5月7日 世界笑いの日 【SS】病気のない国
日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。
【今日は何の日】- 世界笑いの日
世界的な笑いヨガ運動の創始者マダン・カタリア博士(Madan Kataria)によって1998年(平成10年)に提唱された。
英語表記は「World Laughter Day」で、日本語では「ワールドラフターデー」という表記も見られる。最初の記念日は2008年(平成20年)7月28日にインドのムンバイで実施され、現在は5月の第1日曜日に実施される。
カタリア博士はインドの家庭医(family doctor)であり、笑うことが健康に良い影響を与えるという説から、笑いヨガ運動を勧めてきた。笑いヨガは、従来のヨガの呼吸法に笑いを取り入れた健康法である。
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【SS】病気のない国
広い地球上には不思議な王国が存在する。こんなに発達した情報網を駆使しても表示されない国が存在している。「隠れた笑いの国」と呼ばれている国である。この国には病院が極めて少ない。なぜなら病気がないからだ。建国以来、他国との交流を禁止しており、外部から細菌やウィルスを持ち込むことが一切ないことも一つの要因にはなっているのだろう。病院が存在する意味は、ケガをした際に手当をするために存在しているといってもいいくらいだ。国民は自給自足を実現し、日当たりのいいところで、太陽の光を燦々と浴びた野菜が中心の食事をしている国だった。
この国には、医者という職業についている人は少ないが、笑い方を教える先生はたくさん存在する。この国の人にとっては「笑うこと」が健康を維持する唯一の方法だと信じられているのだ。たしかに、無理にでも笑い続けていると、悲しむことが馬鹿らしくなり、前を向くことだけを考えるようになるということがいいのかもしれない。とある「笑い教室」での先生と生徒の間でよく聞く会話がこうだ。
「はい、みなさん、常に目尻を下げて、口角が上がっているということを意識してくださいね。はい、鏡を見て自分の顔を確認してください。どうですか」
「先生、口角は上がりますが、目尻は下がりませーん」
「はい、そうですねー。目尻を下げる筋肉は動かせませんよね〜。あくまでも目尻の場合はイメージですよー。口角をあげるとほっぺが少し盛り上がった気分になるでしょう。そのときは目を細めたような感じになると思いますが、眉毛を上に上げるようにすると目をぱっちり開くことができるはずです。そうすればニコッとした口元と大きなパッチリとした目になれますよ〜。あんまり眉毛に力を入れ過ぎるとおでこにシワができますから気をつけてくださいね〜」
「先生、なんとかできました。でも結構辛いです」
「はい、辛いですね〜。でも慣れてくるとそれが普段の顔になりますよ〜。頑張りましょうね。できれば、そのままの顔で眠れるようになりましょうね〜。先生は寝顔もそのままですよ〜」
「すごーい。先生、私も頑張りまーす」
こんなやりとりがよく見られる。この時の生徒は小学生だった。この国の大人たちは、すでに笑顔が出来上がっているので余程のことがないと笑顔を教えてもらう教室に来ることはない。大人になると笑顔の作り方では無く、声の出し方を習いに来るのである。可愛らしさを強調する笑い声とか、尊厳を示すための笑もあるのだが、基本的にはお腹からの健康的な笑いを最初にマスターさせられるのだ。
「では、みなさん、お腹の胃袋付近に手を添えてくださーい。そして一度お腹を引っ込めるように力を入れ、息を吸い込んだ後、口を大きく開け遠慮なく大きな声を出して笑いましょう。ワッハッハッハ」
「先生、大きな口にするのは恥ずかしいです」
「はい、女性はそうですね。でもここでは大きな口を開けて構いませんよ〜。あと、家でも一人の時は大きく口を開けて笑いましょうね。そうすると顔の周りの老廃物が綺麗に流れていきますよ〜。美しい顔の維持と強い体を作るのには必要なんです」
「先生、わかりましたー。ワッハッハッハー」
こんな光景はこの国では毎日のように繰り広げられている。この国の中を歩いていると、笑い声を聞かない場所は人がいない場所だけといってもいいくらい笑い声に溢れている国なのだ。街中を散歩していると、異様に大きな声で笑っている集団がいた。涙が出るほど高らかに笑っている。よく見ると、みんな喪服を身に纏っている。そう、この国ではお葬式の時もずっと笑っているのだ。流れている涙は悲しみの涙なのだろうが、みんな大きな声で笑っているので、ちょっと異様な感じは受ける。そして、ここまで徹底して笑いにこだわるから思い悩み続けることが無くなるのだろうと感じた。
この国は、小さいながらも全てを助け合いの自給自足で成り立っている国である。それを互いに支えているのが、国民の笑い声だ。笑い声が聞こえないと人々は心配して様子を見に来てくれる。国中が一つの家族ような暮らしができているのだ。こんな国では、個人情報保護なんていうものはなんの役にも立たないし、必要もないので考え自体が存在しない。
しかし、最近少しずつ綻びも出始めてきた。外の国を見てみたいという若者が増加し、国としても許可を与えざるを得ない時代になりつつある。まだまだ、少ない人数ではあるのだが、国外へ行き戻ってくるものが出始めたのだ。国に入る前には厳密に検査され細菌やウィルスを持ち込まないように一ヶ月間隔離されるルールが新しく出来上がっていた。それでも、生き残ってすり抜けてくる細菌も発生し、病院での治療の必要性が高まってきたのだ。国としては急ぎ対応すべく病院の追加建設にも着手し始めた。
国王は頭を抱え始めた。広く世に出て知識を広げることは奨励したい。しかしそのことにより国内に病気が蔓延することは避けたいし、笑いがなくなることも避けたい、そのためにはどうすればいいのだということを考える日々が続き、笑顔を忘れ考え過ぎてついに天国に召される日がやってきてしまった。国民は全員が大きな声で笑い、大粒の涙を流しながら国王の死を悲しんだ。
後を引き継いだ新国王は決断した。新しいことを求めようとすれば、何かを失うことになる。しかしそれを恐れていては、人間として生きている楽しみを追いかけることができなくなってしまう。病気との戦いが待ち受けているかもしれないが、国民持ち前の笑いだけは絶やさずに挑戦していくことをやってみようと考えたのだった。そして、国は開国し、地球上の誰もが知る国となった。同時に国内でも貨幣の流通が始まり、個人資産が増加していったため、個人情報保護法が規定され、自給自足の助け合いの運営に支障が出始めている。
了
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