2月13日 苗字制定記念日 【SS】初めての苗字
【今日は何の日】- 苗字制定記念日
今では、「姓」のことを名字と書くが、以前は苗字と書いていた。その苗字をつけることが義務付けられたのが今日だ。
江戸時代、平民は苗字を使っていなかったが明治になり、平民が苗字を名乗ることを許可する「平民苗字許可令」という太政官布告が出された。しかし、なかなか浸透せずに、結果として五年後の1875年2月13日に「平民苗字必称義務令」という太政官布告が出された。これで、ようやく浸透していった様である。
【SS】初めての名字
「おーい、八つぁん。我々も苗字を名のらくちゃいけねえようになっちまったが、おめえさんは決めたのかい」
「ん、おや、又吉さんかい。いやー、急に決めろと言われてもね。松平とか名乗った日には捕まってしまいそうだしな」
「そうだよなぁ。長屋の連中はみんな川上の酒寺の和尚さんにつけてもらうと言って出掛けてったぜ。おいら達もついていってみるかい」
「おお、そりゃあいい考えだ。魚も売り切ってどうせ暇だったしよ」
こうして、八兵衛と又吉は、長屋の連中がこぞって向かったお寺に自分たちも行くことにした。しかし、このお寺の和尚は大の酒好きで有名だった。ろくにお経もあげないで昼間っから酒を飲んでいる様な和尚だった。それでお寺の名前もいつしか酒寺と呼ばれ、和尚のことは大酒和尚と呼ばれる様になっていた。この和尚に頼み事をする時には、酒を持って行くと大抵のことは聞いてくれたそうだ。八兵衛と又吉も安い酒をとっくりにいっぱいに満たして持っていった。
酒寺に着いた時、酒和尚は忙しそうに訪ねてきた人たちの苗字相談に乗っていた。
「お、次はお千代ちゃんか。お千代さんのおとっつぁんはまだ苗字をつけていないのかい」
「おとっつぁんは、毒三昧っていう苗字だから、うちはいやや。別の苗字をつけておくれ」
「そうか、だがな苗字は『家』を表すもんじゃから、おとっつぁんがもう苗字を付けたのなら、それに従うしかないぞ。どうせ、嫁に言ったら変わるんじゃからしばらく我慢しておれ」
「そんなら、仕方ないから我慢しとく。ああ、早くいい人現れないかなぁ」
「次は誰だ。なんだ、八兵衛、お前か」
「和尚、お前かはないでしょう。こうして酒も持ってきたのに。全く」
「おお、そうか、気がきくなぁ。で、お前も苗字か。お前のおとっつぁんはもう死んでしまったんだったな。じゃあ、お前は魚で飯が食えて今の長屋に住まうことができているんだから、そうだな。魚住じゃ。魚といっしょに住んでいるから、お前の苗字は魚住できまり。良いか」
「へい、わかりやした。あっしは、魚住八兵衛ってことですね。できれば、字を書いてもらえると嬉しいんですが」
「おお、そうか。八兵衛は字が書けなかったな。よし、書いてやる。ほらこれがお前の苗字だ」
八兵衛は半紙に書いた『魚住』という字を逆さまにして関心そうにみていた。
「ばかタレ。逆さまじゃ、さかさま」
納得したかのように八兵衛は半紙を逆さまにして見直していた。すると又吉が近寄ってきて、お前は魚住っていうのか。いい苗字じゃねえか。ところで、なんで苗字が必要なんだ。お前知ってるか。又吉は八兵衛に聞いた。
「いやー、知らん。つけろと言われたから付けただけだ。字も読めねえけどな」
「それじゃあ、だめだな。苗字を付けたっていうことは『家』という籍ができたっていうことなんだぞ。だからお前の家系も明らかにできるようになるってわけだ。相続する財産があるともめるかもな」
「ほう、そんなもんなんだな。まぁ、うちにゃあ、金はないから、騒動になることはねぇとは思うけど」
「次は誰じゃ。又吉か。お前は文字の読み書きができるんじゃったのう。ならばお前の苗字は、書可(しょか)と名乗れ。文字通り、書くことができるという意味じゃ。どうだ、いい苗字だろう」
「ありがとうございます。今日から、あっしは書可又吉ですね」
こうして、苗字という制度が徹底され、戸籍制度へとつながり、家族のつながりがより一層明確にできるようになっていった。たいていの苗字は、仕事や住んでいた場所、得意なことをもとにつけられていった。現代では数えきれないほどの苗字が存在し戸籍が存在しているが、もしかすると親戚でもなんでもないと思っている人と同じ姓だったり、他人だと思っていた人が親戚だったりするのかも知れない。全ては最初に苗字をつけた時に遡らなければわからないだろう。
現在の苗字の始まりは結構いい加減だったのかも知れないが、管理されるようになり、相続や税金なども間違いなく処理できるようになって行ったのではないだろうか。
了
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