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9月2日 宝くじの日 【SS】買わなきゃよかった

日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。


【今日は何の日】- 宝くじの日

第一勧業銀行(現:みずほ銀行)宝くじ部が1967年(昭和42年)に制定。

日付は「く(9)じ(2)」と読む語呂合わせから。当選しても引き換えられず時効となってしまう宝くじが多いことから、時効防止をPRすることが目的。


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【SS】買わなきゃよかった

「圭子、圭子、圭子、大変だー。当たってるぞー」

「どうしたの、あなた。朝っぱらからそんなに興奮して。何、食あたりにでもなったの」

「ば、ばか、そんな冗談言ってる場合じゃない。宝くじが当たったんだよ」

「全く、その程度のことで騒がないでよ。みっともない、で、いくら当たったの」

「前後賞合わせて十億円」

「そんだけで焦らないで。えっ、今なんて言った」

「前後賞合わせて十億円!」

「えーーー、見間違いじゃないの。大変じゃない。よくそんなに落ち着いてられるわね」

「だから、言ってるじゃないか〜」

 何の取り柄もなく出世もしなかった平野庄司だったが、圭子と共に駅前の宝くじ売り場で買ったジャンボ宝くじが当たってしまったのだ。連番で十枚だけしか買っていなかったが、見事に当選したのである。四十代夫婦の生活はこの当選を境に一変した。

 まず二人は、色々と調べて、当選金の受け取りまでの間に綿密な計画を練ることにした。宝くじには税金がかからないが、贈与してしまうとほぼ半分を贈与税として収めなければならない。なので、夫婦は、当選金をもらいに庄司だけが受け取りに行こうと考えていたのだが、それを改めた。子供のいない平野夫妻は一緒に銀行に受け取りに行き、五億円ずつ受け取ることにしたのだ。もともと、一緒に買った宝くじなので何の問題もない。そうすることで、贈与税の発生を避けられる。その後、夫婦は新しい銀行口座を二つずつ作ることにした。今後の生活費用として、お互いが一億円ずつ入金した口座を準備、そしてそれぞれが思い思いに使うための口座に残りの四億円を入金し、お互いに干渉しないという取り決めをした。そして、庄司は会社に退職届を提出し、圭子はパートを辞めた。

 普段手にしない大金が手に入ると人は変貌するのである。この二人も例外ではなかった。というより、その逆でそれまで抑え続けてきた欲求を爆発させてしまった。それまではお金がないからと我慢していた理性のストッパーが完全に外れたのである。何となく生活資金の口座を作ったことで安心してしまい、それ以外のお金は自由に使っていいのだという錯覚に陥っていた。

 庄司は、狭かった家に見切りをつけ、大きな一軒家を購入した。不必要に多い寝室や庭があり、車庫には車が5台は止められるスペースがある。当然車も購入した。そうすると、それに合わせた服や調度品も必要となり、買い漁った。あっという間に口座の残高は減少し、半分以下になってしまった。また、妻の圭子も負けてはいなかった。欲しかった宝石を大量購入し、自分だけの別荘と車を購入し服や靴、バッグ全てをブランド品に取り替えた。圭子の口座もいつの間にか、半分以下に減少していた。二人は、その後憧れだった海外旅行も楽しみ、湯水の如くお金を使いまくってしまったのだった。

 そして、どこからか宝くじ当選のことを聞きつけた遠い親戚が金の無心にやってくるようにもなり、二人は無視し続けた。寄付の依頼も多数押し寄せてきた。二人を取り囲む環境が以前とは全く別なものになってしまったと気づいた時には、銀行口座の残高が少なくなっていた。生活資金のためにと思って別にした口座も、購入した家や別荘のとんでもなく高い光熱費でどんどん減少していった。二人は、以前の生活レベルであれば余裕で一生を生活できると思っていたのだが、自ら生活レベルを不必要に上げてしまい、ランニングコストの急激な上昇を抑えることはできなかった。

 宝くじに当選してから十年が過ぎようとしていた時、二人の口座にはほとんど残高が無くなっていた。気づいた時にはもう遅い。慌てて、家や別荘を売却しようとしたが、相場は低迷しており、買った時の二割程度の値段しかつかない。しかし、背に腹は変えられない。二人は、持っているブランド品も合わせて売却し、生活資金を確保した。

 結局、宝くじが当たる前に住んでいた家よりも小さな家を借りて住むことになり、夢のような十年間の生活は幕を閉じた。夫の庄司はその間仕事もしていなかったため、仕事も見つからない。資産を処分したお金でこの後の生活を支えていかなければならなかった。そして、ここで、責任のなすりつけあいのような夫婦喧嘩が勃発し、二人は全ての財産を二分して離婚することになった。

 二人は、自分たちの過ちに気がついたが、引き返すことはできなかった。そして二人とも、懲りることなく今でも夢を追いかけ、宝くじ売り場に足を運んでいる。


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