11月25日 バイラルの日 【SS】口コミの恐怖
日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。
【今日は何の日】- バイラルの日
2005年(平成17年)のこの日、日本初の本格バイラルキャンペーンとして、株式会社タイトー・PSPゲームタイトル「EXIT」が実施された。
これを記念してこのキャンペーンを手がけたロカリサーチ株式会社が制定。口コミを利用し、低コストで顧客の獲得を図るバイラルマーケティングの可能性を探る日として広くアピールしている。記念日は一般社団法人・日本記念日協会により認定・登録された。
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【SS】口コミの恐怖
「バイラルってなんだ。俺知らなかったな、こんな言葉。恵介、知ってた?」
「いや、俺も最近知ったんだ。何でも、口コミとか噂とかでマーケティングを行う手法らしい。つまり低コストの宣伝活動というわけだ。ウィルスが蔓延していくようにじわじわと広がっていく手法だから、即効性は期待できないけど、上手くいけばベストセラーに育て上げることができるらしいよ。ゲームとかの販売で使われてるんだって。『ウィルス性の』という意味でバイラルって単語が使われているらしいよ」
「へぇ、でも我々の会社では試したことはないよな。最も、我々が売っている商品は企業が対象で個人ではないからだろうな」
「まぁ、そうなんだろうけど。企業としての口コミっていうのもアリかもしれないよな。企画書をあげてみようかな。次のマーケティング対策会議で。一緒に企画書作らないか、洋一」
こんな会話をしていたのは、とある小さな商社の営業部門のマーケティング担当者だった。この二人は営業成績があまり良くなく、何とか起死回生を狙っているようだった。ところが、このあとちょっと欲を出したのか、話はあらぬ方向に向かう。
「おう、そうだな。企画書かぁ。俺たちが作ったというだけで却下されそうな気もするな。せっかくの洋一のアイデアなのに、没になったら勿体無いじゃん。だったらさ、俺たちで会社のホームページからリンクされるようにして、口コミサイトを作ってさ、お客様を回って口コミをあげてもらうっていうのはどうかな。実績を見せれば会社も認めてくれるんじゃないかな、俺たちのこと。これまでの営業成績は悪いけど、これで反響が出れば、給料も上がるんじゃないかな」
「おっ、恵介、なかなか賢いじゃないか。そうだな、実績を作るのは大切かもしれないな。伊達にできちゃった婚を経験したわけじゃないなぁ。じゃあさ、俺は会社のホームページの保守担当者の博隆にお願いしておくよ。博隆は大学の後輩だから、いやとは言わないだろう」
「いいね、持つべきは後輩。ってか。できちゃった婚は余計だろ、ハハハ」
こうして、恵介と洋一は自分たちの低迷している営業成績を挽回するために、思いついたアイデアを実行に移した。会社には知らせることもなく。
「博隆、ちょっとホームページについて依頼があるんだけど」
「あれ、洋一先輩、珍しいですね。ここに来るなんて。何か用ですか」
「おう、実はな。会社の売り上げ貢献のためにちょっとしたアイデアを実施しようと思ってるんだよ。我々は企業を相手に商売をしているけど、そのお客様である企業の声を集めるサイトを作ったんだよ。そのページへのリンクを我が社のホームページからリンクできるようにしておきたいんだ」
「なるほど。面白いことを考えたんですね。で、上長の許可はもらったんですか」
「バカだなぁ、博隆。サプライズなんだよ、会社に対して。我が社はこんな風にお客様から評判もいいですよって知らせるんだよ。だから、承認は事後ということにしたいんだ。協力してくれるよな」
「何となく、コンプラ違反の匂いがするんですけど」
「大丈夫、大丈夫。何か言われたら、俺から頼まれたって言えばいいさ。いいことをしようとしてるんだから」
「はぁ、わかりました。じゃあ、リンク先のURLをお預かりします。トップページからリンクすればいいですよね」
「それでいいよ。理解の早い後輩で助かったよ。じゃあ、よろしくな」
こうして準備は整い、恵介と洋一はお客様である企業を訪問し、匿名で問題ないので、買ったものに対するいい評価を入力してくださいとお願いして回った。企業側は今後の付き合いもあるので、快く引き受けてくれた。ひとしきりお客様訪問が終わった頃、二人は居酒屋で祝杯をあげていた。博隆にも声をかけようと思ったようだが、手柄は少ない人数の方がいいと思い、二人だけで集まったのだ。
「なぁ、恵介。全て順調に進んだな。そろそろ何十社かの口コミが公開される頃だよな。今日は、俺たちの出世の前祝いだ、カンパ〜イ」
「カンパーイ。いやぁ、我ながら良くやったなと思うよ。あとは結果次第だな。まぁ、問題がある筈はないからな。顧客企業にお願いする時に、一番良かったこと、これで取引を決めたということを書いてくださいとお願いしたからな」
二人は少々浮かれて飲み過ぎてしまった。二人の絶頂期はこの夜を境に急降下してしまう。そんな事とは知らず、いい気分のままそれぞれ帰路に着き、二人はいい気持ちのままベッドに入った。そして、運命の朝がやって来た。顧客が入力した口コミは全てが匿名で、顧客にとっての良いことだけが綴られていた。当然、満足度を表す星は全部五つになっている。出社した二人は、星の数だけを見て小躍りしながら喜んだ。そして、そのまま上司のところに報告に行こうとしていた。
その時突然、社内アナウンスが流れた。
「氷山恵介さん、山川洋一さん、至急、営業部長室までお越しください」
二人とも褒められるのだろうとニコニコしながら、部長室に向かって行った。ノックをすると中に入るようにと声が聞こえた。が、期待とは裏腹に部屋に入るなり、怒鳴り声を浴びせられてしまった。
「何ということをしてくれたんだ。お前たちは! 川下博隆から報告があり、急ぎ確認をさせてもらった。全く、お前たちはこの会社を潰す気か!」
お客様からのコメントには、もれなく「弊社だけに最安値で提供していただいたことが契約の決め手となりました」という内容が散見された。それを見たお客様からひっきりなしにクレームの電話がかかって来ていたのだ。営業の見積もりとして顧客ごとの取引量を考慮した値引き見積もりをすることがあるのだが、それは公にならない前提で作成されるものである。そのことが公になってしまったことで、会社内はパニックになりつつあった。当然、氷山恵介、山川洋一は、社内で許可を得ずに実施してしまったことでコンプラ違反に問われ、退職に追い込まれた。しかし、それでは収まらなかった。数ヶ月後、会社の信用は遂に失墜し、ジェットコースター並みの速さで株価は下がり、清算せざるを得ない経営状況に追い込まれてしまった。
この会社は、ビジネス用パソコンを異様なくらいまで値引きして販売していることで業界では有名な商社だった。これでこれからは、パソコンの価格も安定するのかもしれない。
了
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