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6月11日 傘の日 【SS】雨の日のデート

日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。


【今日は何の日】-傘の日

1989年(平成元年)に日本洋傘振興協議会(JUPA)が制定。

日付はこの日が暦の上で「梅雨入り」を意味する雑節の一つ「入梅」になることが多いことから。この季節の必需品である傘の販売促進と傘の使い方などモラルの向上が目的。


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【SS】雨の日のデート

 君と出会ったのは、梅雨に入った時の雨の日だった。湿気も多くてムシムシしている日で気が滅入っていたけど、君は飛び抜けに明るい顔をして僕の前に現れたね。たしか水色の傘と水色のワンピースだった。傘とお揃いの服ってすごいなぁと思ったんだよ。そしたらレインシューズまで同じ色だった。

「あれ、もしかして傘を持ってきてないんですか。天気予報であれほど雨って言ってたのに」

「あ、はい。家を出る時は降ってなかったので」

「ダメですねー、雨を楽しむには傘がないといけません。じゃあ、一緒に駅まで行きましょう。駅ですよね、行き先?」

 開店時間前のパン屋の軒先で雨宿りをしている僕の横にきて、君はいきなり話しかけてきた。とても初対面とは思えないほど普通に話しかけてきた。びっくりしたけどその明るさに引き込まれてしまい、相合傘で駅まで歩くことになった。でも、そんなに大きな傘じゃないから右肩は濡れちゃったけど。このことがきっかけで、僕は君とは知り合えた。だからこの日から雨が好きになったんだ。

「えっと、僕は、斉藤学といいます」

「私は、梅雨村小雨つゆむらこさめ、変な名前でしょ。でも気に入ってるの。雨が大好きだから。あっもう直ぐ駅に着くね」

「あの、また会ってもらえるなんてことできますか?」

「え、いいわよ。じゃあ、次の雨の日。同じ場所同じ時間でどぉ」

「うわ、なんか新鮮な約束です。日時を決めないなんて」

 こうして雨の日になると僕たちはデートをした。でも、この街から出ることは一度もなかった。何度誘ってもそれだけは首を縦に降らなかったね、君は。それに、晴れた日にも一度も会ったことがなかったなぁ。

「おはよう。今日も雨だね。ていうか、雨の日に会う約束してるから当たり前か」

「学さんって、面白い。あのね、次の雨の日は会えそうにないわ。多分、強い台風が来ると思うの。とっても危険だから、台風が過ぎた後の雨の日に会うことにしましょう。台風おじさんは怖いのよ」

「え、台風おじさん?」

「そっ、台風はおじさんで前線はおばさん。そして梅雨の季節がお母さんで湿気がお父さん、そして雨を楽しむ傘が一人娘の私」

「へぇー、なんか面白い例えだね。お父さんとお母さんは優しいけどおじさんとおばさんは怖いんだ。そういえば会うたびに傘のデザインが変わるね。たくさん持っているんだね。前回は緑だったけど、今回はピンクのグラデーションみたいで明るいね」

「私、傘は大好きだからたくさん使ったわ。数えられないくらい。だって、傘は私の人生だし、命みたいなものだから。でもね、一回使った傘は消えてしまうから、二度と使えないの。ちょっと寂しいけど毎回新しい傘でワクワクもしちゃうわ」

 変なことを言うなぁと思ってはいたんだけど、薄々は気づき始めていたんだ。毎回さしてくる傘は変わるし、洋服も靴も何故か傘の色と同じ。そして会うのは、この街の中だけだし、雨の日にしか会えない。あっても建物の中には入らず、傘をさして歩きながらおしゃべりするだけだし。それでも楽しい時間には変わりなかったから、君と過ごす時間が好きだった。

 何回デートしたかなぁ。知り合ったのは6月初め、そして今は7月中旬。テレビではニュースで梅雨明け宣言をしている。そういえば最近は雨が降らないなぁ。小雨ちゃんはどうしているのだろう。もしかしたら、本当に傘の精だったりしたら不思議だなぁ。そうだとしたら、梅雨明けと共に消えちゃったりするのかな。来年の梅雨まで。

 朝起きたら、久しぶりに雨が降っていた。梅雨明け宣言から随分経ったような気がしたが、僕はパン屋さんの軒先まで出掛けてみた。いつもの黒い傘をさして。いつもは小雨ちゃんの方が先にいるのに今日はいない。嫌な予感を感じる。軒先で1時間ほど待っていたがやはり小雨ちゃんはやってこない。もうこないのかなと思い始めた時、後ろのシャッターがガラガラっと開いた。パン屋さんの開店時間になったのだ。お店の扉が開いて、中から声をかけられた。

「お兄さん、もしかしたら、斉藤学さんですか?」

「あ、はい。そうです。どうして、僕の名前を」

「実は娘から聞かされていたんです。この傘を娘からあなたに渡してくれって頼まれていました。受け取ってもらえますか。多分、小雨って名乗っていたんじゃないかと思います。本当の名前は青空光というんですよ。おかしいでしょ。反対の名前で。娘には不思議な力があったんです。梅雨に入った後、雨が降ると自分の好きな色の傘と服と靴をイメージして少しの間だけ実体化できたみたいなんです。娘は末期の癌で、駅まで行く途中の病院にずっと入院したまま、動くことすらできませんでした。遂にこの前の梅雨明け宣言とともに旅立ってしまいました。あなたのことは病院に行くたびに聞かされていました。そして最後に頼まれたのが、水玉の傘を買ってあなたに渡してくれということでした。本当はもう一回くらいは会えるんじゃないかと思っていたようです。その時にさしていきたかったのが水玉模様の傘だったようです。最初に会った時水色の傘だったから最後は水玉にしたかったと言ってました。どうぞ、受け取ってやってください」

「えっ、そんな。小雨ちゃん、いや、光さん、亡くなったんですか。あんなに元気だったのに。そうですか。やっぱり傘の精だったのかもしれませんね、娘さん。あの、もしよければお線香をあげさせてもらってもいいでしょうか」

 こうして僕の梅雨の間だけの淡い恋は終わりを告げた。今も玄関には誰も使うことのない水玉模様の新しい傘が僕の使い古した黒い傘の隣に置いてある。


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