8月3日 ビーチサンダルの日 【SS】見つかった思い出
日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。
【今日は何の日】- ビーチサンダルの日
東京都台東区寿に本社を置き、ビーチサンダルをひとつひとつ丁寧に、昔ながらの製法で手作りをしている株式会社TSUKUMOが制定。
日付は8月の8を「ビーチ(Beach)」のBに見立てて、3日を「サン(3)ダル」と読む語呂合わせから。日本発祥のビーチサンダルを常時生産している唯一の企業として、ビーチサンダルをより多くの人に履いてもらい、足元から夏を楽しんでもらうことが目的。記念日は2017年(平成29年)に一般社団法人・日本記念日協会により認定・登録された。
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【SS】見つかった思い出
「何回も引越しをしてきたけれど、今回で落ち着きそうね。やっと、私たちも家を持てたのだから」
「そうだね。長かったね、ここまで。でも、家賃の安いところで我慢して貯金を続けたおかげだな。感謝しているよ、美里」
「ううん、少ないお小遣いで文句も言わずに裕一も我慢してくれたからよ。都心からは離れたけれど、子供達のためには、いい環境よね。小学生に上がる前で良かったわ。幼稚園のお友達と別れるのは寂しいけれど、小学校に入ってから転校するよりはいいわよね」
どうやら、頑張って一軒家を購入した夫婦が会話しているようだ。引っ越ししている最中らしい。子供が小学校に上がる前に定住する場所に引っ越したかったようで、ほっとしているみたいだ。子供にとっては、これで、小中高と同一学区内の友達との付き合いが続いていくことだろう。
この夫婦は、十年前にビーチで知り合ったカップルだった。当時の夏、裕一は男友達三人と一緒に、由比ヶ浜に遊びに行った。その時、海の家でバイトをしていたのが美里だったのだ。裕一は小麦色に焼けた美里が、ものすごく自然で可愛い子だと感じ、一瞬で恋に落ちてしまったようだ。当時は付き合っている彼女もいなかったので、積極的に話しかけていった。美里がバイトしている海の家に行き、かき氷を注文したときのことだ。美里はかき氷を四つお盆に乗せて、運んできた。慣れていないのか足元が心もとない。ハラハラしながら裕一は美里を見守っていた。案の定、砂の起伏に美里のビーチサンダルは引っかかり、前につんのめるような体制になった。そうなると、美里自身では制御できない。お盆のかき氷に意識を集中してはいるが、既に上半身と足元は遠く離れてしまっている。
裕一もどうすることもできないが、まるでスローモーションを見ているかのように、真っ直ぐに裕一に向かって美里の体が倒れてきている。美里はたまらずお盆から手を離す。瞬間、かき氷四つが宙を舞う。そこに後ろから追いかけて来た美里が倒れかかってきた。裕一は思わず仰け反りながら美里を受け止める体制を無意識にとっていた。顔面を直撃するかのように回転したかき氷の冷たさを顔で感じながら、両手を広げていた。そこに美里は倒れ込んだ。まるで抱き合うような格好だが、裕一の顔面は氷とシロップまみれ。美里も呆然として一瞬時間が止まったかのように動かない。二人とも我に帰り、男友達が大笑いする中、平謝りする美里に対し裕一は話しかけた。
「あの、謝らなくていいので、できればタオルを貸してくれない」
またまた全員が大笑いしていた。バツが悪そうな美里は慌ててタオルを持ってきて、裕一に手渡した。
「ごめんなさい。本当にごめんなさい。Tシャツも汚れちゃったから洗います。脱いでください」
これが、裕一と美里の出会いだった。よく見ると、美里のビーチサンダルはだいぶ擦り切れていた。裕一は海の家で売っているビーチサンダルを買って、美里に渡してあげたのだ。
「そのビーチサンダルとこれと交換してくれないかな。そんな擦り切れたままだとバイトじゃ危ないよ」
これをきっかけに二人の付き合いは始まった。そして、その時の擦り切れたビーチサンダルは二人にとって思い出の品物になったのだ。そのことを引越しをした新築の家に入った二人は思い出していた。でも、どこにしまったのか忘れている。引っ越しの荷物を一つ一つ開けながら探していた。
「パパ、ママ。見て見て〜」
子供の声に誘われて裏庭に回った。裏庭からは遠くに海が見えるのだ。そこで二人の子供がはしゃいでいる。よく見ると、足元にはあの時のすり減ったビーチサンダルを履いている。
「これ、ママのかなぁ」
「なぁんだ〜。やっくんが履いてたのね。それ探してたのよ」
「これ、やっくんが履きたい」
こうして、二人の思い出のビーチサンダルは、子供が見つけておもちゃにしてしまったが、当時のことを思い出しながら遠くの海を懐かしげに見つめていた。まだ学生でちょっとおっちょこちょいだった美里は、今ではしっかりしたママに成長している。裕一も今では会社で課長職にまで昇進している。あの時の出会いがなかったら今の家族はいなかったと思うと、何とも不思議な気持ちになっていた。そして、あの時の記憶を鮮明なまま覚えておくかのように、二人で当時の記憶を話し合っていた。無邪気に思い出のビーチサンダルを履いて遊ぶやっくんを二人で見つめながら。引っ越しの荷物は今日中には片付きそうにないが、幸せな時間をたっぷりと感じているのだから問題はないだろう。思い出したように、美里は近くの蕎麦屋に出前の電話をかけた。ご近所への挨拶回りもこれからだ。
了
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