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4月27日 悪妻の日 【SS】死して尚

日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。


【今日は何の日】- 悪妻の日

紀元前399年のこの日に毒杯を飲んで自殺した古代ギリシアの哲学者ソクラテス(紀元前469年頃~紀元前399年)の妻・クサンティッペ(生没年不詳)が悪妻として有名であったことにちなむ。

クサンティッペとはギリシア語で「黄色い馬」を意味する。悪妻であったとされ、西洋では悪妻の代名詞ともなっているが、後世の作り話である部分も多く、彼女の本当の姿については殆ど分かっていない。

古代ギリシアの哲学者プラトン(紀元前427年~紀元前347年)の著作『パイドン』の中では、「クサンティッペは妻としても母としても何ら貢献をしなかった」と述べている一方で、獄中にあるソクラテスを思って嘆き悲しみ、取り乱すという描写がある。

同日は、ソクラテスの死を悼んで哲学の日ともされている


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【SS】死して尚

 資産家の息子で金持大蔵きんもち たいぞうという青年実業家と婚約者の狙通子ねらい とおこという銀行に勤める女性が結婚式の準備に入っていた。通子は甲斐甲斐しく、大蔵のサポートを実施し、大蔵の両親からも気に入られていた。資産家にしては慎ましい結婚式を計画していて招待客も最低限に絞っていた。通子もそれを察して友達に招待状を送ることを自粛していた。そんな通子を見て大蔵はより一層、この女性を選んで良かったと思っていたのである。

 晴れて入籍し、新しい住まいでの生活が始まった。都内のマンションを購入しての二人だけの新婚生活の始まりだった。しかし大蔵の父が事業に失敗し、資産のほとんどを負債の補填に当ててしまい、遺産は当てにできないことになってしまった。通子の豹変はこのあたりから始まった。それまでの甲斐甲斐しく動いていた通子の姿はどこにもなく、夫である大蔵に八つ当たりすることが多くなっていった。

「あなた、ゴミはちゃんと捨ててから会社に行ってね」

「ああ、分かってるよ。今日は早めに帰ってくるから夕飯を頼むな」

「ええ、ご飯食べるの。面倒臭い。どこかで食べてきてよ。私も外で食べるから」

「そうか、分かった。じゃあ、そうする」

「それからね、私も食事して帰ってくるのは遅くなると思うから、洗濯しといてね」

 こんなやりとりが毎日のように続くようになっていたが、大蔵は一日中部屋の中にいるのは大変なんだろうと最初は快く聞き流していた。しかし、月日が流れると共にその度合いはエスカレートしていった。次第に夫婦でありながら噛み合わない二人の関係は悪化していった。しかし、大蔵はもしかすると心を病んでいるのかもしれないと思い、極力優しく接しようと努力していた。どうも妻がわがまま放題になると夫は哲学者になるらしい。

 ある日、大蔵は何気なく銀行口座の残高を確認していた。結婚後は全て妻の通子に任せっきりだったので、多少は増えているのかなと思ったのだ。投資用だったり生活用だったり、いくつか銀行口座も分けてあるので一つずつ確認していて驚いてしまった。全ての口座の残高がほとんど無くなっていたのだ。全部合わせれば二億円ほどあったはずなのに、生活用口座に数百万円残っているに過ぎなかった。生活用口座もよく見るとクレジットの引き落としが毎月百万円前後で継続している。それに加え、口座振り込みが繰り返されていることにも驚いた。妻名義の口座に毎月お金が移動しているのだ。流石に、大蔵はこれではまずいと思い、通子を問いただした。

「通子、口座に預金がほとんどないじゃないか。一体どうしたんだ」

「ん、どうもしないわよ。私のお給料として毎月二百万円もらっているだけよ。当然の権利でしょ。あなたのいない間、この部屋を守っているのだから。お金が少ないのはあなたの稼ぎのせいだから、私に文句言わないで」

「一体どうしたんだ。なぜ、そんなにも変わってしまったんだ」

「なに、私を責めてるの」

「いや、責めているわけじゃないよ。付き合っていた時の君とはまるで別人に感じるんだよ」

「あら、それは当たり前だと思うわ。今の私が本当の私だもの。あ、それからあなたの生命保険増額しておいたから、来月から追加の支払いが来るわよ。よろしくね」

「えっ、そんな勝手な。一言も聞いてないぞ」

「それはそうよ。言ってないもの」

 大蔵は目の前が真っ暗になるのを感じていた。天井がグルグルと自分の意思とは関係なく回り始めてしまった。同時に吐き気まで催してきてしまった。たまらず、ベランダに出て風にあたろうと思い窓を開けた。ベランダはコンクリートの壁になっているので、少し身を乗り出すための階段の代わりの踏み台が用意されている。そこに登って上半身に風を当てた。幾分楽になりそうだなと思った瞬間、背中を押された感触を感じた。大蔵の体はフワリと宙を舞った。ここは眺めのいい二十三階だ。落ちれば当然死が待っている。落下しながら大蔵は気を失うこともなく、笑みを浮かべていた。

「ああ、これで解放される。会社もうまくいってないし差し押さえも時間の問題だったしな。通子、すまんな、資金移動をしても全て没収されると思うよ。マンションも同じだ。言ってくれれば先に離婚届を書いてあげたのに」

 ドンというコンクリートに叩きつけられる鈍い音と共に大蔵の人生は終わった。通子はその瞬間スマホで警察に連絡していた。

「もしもし、夫がベランダから飛び降りてしまいました。私は止めようとして背中を掴もうとしたんですが、間に合いませんでした。ワーーー」

 程なくして警察と救急車がやってきたが、大蔵の即死が確認され、特に怪しいところもなく妻の証言を元に自殺で処理されてしまった。自殺なので生命保険は残念ながら下りることはない。それを見越して通子は毎月資金移動をしていたのである。大蔵が亡くなったあとは、従順な妻であったことを強調するかのように、葬儀の間中涙を流し終始俯き加減で対応していた。やっと葬儀が終わったと思った途端に、大蔵の会社の役員たちがこぞって押し寄せてきた。

「奥様、この度はご愁傷様です。こんな時に申し訳ないのですが、ご主人が立ち上げた我々の会社は債務を抱えての倒産となりました。生前、社長が金策に走り回っていたのですが間に合いませんでした。つきましては、マンション、および金融資産を債務者への返済に当てさせていただきます。ご主人からなにか聞いてらっしゃいませんでしたか」

「いいえ、何も。でも私の口座の分は保証されますよね」

「それが、奥様も取締役として登録されていますので、全て預金は凍結されます。最も生活に必要な金額だけは計算されて残されると思います。申し訳ありません」

 因果応報、意図した悪事には必ず報いが待っているものですね。


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