【SS】 子供を連れ去る街クジラ #シロクマ文芸部
「街クジラって見たことある?」
「えー、あれは都市伝説だろ。夜の空に街クジラが現れると子供が消えるって言われてる話だよな。そんなことあるわけないじゃん。第一クジラは空を飛べないし街に現れること自体があり得ない」
「まぁ、そうなんだけどさ。俺の友達が見ちゃったんだって。先週の夜」
実は、街クジラと密かに呼ばれている飛行物体は存在していた。諸々の事情から月に一度だけ、都会の深夜の空に忽然と現れ、十分程度で忽然とまた消えるのだ。その真相は誰も知らないしニュースでも取り上げられないので都市伝説化していたのだ。
ここは、海底に作られた秘密基地。潮の満ち引きを利用して発電したものをエネルギーとして使っている。ここに「街クジラ」と噂されている飛行物体は隠されていた。運営しているのは、孤児だったにも関わらず大富豪にまでのし上がった、富海翔と言う人物だ。通称トミーと呼ばれていた。
海底基地で実施されていたことは、なんと虐待されている子供の救出活動だった。最近は小さな子供が命を失う事件が度々発生するようになっている。そのことに心を痛めたトミーは築いた私財を使って、そんな子供を救うチームを作り上げたのだ。未来を予測するAIを使い、命を落としてしまうかもしれない子供をリスト化し順番に救出し独自の施設で保護しながら育てていたのである。
実はこの活動は、水面下で政府に容認された活動だったのだ。少子化が進みこのままでは人口構成が破綻するという危機感をもった政府は、一人でも多くの子供を無事に成人させ仕事をしてもらいたいと願っていたのである。各自治体に任せた対応では限界があると考え、トミーの計画を容認していたのである。
トミーが救出した子供達は一旦施設に入り、その後新しい子供のいない優しい夫婦の元へ送り込まれていた。もちろん血液型や経済状況なども事前に調査され戸籍の記載にも実子として登録されていたのである。そして、救出元の家族には元から子供がいなかったように戸籍は改竄されていたのである。同時に虐待を行っていた親の記憶から子供の記憶も消し去って、最初から子供がいなかったという記憶にすり替えていたのである。子供がいなくなって追いかけられると面倒だからである。トミーは倫理的に正しいと思えないとわかっていながら、今はこの方法が命を救う最善の方法であると言い聞かせて活動していたのである。
今日もまた、トミーのチームは暗い空に出没して命の危機を抱えている子供達を救い出し続けている。街クジラの都市伝説は今もなお拡散中だ。
了
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