8月4日 吊り橋の日 【SS】愛を繋ぐ橋
日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。
【今日は何の日】- 吊り橋の日
日本最長の鉄線の吊り橋「谷瀬(たにぜ)の吊り橋」など、村内に約60ヵ所の吊り橋があり、その数は日本一といわれる奈良県吉野郡十津川村が制定。
日付は「は(8)し(4)」(橋)と読む語呂合わせから。村の急峻(きゅうしゅん:傾斜が急でけわしいこと)な地形が生んだ吊り橋は、人々にとって切っても切れない命の道。毎年この日は谷瀬の吊り橋の上で太鼓を叩く「揺れ太鼓」という「つり橋まつり」を行い、吊り橋に感謝をする日としている。記念日は一般社団法人・日本記念日協会により認定・登録された。
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【SS】愛を繋ぐ橋
山深いところに深い谷を挟んだ二つの村があった。お互いの村に行くには、一旦山を降りて川を渡り、再び山に登って来なければ谷の向こう側にはいけない。普段は交流のない村同士だったため、誰もそれが不便だとは思ってもいなかった。それどころか、隣の村から人が簡単には入って来ることはできないので、安心する気持ちの方が強かった。それに加えて、谷が国境になっていたため、おいそれと橋をかけるわけにもいかない事情もあった。国交のない関係でもあり、もし、国と国が戦闘状態にでもなってしまうと、橋を架けてしまうと敵国の兵士が雪崩れ込んでくる心配もあったのだ。
しかし、そんな村でも人の愛には谷を作ることはできない。今年二十三歳になるラグナルは、谷の向こう側に住んでいる今年成人のグリナをいつしか好きになっていた。ラグナルは目の前の谷に吊り橋を掛けたかったが、まさか女性に会いたいから橋を架けようなどとは言えるはずもなく、時が過ぎて行った。時折、谷越しにグリナを見つめているうちに、グリナもラグナルの視線を感じ、気にするようになっていった。二人は、年に数回山を降りて買い物に行く際に少しだけデートを重ねるようになっていた。
時々逢うようになると、もっともっと逢いたくなるものである。ましてや、若い二人である。お互いの小さかった頃からの話など、尽きることなく話をしていたいのだ。しかし、お互いの村の特産物の話はほとんどしたことがなかった。お互いの村の事情には触れない方がいいと無意識に思ったのかもしれない。それでも、広がる話の中で、ふとしたことから村で不足しているモノの話になっていった。
グリナの住む村では、布を染めるための花が沢山採れるのだが、肝心の布は麓の街から仕入れなければならない。山の上まで白い布を運び上げて、赤や青の染料で綺麗な色に染めあげた布をまた麓の街に持っていって売っていたのだ。一方、ラグナルの村では蚕を飼っており糸を紡ぎ出し、白い布にして麓に持っていき売っていたのだ。二人は、この話をしていて気づいた。もしかすると、ラグナルの村で作った布をグリナの村人が買い付けて染めていたのではないかということに。もし、そうならば、ラグナルの村で紡いだ糸をグリナの村で染めて、その後に布にすれば今よりも繊細な色合いで美しい布が作れるはずである。そうなれば、お互いの村の収益の増加につながるだろうと二人は考えた。そして、ラグナルは言った。
「グリナ、僕らの村を遮断している谷に吊り橋をかけて行き来できるようにしよう。そうすれば、お互いの村同士で助け合い、もっと裕福な村になれるかもしれない。村人を説得する価値はありそうだよ」
「そうね、ラグナル。私もそう思うわ。じゃあ、それぞれの村長に説明してみましょうよ」
こうして、二人はそれぞれの村に帰り、村の間に吊り橋を架けることは利益につながるということを訴えかけることにした。早速、ラグナルは村に戻るや否や村長のところに行き話をした。
「村長、お話があります。少し、よろしいですか」
「どうした、ラグナル。珍しいな、お前がここに来るなんて」
「はい。実は、谷向こうの村と協業できればお互いの村の収益を増やせるのではないかと気づいたのです。我々の村で作った糸を谷向こうの村の染料で染め、それで布にすればより美しい布を織り上げることができるはずです。そのためには谷に橋を架けてお互いに行き来できるようにした方が、お互いの村の発展につながることでしょう」
「ほっほっほ、そうか、そうか。そのことにやっと気づいてくれる若者が現れたか。過去からの言い伝えを守るだけの他の連中とは少し違うようだな、ラグナル」
「えっ、村長。どういうことですか。もしかして村長はご存じだったのですか」
「ああ、知っていたとも。そもそも大昔には谷にロープを架けて、物資だけを行き来させられるようにしていた時代があったんじゃ。しかし、その品物を密かに横取りするものが出てしまい、谷向こうの村とは犬猿の仲になり、以来、交流は途絶えたのじゃ。その時の犯人をお互いに相手の村の者だと言い張り、結局犯人は分からずじまい。モヤモヤしたままの交流断絶になったと言うことじゃ」
「そうだったのですね。そして何百年もそのままになっていたなんて信じられません。もっと早くに交流すべきだったのに、なぜ放置していたのですか」
「うむ。過去を知っているものが全て亡くなり、伝え聞いた者さえいなくなった後、誰かが気づいた時が再開の時だと思っておったのじゃ。そして、ラグナル、お前がやってきた」
谷向こうの村では、グリナが同じように村長に掛け合っていた。驚いたことに、ラグナルと全く同じ内容の問答が交わされたのだ。そうなると話は早い。お互いの村の使者が今後の交流を目的とした橋を架けるための話し合いに麓の街で合流した。ラグナルは村長から命を受け、使者となり、谷向こうではグリナの兄フィンレイが使者となった。二人は、お互いの村人が安心して渡れるような丈夫な吊り橋を架けようということで意見は一致し、綿密な計画を策定した。吊り橋に使う太い縄はお互いの村で半分ずつ担当して作ることにし、村人に腕を競わせようと考えていた。そうすることで早い仕上がりを期待したのだ。
半年後、吊り橋は完成しラグナ橋と名付けられた。お互いに往来が自由になり、美しい布を生産できるようになり、両方の村は裕福になっていった。そして、若い二人も村人の祝福を受け、めでたく夫婦になり、お互いの村の発展のために頑張っている。
了
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