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6月18日 父の日 【SS】羨望

日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。


【今日は何の日】-父の日

父への感謝を表す日。英語表記は「Father's Day」。日本やアメリカでは6月の第3日曜日に祝うが、その起源は世界中で様々であり日付も異なる。

1910年(明治43年)、アメリカ・ワシントン州スポケーンのソノラ・ドット(Sonora Dodd、1882~1978年)が「母の日のように父にも感謝する日を」と提唱したのが始まりとされている。そのきっかけは、彼女が男手1つで自分を含む子供6人を育ててくれた父を讃えて、教会の牧師にお願いして父の誕生月である6月に礼拝をしてもらったことであった。

1966年(昭和41年)、アメリカ第36代大統領リンドン・ジョンソン(Lyndon Johnson、1908~1973年)は、「父の日」を称賛する大統領告示を発し、6月の第3日曜日を「父の日」に定めた。1972年(昭和47年)に、アメリカでは正式に国の記念日に制定された。


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【SS】羨望

 また嫌いな日がやってくる。私は父の日が近くなると気が重くなる。学校では、「お父さんへの感謝の言葉を手紙にしましょう」とか言って、感謝する相手のいない私には地獄の時間。「お父さんがいない人はお母さんに手紙を書きましょう」と言われるけど、そんな簡単に気持ちは切り替えられない。だって、一月前にお母さんへの手紙を書いたばかりなんだから。私は、小学五年生、千早薫。お父さんの顔を知らない。

 十二年前、いさむさくらは同じ職場で知り合い、結婚した。周りも羨むくらいのお似合いのカップルだった。付き合い始めて三年が経過し、勇はプロポーズし桜と結婚したのだ。結婚式では全員を招待することができなかったが、職場のみんなは式場の前に全員集まってくれ祝福してくれた。そして、職場の中で世話焼き好きな人が音頭を取ってなんと職場の人間だけでお祝いの会を開いてくれたのだ。勇と桜は嬉しすぎて、ずっと涙を流しっぱなしだった。十二年前、二人は幸せの絶頂にいた。

 結婚して一年位経った時、桜は身籠った。そう、お腹の中には薫が宿っていたのだ。いち早く勇に伝えたかった桜だが、出張から勇が帰ってくるまで秘密にして驚かせてあげようと思い、電話で話したい衝動を必死に我慢して勇の帰りを待った。夕方には戻ってくる予定だったが、なかなか帰ってこない。ウキウキしていた気持ちがだんだん心配な気持ちに変わっていった。遅くなるなら電話くらいしてくれてもいいのにと思っていたら突然電話がなった。桜を嫌な予感が襲った。

「もしもし、こちら静岡県警ですが、ご主人が乗っておられた車が高速道路で事故に巻き込まれまして、先ほど市内の市民病院に搬送されました。市民病院まで来ることはできますか」

「えっ、あの、人違いではないでしょうか」

「えーと、所持されていた免許証では、杉原勇さんとなっておりますが、奥様ではございませんか」

「い、いえ、杉原勇は私の夫で、私は勇の妻です。杉原桜と申します。すぐに病院に行きます」

「よろしくお願いいたします。もしお車でしたら事故には十分気をつけください。それでは、失礼します」

「は、い」

 頭の中が真っ白になって何を言っているのか自分でも解らなかった。それでも、すぐ近くに住んでいる両親に電話をして、病院までついてきてもらうことでなんとか正常な心を保ち続けた。両親に助けられながら病院に着いた時、ベッドで横たわる勇にはすでに白い布がかけられていた。桜はその場で崩れる様に倒れて気を失ってしまった。気づいた時には病院のベッドに寝かされていた。目を開けると両親が心配そうに覗き込みながら見守っていてくれ、現実なんだと思った途端に、泣き崩れた。両親も一緒になって泣いてくれた。

 そんな出来事があったものの、薫をなんとか無事出産し十一年の歳月を過ごすことができていた。両親や職場の人たちに助けられたことが大きかった。しかし、薫はそんな勇の顔を知らないで育ったので、父の日が近づくと憂鬱になるのである。同時に父親がいる友達を羨ましく思ってしまうのである。すると心無い言葉を母親にかけてしまうこともあった。

「お母さん、私もお父さんが欲しいよ」

「薫、お父さんはお星様になったからお空にいるのよ」

「そんなの嘘だ。死んじゃったんでしょ、薫のお父さん」

「でもお父さんが一生懸命働いていてくれたから、あなたもこうして大きくなれたのよ」

「大きくなれなくてもいいもん。お父さんがいた方がいいもん。父の日なんて嫌いなんだから」

「そんなにお母さんを困らせないで」

 父の日が近くなるとこんな会話が親子で交わされることが桜としても辛かった。それでも薫が成長して中学生になり、さらに高校生になった頃にはだいぶ変わっていた。

「お母さん、食事の支度は私がやっておくわね。今度の父の日、お墓参りに行くでしょう。私の好きな花を買ってきていいかな。いつも菊だとお父さんがかわいそうよ」

「そうね、じゃあ薫にお願いするわ。いつの間にかお母さんより背が高くなったのね。ふふっ」

「へへ、成長期ですからね。ねぇ、お母さん、私はもう大丈夫だから、お母さんも新しい恋でも探してみたら。まだ若いんだし。きっと天国のお父さんもそう思ってるわよ」

「まぁ、この子ったら。もしかしたら、好きな男の子でもできちゃったのかなぁ」

 成長するということは、相手の気持ちを推し測るということなのだろうか。桜と薫はお互いのことを思いやりながら日々生活できる様になった。神様は、もしかすると新しいお父さんとの出会いを作ってくれるのかもしれない。薫は心の中でそう祈っている。


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