11月1日 いい医療の日 【SS】頼れる先生
日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。
【今日は何の日】- いい医療の日
日本唯一の医師を代表する職能団体である公益社団法人・日本医師会がに制定。
日付は日本医師会が設立された日が1947年(昭和22年)11月1日であり、「いい(11)い(1)りょう」(いい医療)と読む語呂合わせから。より良い医療の在り方について、国民と医師とがともに考えながら、さらなる国民医療の向上に寄与していくことが目的。記念日は2017年(平成29年)に一般社団法人・日本記念日協会により認定・登録された。
日本では、公衆衛生の向上に多大な貢献をした世界的細菌学者であり、同会の設立者でもある北里柴三郎(1853~1931年)をはじめとする医師たちの努力、優れた保健医療システムや法整備により、感染症の蔓延を防ぐための対策がとられている。しかし、世界では今もなお、結核をはじめさまざまな感染症が蔓延し、脅威となっている。この日は、日本の医療の良さを改めて感じてもらうと共に、自分や家族の健康について今一度考えてみる日。
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【SS】頼れる先生
誰でも病院には行ったことがあるだろう。もしかすると定期的に通っている人もいるかもしれない。今の時代は、かかりつけの病院と言う存在を持っておいた方が何かと便利なようである。
今年四十五歳を迎えるサラリーマンで、年中病院通いをしている体が弱い敏雄という男性がいた。彼には、妻と女の子の家族がいる。しかし体が弱いこともあり、毎年有給休暇を全部消化してしまうほど休みを取っていたため、同期からは大きく遅れ、いまだに平社員に甘んじているようである。敏雄には、小さな頃からいつも通っていた内科医院が近所にあった。敏雄は生まれた家に両親と二世帯で住んでいる。なので、家族全員が近くの内科医院にはお世話になっているのだ。いわゆる掛かり付け医である。病院名は「健康第一病院」という、いかにも元気そうな名称で覚えやすかった。院長は康原健一で、名前から病院名を思いついたといつも患者に自慢している。その院長もすでに八十歳近くになっており、少し前に息子の健治に院長職を譲り、引退したようだ。
以前の院長時代は、問診がメインで根掘り葉掘り根気よく患者の状態を聞き出して病名を探り、処置につなげてくれていた。そのため一日に見ることができる人数に限界があり、いつも院長は「申し訳ないな」と言っていた。とっても頼りになる先生だった。それだけに名残惜しかったのもあるが、人は老いには勝てない。いつかは交代しなければならないのも患者を含め家族もみんなわかっていた。遅すぎるくらいのバトンタッチだった。
二代目として健治が引き継いだのだが、方針は全く違っていた。父親が患者にしっかりと寄り添う診療を心がけていたのだが、二代目の健治は、知識的にも父親には遠く及ばないことを分かっていたし、自分の残りの人生を捧げても追いつくことはできないだろうと自覚していた。だから、同じことをやっても「先代の院長はよかったねぇ」と言われるだけだと思い、新しいやり方を導入することを決心したのだ。二代目院長の健治はスタッフを集めて宣言した。
「みなさん、父の代から継続して働いていただきありがとうございます。私は父と同じやり方を踏襲することはできません。それだけの知識を持ち合わせていないのです。しかし、一人でも多くの患者さんを救いたい、手を差し伸べたいという気持ちは父に負けてはいないと思っています。それで、色々と悩みましたが、私の知識不足をコンピュータに補完して貰いたいと考えました。そのシステムを本日から導入します。患者さん自身でシステムに問いかけることも、私の診察結果で問いかけることもできるようなシステムです。AIを活用し、病気の特徴を学習したシステムが、患者さんの症状から可能性のある病気の候補を選出してくれるのです。すでに、大手の病院などでは利用が促進されていましたが、私たちのような個人病院での利用はありませんでした。そこにあえて挑戦したいと思っています」
「先生、具体的にはAIが下した病名を元に治療を進めるということでしょうか」
「そんな場合もあるでしょう。ただ多くは可能性が高い病気の候補を知らせてくれるだけなので、みなさんの力を借りて原因となっている病気を突き止める作業は残るでしょう。ただ、病気の候補を出すまでの時間は大幅に短縮されます。よって、父の代の時よりも多くの患者さんの診察が可能になることを目指したいのです」
「うわっ、それって、私たち看護師は今より忙しくなるということですよね」
「単純に考えればそうですが、当然、人員強化も視野に入れてますよ。みなさんは私にとって大切な方ばかりですから」
こうして二代目健治の病院運営は始まった。システムを相手に問い合わせるという行為自体が、なれていない人ばかりだったので、最初は以前同様、診察待ちの長い行列ができていた。しかし、次第に若い人を中心に症状が軽い人はシステムに問い合わせる習慣がつき始めていた。そんな時、敏雄が風邪気味の症状でやってきた。久しぶりに病院に来たので、AIシステムが導入されていることを初めて知って驚いた。そして、その操作がわからずオロオロしていると、看護師が近づいてきて、操作方法を丁寧に教えてくれた。
敏雄は、二代目院長になってから、初めて病院にやってきた。最初は雰囲気が随分と変わっていることに驚いたし、いきなり出迎えてくれたのが自分で操作するディスプレイというのにとまどった。そばにいた看護師が親切に教えてくれたので、難なく操作できたのだが、その結果に驚いた。わずか五分ほどのやり取りで考えられる病名と対処法が画面に表示されたのだ。そして、表示された内容に納得した場合は、そのまま先生の診察を受けなくても、処方箋が出力されるので薬局に直行できてしまう。自分の体のことを知っている敏雄は表示された内容にコクンコクンと頷きながら処方箋印刷のボタンを押した。
「おお、これは凄いな。ずっと待って診察を受けていたら一時間以上かかることが、こんなに簡単にできてしまうんだ。いやー、このシステムは頼りになる先生だなぁ。院長先生が休みでもこのシステムが動いていれば問題なさそう。薬もらって帰ろう」
思わず大きな声でそう言ってしまったものだから、患者さんや看護師さんの笑いを誘ったようだ。診察室の中では、二代目院長が苦笑していた。
了
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