5月30日 古民家の日 【SS】未来につながる家
日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。
【今日は何の日】-古民家の日
東京都渋谷区富ヶ谷にあり、さまざまな建築や不動産に関するプロデュースなどを手がける有限会社Mアンジョウ建築研究所が制定。
日付は「こ(5)みん(3)家=おうち(0)」の語呂合わせと、古民家の再利用や古材の活用を推進したいとの想いから「ごみゼロの日」と同じ日にしたもの。英語表記は「Cominka Day」で、「cominka」は「community」と「minka」から成る造語である。
伝統的木造建築の建物や古い民家が減少している中、古民家を店舗や工房、ギャラリーなどに活用することで、古き良き日本の伝統文化の継承とその周知を図ることが目的。記念日は一般社団法人・日本記念日協会により認定・登録された。
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【SS】未来につながる家
住民がいなくなった山村にひっそりと建っている古民家が数件残っている。管轄している村は管理上も困り果てていた。建物があるだけで持ち主は不明なのだ。そろそろ取り壊さなければならない時期を検討し始めていた。そんなとき、村の青年団からダメ元で売りに出してみましょうという案が持ち上がった。今やネット時代である。物好きがいるかもしれないというのだ。早速古民家ネットワークに載せて、販売する事を試みた。価格は一軒百万円。購入者特典としてリフォーム支援も行う。コンタクト先は役場での管理担当者になってもらった。
売りに出たのは三軒の古民家だった。なぜかこの三軒の古民家は直列に並んでいて真ん中の古民家を中心としてシンメトリックな構造を保ち、古民家同士は五十メートルほど離れていた。屋根は茅葺でかなり痛みが激しい。おそらくリフォームは免れない。玄関はなぜか三重扉となっている。隙間風対策なのだろうか。また、直接家の中が見えないような構造になっており、周りの垣根も人の背丈よりも高く作られている。ちょっと変わった古民家だった。
売りに出してまもなく問い合わせが入った。ぜひ内見したいというのだ。問い合わせたのは都会に住んでいる新道繋という男だった。自称時空間の研究家だそうだ。昔からこの地区が気になっていたらしく物件が出るのを心待ちにしていたらしい。
「もしもし、古民家管理の方でしょうか、私は、新道繋と申します。古民家の内覧を申し込んだものです。できれば、じっくりと見せていただきたいので、鍵をお借りして一人で見ることは可能でしょうか」
「ああ、構いませんよ。かなり傷んでいるので床を踏み抜いて怪我をすることだけは十分に気をつけてくださいね。一応、鍵を渡しますので、私のところまで受け取りにきていただけますか。私は、古民家管理担当の古家といいます」
こうして新道は古家をたずねて鍵をもらい、誰もいなくなっている古民家へと一人で車を走らせた。さすがに誰もいない村は荒れ果てていた。場所的には山の中腹に古民家は建っており、目の前には遮るものがない場所だった。新道は「なるほど思った通りの場所だ」と呟いて真ん中の古民家へ入った。玄関を入ると正面が土間になっており、左右に上り口が作られている不思議な作り方だ。土間を囲い込むように内廊下が作られ各部屋につながる構造になっている。つまり土間は廊下に囲まれているのだ。
次にこの古民家の東に建っている古民家へ向かった。ここもまた三重になっている玄関を入ると今度は廊下があり突き当たりに取ってつけたように部屋の入り口があった。その部屋に入ると数字のようなものを設定できるようになっていた。それは、何年先という数字を設定をするように見えた。
次にこの古民家の西に建っている古民家へ向かった。同じように三重になっている玄関を入ると廊下があり、ここにも突き当たりに取ってつけたような部屋の入り口があった。新道は「やはり間違いなかったな。この三軒の家は連動している」と興奮するように独り言をいった。そして、すべての戸締りをして鍵をかけ、役場に戻った。そして新道は持っていた現金をカウンターに積んで一言った。
「三軒共、私が買わせていただきます。手続きをお願いします」
「えっ、もう決定されたのですが。あの、結構ひどい状況だったはずですが。しかも三軒共とは」
「はい、構いません。傷んだ箇所は修理しますから買わせていただきます」
こうして売りに出した古民家は全て新道が買い取った。それから一ヶ月、新道は毎日通ってきて何やら懸命に調査しているようだった。東の古民家に入って行ったと思ったら、中央の古民家から出てきたり、次は西の古民家に入ったと思ったら、やはり中央の古民家から新道は出てきた。不思議だった。なぜか中央の古民家ではない古民家に入っていくと中央の古民家から出てくるのだ。新道は要領を掴んだとばかりに繰り返し中央の古民家への移動を確認していた。古民家同士はトンネルで繋がっているわけでもない。まるで瞬間移動を実現しているかのようだった。
新道はタブレットを持ってこの古民家について記録し始めていた。どうやらこの古民家には秘密が隠されていたようだった。東側の古民家の玄関から一番奥の部屋からは未来に行くことができる。ただし、戻って来るのは中央の古民家。西側の古民家の元から一番奥の部屋からは過去に行くことができる。そして東側の古民家と同じように戻って来るのは中央の古民家だった。いざという時の逃げ道に使ったり、部外者が使った場合の捕獲を考慮して出発場所と帰還場所をずらして時空を移動するように設計されていたようだった。
新道は一通りの機能を確認した後、家のリフォームを開始して住むことができるように回復した。そして一人で笑みを浮かべ独り言を言っていた。
「これで時間は私のものだ。未来へも過去へも自由に行き来できる。過去に作られた時空間移動装置の存在を何年も信じて探していたがやっと見つかった。このことは誰にも教えずに私だけの秘密にしておこう。この山奥に住んで時空間旅行を楽しみながら余生を過ごすのも悪くない」
了
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