紙も電話も我慢したいと思う。挫けてしまいそうになるから。美雪との約束だけを信じて俺は頑張る、絶対頑張る。厳しい冬を美雪に任せてしまうことになるけど俺を信じて待っていてくれ」
「わかった。信じる」美雪は涙を流しながら答えた。
こうして太郎は村を出たのだった。そして五年目を迎えた。太郎は、異常な速さで料理を習得し、店の主人からも暖簾を分けてもらえることになった。五年間の給料はほぼ手付かずで貯金できていたので、村に帰ってから自分の店を出すこともできそうだ。いよいよ、店の主人とも別れの挨拶を交わし胸を張りやっと帰れると空を見上げる。ため息を一つついて、タクシーに乗り駅に向かった。
駅に向かう途中、アクシデントは起きた。交差点に差し掛かろうとしていたタクシーに対し、左側の脇道から急に飛び出してきたSUV車に衝突されてしまったのだ。しかも太郎が乗っていた後部座席めがけて車は突っ込んできたのだった。太郎の左足は変形して折れ曲がった自動ドアのアームに挟まれて潰されていた。身動きが取れない状態で、太郎は意識が遠のいていくのを感じていた。
気がついた時には、病院のベッドに横たわっていた。「生きてた」と太郎はほっとしたが、退院まではしばらくかかりそうだなと感じていた。頑張ってきた五年間を無駄にしたくないし、美雪との約束も果たしたかった。その時、太郎の事故のことが太郎の両親のもとに連絡が入っていた。割烹料理屋の女将さんは毎月太郎の両親に電話を入れてくれていたのだ。だが事故に遭い、たまたま持っていた料理屋の名刺から連絡が入り、すぐに両親のもとに連絡を入れてくれたのだった。
両親は美雪にも連絡していた。毎月店の女将から連絡が来ていたけれど口止めされていたので言えなかったことも合わせて詫びた。それよりもなんとかして病院に行こうということになり、美雪の両親の世話を一時的にお隣さんにお願いし、太郎の両親と共に美雪も病院に行くことにした。
その頃病院では目が覚めた太郎に担当医が残酷な告知がなされていた。
「太郎さん、残念ですがあなたの左足は切断しました。今はその感覚すらないと思いますが、そのうちなれると思います。必要なら義足メーカーもご紹介します」
「・・・」
そこに両親と美雪がちょうど到着した。五年ぶりの再会が病院のベッドの上でしかも左足を無くしたことを知った直後とはなんとも残酷な再会だった。しかし、美雪の一言で救われた。
「よかった。生きていてくれて。これからはずっと一緒だよ」
太郎の両親も涙してうなづいている。病室に入る前に左足切断のことは聞かされていたのである。こうして少しのリハビリを終えた後、太郎は懐かしの村に帰った。左足は無くなったが、料理をする両手は残っている。早速実家の一部を改装して村で最初の割烹料理店にすることになった。店の名前は美雪と話し合って「小春」に決定。すこしでも暖かい春のような店にしたいという願いを込めたのだ。店も出来上がり、両親と美雪の両親、そしてお互いの友達や親戚が店に集合した。結婚式を店で開いたのだ。結婚式の料理は新郎自らの手料理という前代未聞の結婚式だった。頼んでいた義足も結婚式に間に合い、見た目では義足とはわからないくらいになり、太郎も美雪も安堵していた。
こうして片足になってしまった太郎だったが、無事に店も出して美雪との結婚もできた。そして、翌年には可愛い女の子が誕生し「小春」と名付けられた。
了
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