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7月2日 半夏生 【SS】田植えが終われば

日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。


【今日は何の日】- 半夏生

「半夏生(はんげしょう)」は、「雑節」の一つで、「半夏(はんげ)」という生薬のもとになるサトイモ科のカラスビシャク(烏柄杓)が生える頃。

七十二候の一つ「半夏生(はんげしょうず)」から作られた暦日で、かつては「夏至」(6月21日頃)から数えて11日目としていたが、現行暦では定気法で太陽黄経が100度のときで7月2日頃にあたる。(2023年は7月2日)

この頃に降る雨を「半夏雨(はんげあめ)」と言い、大雨になることが多い。農家にとっては大切な節目の日で、この日までに「畑仕事を終える」「水稲の田植えを終える」目安で、この日から7月7日の「七夕」頃までの5日間は休みとする地方もある。


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【SS】田植えが終われば

「さぁ、今年も一気にみんなで田植えをしてしまうぞ」

 田植えと稲刈りの時は、村全体が一つにまとまり、お互いに助け合うのが当たり前の習慣になっていた。短い時期の間に村じゅうの田んぼに稲を植えるのは、それぞれで実施するより、全員総出で対応した方が短期間に片付けられるし、品質も一定になる。だから、村人たちは誰も文句を言わないし、いやだと思う人もいなかった。そしてそれは、親から子へ、子から孫へと順調に受け継がれてきた。しかし、時代の流れというのは残酷である。次第に若者の農家離れが進んでしまい、後継者が徐々にいなくなってきたのである。世は明治から大正となり昭和に入っていた。

 この村に残った数少ない若者の一人で、米吉よねきちという働き者がいた。米吉は学問ができたのだが、村の存続を優先し、みずから村に残る決心をしていた。それというのも、隣村の夏夜かよという女性と約束を交わしていたからでもあった。

 隣村の夏夜は、夏の暑い夜に生まれた村には珍しい色白の美人だった。だが、病に倒れた父親が亡くなり、足が悪い母親を抱え、持っていた田んぼの維持が難しくなり始めていたのだ。田植えと稲刈りは隣村でも村人が協力してくれるのだが、普段のメンテナンスや村の他の人たちの田んぼの手伝いなどがなかなかできない状況になっていたのである。しかし、米吉と知り合った後は、頻繁に米吉が訪ねてきてくれて夏夜の家族を助けてくれていたのだ。

 いつしか恋仲になった米吉と夏夜は将来を誓うほどになっていた。米吉二十八歳、夏夜二十三歳の時である。米吉は長男でもあり家を継がなければならない。といっても財産があるわけでもなく、田んぼを引き継ぐのが家に対する孝行だった。米吉としては夏夜を嫁として迎え入れたいが、足の悪い母親を残して家を出ることは夏夜にとっても難しい。米吉は考え、そして行動に出た。隣村の農家と米吉の村の農家を集めて、米吉はお願いをしたのだ。

「皆さん、我々農家は今や年々就農人口が減り始めています。そこで、村と村でも協力して田植えと稲刈りを実施するようにしませんか。小さな山一つ隔てた場所なので日帰りでの助け合いもできると思います。今、世界では自動車というものも登場していますが、まだまだ高価なので我々には手が出ません。将来は考えるとしても、今は皆さんの手と足が頼りです。そして、私ごとではありますが、私は隣村の夏夜さんを嫁に娶りたいと考えています。しかし、夏夜さんの家では大黒柱の父親が亡くなり足の悪い母親と暮らしていますので夏夜さんをこちらの村に連れてくるわけにもいきません。かといって私も長男としてこの村を出ることは叶いません。そこで、両方の農家が今後も生計を立てていくためには村同士が協力し合うのが一番だと考えました。よろしくお願いします」

 もともと村同士は仲がいいこともあり、みんな快く引き受けてくれた。時は終戦を超えこれから復興に向けて頑張ろうという機運が上がっている頃だった。こうして半夏生の時期までの間、村同士が協力しあい効率よくお互いの田植えを済ませることができた。両方の村人たちも皆「早く嫁として迎え入れなさい」という後押しがあり、米吉は夏夜の家に申し入れに行った。

「お義母さん、私は夏夜さんと約束を交わしていました。今年の田植えが終わったら、そう、半夏生の時期を超えたら一緒になろうと。お義母さんは足を悪くされているので心苦しくはあるのですが、夏夜さんを私の嫁にいただけないでしょうか」

「米吉さん、ありがとう。夏夜のことだけじゃなく私にまで気遣ってくれて。普段の生活は私一人で問題はないから心配入りませんよ。その代わり、田植えと稲刈り、その間の草取りをお願いできますか」

「もちろんです。そんなに遠く離れるわけではないので、しょっちゅう伺います」

「おやまぁ、そんなにしょっちゅう押しかけられても困りますよ」

「ああ、そりゃそうですね。ははは」

 こうして村人の信頼を得た米吉は、無事に夏夜を嫁にできた。それに今後の田植えと稲刈りの対応の目処もなんとかついた。米吉にとっては半夏生の頃までの毎日はとても忙しく動き回っていたのだが、夏夜が嫁として嫁いできた途端、そんな苦労も吹き飛んだ。当面は、週の半分は夏夜が実家に戻り、家事を手伝うことでお義母さんのサポートもするようになった。

 結婚して数年が過ぎ生活も安定してきた頃、米吉は村のみんなと話し合って、お金を出しあいトラックを購入しようと持ちかけた。隣村との行き来にも便利だし、作物の運搬も格段に効率が上がる。管理は米吉が引き受けた。こうして街から遠く離れた村でも自動車が活躍し、そのうちに田植え機も活躍する時代へと移り変わっていった。その頃には、米吉夫婦にもしっかりした後継が生まれ、農業の在り方も近代化の波を受け、変化する時代へと突入していったのである。 


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