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空に解き放った心 - 第四話 事前の根回し

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事前の根回し

「もしもし、里香、遅くにごめん」
「どうしたんですか、酔ってるんですか」
「ちょっと酔ってるけど頼み事があって電話した」
「なんですか」
「僕がPMを探しているのは知っていると思うけど、やっと見つかったんだよ。で、近々我々の会社に入社しても和おうと考えているんだ。その際、里香の分析力で入社した後の彼女を助けてほしいんだ」
「えっ、女性なんですね。ということはリーダーは将来のパートナーにしたいと思っているってことですか」
「ああ、そうだ。だから協力してほしい」
「分かりましたよ。私にできることであれば協力します」
「ありがとう、さすが里香だ。頼りになるよ」

「でも、ずるいですよね。私の気持ちは知っていたでしょう」
「えっ、えっ、なんのこと」
「まったく、もう。私はずっとリーダーのことが好きだったんですよ。もう、吹っ切れましたけどね」
「いやっ、ごめん。うん。ちょっと感じてた。でもどうしても里香じゃなかったんだよな。ごめんな、付き合いは長いのに」
「まぁ、私も短い付き合いでもないし、リーダーの性格を分析してみると私ではないかなとは分かってはいましたけどね。でも、人の心って統計では測れないから、もしかしたらってちょっとだけ期待していたりもしたんですよ。でも今の言葉で綺麗さっぱり、吹き飛ばしてしまいましたけどね。で、何をすればいいんですか」
「あっ、なんだか頼みにくくなってきたなぁ」
「そんなポーズしなくていいので話してください」
「あぁ、今度、その女性、名前は立神しおりというんだけど、我々の会社に入社してくるんだよ。それで、僕じゃないチームに配属するので、君に第三者目線で分析と報告をお願いしたいんだ。もちろん、プロジェクトとしてはヘルプ役に回ってほしいと思っているんだけどね」
「なるほど。確信が欲しいんですね。これからの人生を共にする価値があるかどうか」
「そんな言い方はないだろう。僕は自分の目を信じてその裏付けが欲しいんだよ」
「同じことですよー。ま、分かりました。私の得意分野でもありますから、自分の気持ちを入れないで報告しますよ。次回の面談の時でいいですか」
「あっ、多分、次の面談までには入社できないと思うので、こっちから連絡するよ。面談は純粋に里香の今後のことを話そう」
「分かりました、だいぶ酔いも覚めたみたいですね。じゃあ、おやすみなさい」
「あぁ、なんだか、急によそよそしくなったな。まぁ、いいか、おやすみ」

 翔は全てが思い通りに運んでいるという感じを受けていた。その日は、全てを満足したかのように、シャワーを浴びるのも忘れてベッドに入り深い眠りについていた。

 翌朝、気持ちよく起き丸くオレンジ色に輝く太陽を見て、「よし、全てが順調だ」と自分に言い聞かせ、新しい一日に飛び出していった。

 しおりがすむマンションを探したり、入社後に実施してもらう案件の調整をしたりしてしおりを迎える準備が整った。里香にはしおりと同じプロジェクトに参加してもらうように調整をしていた。これが最終確認だと思いながら、翔は「我ながら用心深いな」と思っていた。そして、社長室をノックした。
「父さん、とてつもなくいい才能を持った女性に出会ったよ。できれば、引き抜いて、コンサルチームに入れたいんだ。これまで話をしていたシステム開発部門を立ち上げる時のトップとして働いてくれる自信があるんだ。ゆくゆくは、一緒になって、父さんに楽をさせてあげるよ」
「ほう、やっとお前も真剣になれる相手を見つけたのか。まぁ、お前がそこまでいうんだから信じることにするよ。それで、その子をこの会社に入社させてコンサルティングの学習をさせておけばいいんだな」
「うん、そうなんだよ。社内でいざこざが起きないようにしておきたいから」
「しかし、父さんに紹介するのは、システム開発部門の目処が立ってからにしてくれよ。それまでは、どうなるか分からんからな。それに、今投資戦略を練っているから、そのうちにお前に依頼する仕事で連絡することになると思うよ。ただし、まだ誰にも言っちゃいけないぞ。もちろん、彼女にもな」

 翔は、父親である社長に話すを通すとともにしおりを受け入れるための処理のため人事部に手続きに走った。全てが例外処理で一ヶ月後の六月には入社できるようにしたのだった。そうして、しおりは翔の会社に無事入社した。もちろん、しおりが勤務していた会社には父親である社長から説明がされていて、ゆくゆくは業務提携をしようという申し入れをしていたのでもちろん円満退職となっていた。しおりが入社した後はいくつかのコンサルティング案件のサポートを担当させ里香にその支援を担当させた。翔が思った通り、しおりはその才能を存分に発揮しクライアントの信頼を得ると同時に社内の信頼も得ることに成功していた。PMとしてのセンスがコンサルティングの後の開発プロジェクトを立ち上げる前に確認しておいた方がいい項目をクライアントに追加で報告していた。そのようなことは開発を経験したことがなければできないことだったので、付加価値としての評価と信頼を得ていったのである。そのことは、里香からの報告でも明白だった。しおりの仕事に対する姿勢や対応、リスク判断など一部始終について、里香からの詳細な報告を受け、翔は自信をもった。もちろん里香から翔に報告が入っているということはしおりは知らなかった。もし、しおりに気づかれたら、翔に対する信頼は跡形もなく崩れてしまうだろう。しかし、里香に任せておくことでその心配はないと確信していた。里香はこれまでもこれからも良き理解者であり協力者だったのだ。おそらく今後は里香に報告を求める必要はないだろうと翔は考えていた。直接しおりからはなくを聞けば同じ内容の情報を得られるだろうと再認識していた。全面的にしおりを信頼することで翔の心も安堵したようだった。これで計画を前進させることができると判断し、里香の将来についてフォローしておこうと考え、里香を面談に呼び出すことにした。里香の翔に対する淡い気持ちも知っていたので、里香には特に注意を払いながら対応していた。それだけ里香の能力は高いものだったのだ。これまでも里香の分析能力に助けられれてきたことがかなり多いし、社長に対しても大きな啖呵を切って自分の考えを貫き通すことができるタイプなので、これからも良き協力者でいてもらわないと大きな損失となってしまう。間違っても敵にはできないが、そうなることはないと信じていた。ただし、そのためには、里香としての不安材料を取り除いたり、支援してあげるということが必要だと考え、直接会話するタイミングが必要だと思っていたのだ。何事につけても早めのフォローは必要だし、余計な詮索をする時間を作らなくて済むので物事をスムーズに進める最善な考え方だった。もちろん、時間を割いて対応することになるので、誰に対してでもできることではないが、里香に対してはその価値が十二分にあると判断していた。


つづく


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