【SS】 窓の外は白い世界 (2896字) #シロクマ文芸部
目覚めると窓越しに見える景色は一面銀世界に覆われていた。外をじっと見つめている大夢は不思議な感覚に包まれながら、窓の向こう側の景色に釘付けになっていた。
「すごい景色だな。あたり一面真っ白で道路も埋まってるみたいだ。こんなの初めてみたな。そういえば二日間は真っ暗な中で過ごしたから、余計に眩しく感じるのかな。それにしても、こんな雪景色、生まれて初めてだな、綺麗だ」
大夢は沖縄生まれの十七歳。一面が雪に覆われる景色を見たことはなかったので、時間が経つのも忘れて外の景色を見つめていた。しばらくすると、子供達が何やら興味津々で大夢のいる家を見ている。一人の男の子が友達に話し始めた。
「おい、知ってるか。ここ、不思議ハウスって呼ばれてるんだぜ」
「ああ、知ってるよ。時々トラックが来ていろんな家具を真夜中に運び込んでるんだよね」
「そうだよ、よく知ってるな。でも、その家具がなんで運び込まれてるか知ってるか」
リーダー格の男の子が何人かの取り巻きに問いかけた。大夢は気づかれないように耳に意識を集中して子供達の話を聞いていた。しかし、男の子は周りの仲間に手招きして円陣を組ませ、小さな声で話し始めた。残念ながら大夢の耳には届かなかった。大夢は気になって仕方がなかった。どうしようかと考えた末、大きな声で叫んだ。
「おーい。家の外にいる男の子たち。もう少し家に近づいてくれないか。一緒に話をしようよ」
大夢の声が窓越しに男の子たちに届いたようだった。家の前にいた数人の男の子たちは、目をまんまるく見開いて驚いていた。とりわけリーダー格のように見えていた男の子は尻餅をついて後退りしている。どう見ても一番情けない格好でその場所から逃げ出そうとしているようだった。大夢はもう一度大きな声で話しかけた。
「怖がる必要なんてないよ。僕はこの家に住んでるんだよ。だからもう少しこっちに来てよ」
再び声をかけられ、男の子たちはパニックになり尻餅をついているリーダーのことなんか構いもせずに一目散にその場から駆け出して逃げてしまった。雪道を勢いよく駆け出したせいか、転んでしまう子がほとんどだったが、振り返ることもなく起き上がり遠くへと行ってしまった。取り残されたリーダー格の男の子は誰もいなくなり、急に恐怖が襲ってきたようだった。
「うぇ、うぇ、怖いよぅ。怖いよぅ」
「おい、坊主。どうした。いじめられたのか。あれ、いたずらっ子の丈二じゃないか。珍しいな、お前が泣いてるなんて」
「あっ、おじさん、助けて」
「ん、どうしたんだ」
「あのね。あそこの家の中からね。話しかけられたんだよ」
「はぁ、あそこは倉庫で誰も住んでないぞ。声をかけられるはずないじゃないか」
「でも、こっちに来てよって言ったんだよー」
「ははは、まぁ、猫か犬でもいたんだろ。ほら、立って。今日はまだ雪が降るらしいから早く家に帰れ」
通りすがりのおじさんに諭された男の子は一目散に駆け出して、家へと帰って行った。通りすがりのおじさんはチラッと家の窓の方を見て近づいていった。
「もしかしてあれかな、やっぱり。だとするとまずいな、向きを変えておくか」
通りすがりのおじさんというのは、実はここの倉庫の持ち主だったのだ。いろんな場所で買い集めた家具などを集めて保管をしている。それもいわく付きの家具ばかりだ。おじさんは子供が見えなくなると、倉庫の方に向かって歩き出した。
窓越しにその様子を見ていた大夢は「何かおかしい」と感じていた。全く知らないおじさんだったから無理もない。
「あの人は誰なんだ。僕は会ったこともない気がする。僕はここに住んでいるのにあのおじさんが家に入ってくるのはまずいよな。雪景色を楽しんでる場合じゃなくなってきたぞ。どうしよう」
大夢は、近づいてくるおじさんを恐怖に感じ始めていた。額からは恐怖のあまり冷や汗まで流れ始めている。わかっていてもどうにもできないという恐怖は大夢を絶望の淵へと追い込んでいった。
「父さんも母さんもいないし、どうすればいいんだろう。あのおじさん、まさか家の中までは入ってこないよな」
そう思いながら、じっと窓を凝視し続けた。窓越しに見えていたおじさんがふっと消えたと思った瞬間、玄関の扉の鍵を回す音が聞こえてきた。
ガチャ、ガチャ
大夢の恐怖はピークに達していた。もう、見ていることもできないしどこかに隠れるしかないとキョロキョロしている時、大夢がいる部屋の扉が開いた。姿を見られないように咄嗟にしゃがみ込んだ。そんなことにはお構いなく、おじさんは遠慮することなく部屋の中に入り込んできた。大夢は怖くて声を出すことはできずに心の中だけで小さな抵抗をした。
『ここは僕の家だぞ。早く出ていけ』
そばにやってきたおじさんは大夢の心を見透かしたかのように口を開いた。
「おい、大夢。見てたんだろ。隠れても意味ないぞ。ここは、俺が借りている倉庫だ。お前の家じゃないんだよ」
聞こえてはいたが大夢は口をつぐんだまま息を殺していた。
「あのなぁ、お前はさ、もっと自覚しろよ。もう、囚われの身になっているんだよ、お前は。そろそろ認識しないとそこでの生活はやっていけないぞ」
大夢は勇気を出して口答えをしてみようと立ち上がった。
「僕はここだ。そしてここは僕の家だ。関係のない奴は出ていけ」
「おお、やっと顔を出したな。でもまだ自分がいる場所がわかってないみたいだな。さっきも言ったが、ここはお前の家じゃない。それにお前は今、鏡の中にいるんだよ。二日前にここに運んできたのは俺なんだよ」
「・・・」
大夢は理解できないでいた。だが、過去の記憶がもどかしいくらいに断片的になっていることにも気づいていた。
『そういえば、この二日間は真っ暗だった。なぜだったんだろう』
「今、脳みそフル回転してるんだろ。昨日の夜までは黒い布で鏡を覆っていたんだよ。そして、それを外してやったのさ。窓の外が見えるように角度も調整してな」
大夢は懸命に自分に起きていることを理解しようと考えていた。しかし、鏡の中に入るということを、大夢の脳は受け入れなかった。
「お前は母親を侮辱してしまったんだよ。魔女である母親をな。それでお前は鏡の中に閉じ込められたのさ。母親はお前のことが大好きだったのにな」
大夢は母親に悪態をついたことを思い出していた。その時、母親は大粒の涙をこぼしていたことも思い出した。ただ、どんな言葉で母親を泣かせてしまったのかは、思い出せないままその場に座り込んでしまった。
「そんな。僕はお母さんが大好きだったのに。一体何を言ってしまったんだろう」
おじさんは、魔法の国の古道具屋の主人だった。倉庫に集めた品物はオークションにかけて売り捌かれる。もちろん、金持ちの人間を相手にしたオークションだ。三日後には大きなオークションが開催される予定で、大夢が閉じ込められた鏡も出品リストに掲載されている。世にも不思議な鏡のひとつとして。
窓の外はいつの間にか吹雪に変わり、全ての痕跡を消してしまうかのように元の景色がわからないほどの白銀の世界に変わり鏡に映し出されていた。
了
あとがき
季節がら雪の世界をイメージしてみました。それにどうせならファンタジーの世界の方が面白くなるかなと思い鏡を題材に使ってみました。
下記企画への応募作品です。
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