1月27日 求婚の日 【SS】私で良ければ
【今日は何の日】- 求婚の日
1883年(明治16年)のこの日、日本で新聞に求婚公告の第一号が掲載された。中尾勝三郎という人が「先頃女房を離縁して不自由勝ゆえ、貧富を論ぜず、十七歳以上二十五歳にて嫁にならうと思ふ物は照会あれ」という求婚の広告を出した。当時はユニークな広告が新聞に掲載されていたのである。結果、近くに住む十九歳の女性が応募してきてめでたく結婚したとのこと。今ではなかなか考えられないことである。
【SS】私でよければ
自分のことより一生懸命な他人のことをいつも考えている不知火愛というちょっと不思議な女性がいた。一生懸命な誰かが幸せになるのであればそれは自分の喜びでもあるといつも考えていた。
そんな彼女には近寄ってくる男性も何人かいたが、遊びで誘う男性も多かった。女性は真剣に話さない人に対しては、流石に自分を犠牲にする気持ちにはなれず、冷たい態度であしらっていた。そんな中、同じ会社の中で働いているちょっと身長が高くほっそりとした中性的な男性の「氷川つよし」という男性から呼び出され告白された。
「愛さん、入社以来、君を見てきてとても優しい君の性格に惹かれっぱなしです。僕と結婚してくれませんか。今すぐに返事は聞かせてもらわなくてもいいです。連絡をお待ちしています」
「あ、私、なんて言ったらいいか。とっても嬉しいです。思っていただけて」
愛は、隣の部署で働いている氷川を知っている。何に対してもとっても一生懸命な人だなと思っていた。そして「期待に応えたい」と密かに思った。
同じその日は、コピー機の保守点検の日である。保守会社との窓口担当だった愛は担当者が来るのを待っていた。そこに保守会社のエンジニアである「立華ひかる」がやってきた。
「不知火さん、いつもお世話になっています。点検のあとちょっとお話があるのですがよろしいですか」
「はい、大丈夫です。では点検が終わったら会議室Aにいらしてください」
「ありがとうございます。ではのちほど」
保守エンジニアの立華は手際よく点検を済ませ、点検結果の報告書を持って会議室Aに入った。
「失礼します。不知火さん、まず点検結果は問題がなかったことをご報告します。こちらが報告書です。いつものようにサインをお願いします」
「はい、記入しました。それでお話というのは何でしょうか」
「実は、私事で恐縮なんですが、不知火さんにどうしても伝えたいことがあります」
「はい」
「僕と結婚していただけないでしょうか。以前から思っていたのですが、なかなか言い出す勇気がありませんでした。でも後悔だけはしたくなかったので、勇気を出して今日話そうと決めていました。すぐに返事をくださいとは言いません。考えていただいてから連絡をいただければと思います。これが僕の個人の電話番号とラインです」
「あ、私、なんて言ったらいいか。とっても嬉しいです。思っていただけて」
◇ ◇ ◇
何と同じ日に二人の男性から求婚されてしまったのだ。愛は、どちらかを選ぶということは選ばなかったほうを不幸にしてしまうと考えてしまった。この男性同士には面識はなかったが、愛は一生懸命彼女なりに考え、一つの決心を導き出した。そしてスマホを取り出した。
「あなたの申し出にお返事を差し上げたいので、一月二十七日、午後三時、渋谷駅前のカフェ・ベローチェに来ていただけますか」と二人の男性にラインを送った。もちろんグループではなく別々のラインで。二人の男性からはずっとスマホを見つめていたのかと言うくらい早い返信が入った。「わかりました。伺います」と、なぜか二人の男性からは全く同じメッセージだった。そのメッセージを見て、愛は自分の決心は間違っていないと確信した。
待ち合わせの時間の三十分前に愛は喫茶店に着いていた。コートを脱いで静かにコーヒーを飲みながら二人の男性の到着を待った。約束の時間の五分前、二人の男性が喫茶店のドアを譲り合うように入ってきた。二人共キョロキョロして愛を探している。愛は、少しだけ恥ずかしそうに右手を上げた。二人の男性はまっすぐに愛のところにやってきて二人共「こんにちは、愛さん」とハモるように声をかけ、お互いにびっくりして顔を見合わせていた。男性たちはその場に自分ではない男性がいることを理解できないでいた。
「氷川さん、立華さん、おかけください。私はお二人にラインを送りました。ごめんなさい。実は私は氷川さんと立華さんの両方から同じ日にプロポーズされていたんです」
男性の驚いた顔はピークになり、自分の恋敵だと知った。しかし取り乱しては行けないと思い、至って平静を装った。そして、愛は自分が出した結論を静かに語りだした。
「私は、お二人からプロポーズされとても嬉しく思いました。でもどちらかを選ぶということは不幸になる人を作ってしまうことだと思ったんです。それでお二人に来ていただきました」
氷川と立華は、共に振られるんだと一瞬で感じ取り、やさしい愛ならきっとそうするのだろう、今回はタイミングが悪かったなと心の中で考えていた。
しばらく静寂の時間が流れ、愛は口を開いた。
「私で良ければ、お二人のプロポーズをお受けします」
驚いたのは、氷川と立華だった。二人は同時に席を立ち、同じセリフをハモるように言い放って喫茶店を出ていった。
「プ、プロポーズは無かった事にして下さい」
愛はひとりポツンと伝票とともに、喫茶店に取り残された。
了
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