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11月6日 アパート記念日 【SS】縁というドラマ

日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。


【今日は何の日】- アパート記念日

1910年(明治43年)のこの日、東京・上野に日本初の木造アパートが完成した。

そのアパートは「上野倶楽部」という名前で、洋風の外観を持つ5階建て70室の賃貸アパートだった。上野公園に隣接しており、洗面所・浴槽・電話は共同で、入浴時には居住者が実費を負担した。

実際に住んでいた人たちの職業は、公務員や会社員、教師が主で、独身者はおらず、日本人だけでなくロシア人やフランス人の外国人も住んでいた。また、詩人の西條八十(さいじょう やそ、1892~1970年)はここで童謡『かなりあ』を作詞したと言われている。


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【SS】縁というドラマ

 最近では学生でもワンルーム・マンションに住むことが当たり前の時代になっている。親世代も共働きによって、それなりに収入があることも一つの要因だろう。

 そんな世の中になっても頑張っている世代や借金返済のためだったり、マイホームを実現するためだったりと住まいにかかるコストをできるだけ低く抑えようと頑張っている人たちも沢山いる。そんな人たちが住んでいるアパートがあった。

 都心からちょっと離れた各駅停車しか止まらない駅に、昔ながらのアパートがあった。駅から歩くと二十分くらいかかってしまう坂道を登った場所なので、お世辞にも人気があるアパートとはいえない。そのためか住んでいる人もあまり入れ替わりがなかった。大家さんは地元の農家さんで家賃も相場より二割ほど安く提供していたことも関係しているかもしれない。このアパートには一階、二階を合わせても四部屋しかない。もちろん、エレベータはない。アパートの前は駐車場となっていて追加料金なしで利用できる。賃料は一部屋五万円。六畳二間とダイニングキッチン、浴室、トイレがある。郊外とはいえ格安である。

 101号室には、家を借金の借金のカタに取られ、妻からも愛想を尽かされて離婚した四十代のおじさんが一人で暮らしている。競馬が趣味で仕事も転々としているようだ。当然、生活は厳しい。とても優しい性格なのだが、巡り合う人に恵まれていないような人生を歩んでいた。

 102号室には、未亡人の女性が住んでいる。まだ四十代だ。実は遺産がたっぷりあるのだが、羽振りのいい生活は危険だとわかっているので、質素な生活をするためにアパート住まいをしている。とても静かで世話好きな思いやりのある女性だった。

 201号室には、上京して四年目になる二十代の浪人の男の子が住んでいる。アルバイトのバーテンダーとして食い繋いでいるが、両親には大学にやっと合格して通い始めていると嘘をついている。ただ、バーテンダーの腕はメキメキと上達していて、全国のコンクールで上位入賞する常連になっている。ただ、勉強の方は苦手のようだ。

 202号室には、歌手を目指している若い二十代の女性が住んでいる。なかなか目が出ないのでファミレスのアルバイトで生活費を稼いで、週に数回、路上ライブを開いて歌っている。ただ、日頃の自信のなさが出ているのか路上ライブで足を止めてくれる人はまだ少ない。

 こんな住民が住んでいるアパートだったが、何やら最近は雰囲気が変わりつつあった。ある日、101号室のおじさんがトボトボと部屋に帰ろうとしていたところ、隣の102号室の未亡人から声をかけられた。

「お隣さん、どうしました。元気がないですね。背中が丸くなってますよ」

「ああ、お隣さん、こんにちは。いや、別にいつものことです。競馬で生活費を全部かけたら負けちゃいました。まだ、三週間もあるのに。はぁ」

「あらあら、ギャンブルはよくないわよ。仕方ないわね。じゃあ、ご飯作ってあげるからこっちで食べて行きますか」

「え、本当ですか。実は、お腹ぺこぺこなんです。ビールもあると嬉しいんですけど」

「まぁ、急に厚かましくなるのね。ありますよ、ビール。一缶だけね」

 こうして、102号室のお宅へとお邪魔することになった101号室のおじさんだったが、この後、面倒見のいい未亡人の世話を受けることへと発展していった。未亡人の女性の暖かく包んでくれる優しさに包まれ、101号室のおじさんはダンディな男性へと変貌し、定職につくこともできた。そしてギャンブルと縁を切り、101号室を解約して、102号室で未亡人と仲良く生活するようになった。

 一方、202号室の女性は、一人で路上ライブをやっていた。その日に限って場所を変えていたようだ。その場所が、201号室の男性がバーテンダーをやっている店の近くだったため、偶然にも路上ライブで遭遇してしまった。201号室のバーテンダーは、初めて聞く202号室の女性の透き通るような歌声に一瞬で虜になってしまった。しかし、その声の奥に何となく悲しさや諦めが隠れているような気がして気になった。曲が終わり、客がいなくなったところを見計らって声をかけた。

「同じアパートの202号室の女性の方ですよね。僕は、隣に住んでいるバーテンダーです。初めまして。こんなところでアパートのご挨拶って変ですけど、たまたまあなたの歌を聴いてしまって。もしよければ一杯ご馳走したいので、僕が働いているお店に来ませんか。ここからすぐですから」

「あ、ありがとうございます。お隣さんなんですね。歌を聞いていただきありがとうございます。バーテンダーさんだったのですね。すらっとした立ち姿が素敵ですね。私、そろそろ歌をやめようかなと思って今日はこの場所でライブしたんです」

 絶妙のタイミングだった。アパートの隣同士でもすれ違う時に会釈するくらいで話をしたことはなかった。それがこんな形で接近するとは二人とも思ってもいなかった。202号室の女性は201号室の男性が仕事をしているバーに行き、カクテルをご馳走になった。こうして、201号室の男性と202号室の女性は急速に距離が縮まり付き合いが始まった。202号室の女性は応援してくれる男性との出会いで再び勇気をもらい、感情を込めた路上ライブを展開するようになった。しばらくした後、それが音楽業界関係者の目に留まり、デビューまで決まってしまった。少し前に、202号室は解約され、201号室で男性と共同生活に入り幸せを掴んでいる。

 今このアパートには、101号室と202号室が空室のままだ。現在、大家さんは、入居者を募集している。大きな貼り紙がアパートの壁に貼ってあった。

『入居者募集中 三十代の独身男性、および三十代の独身女性に限る。 縁結荘』


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