8月1日 水の日 【SS】溜まった怒り
日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。
【今日は何の日】- 水の日
国土庁(現:国土交通省)が1977年(昭和52年)に制定。
日付は、一年のうち水を最も使う月が8月であり、その月の最初の日を「水の日」としたもの。「水の日」の8月1日から「水の週間」(8月1日~7日)が始まる。限りある水資源の大切さを考えてもらい、節水を呼びかけることが目的。
その後、2014年(平成26年)に施行された「水循環基本法」において、「水の日」は8月1日とし、国民の間に広く健全な水循環の重要性についての理解や関心を深める日として、法定化された。
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【SS】溜まった怒り
最近の異常気象は尋常ではない。何かの力が作用しているような異常ぶりだ。もしかすると海に原因があるのかもしれない。一人の精霊に通じている年寄りが、小さな船を浜辺から沖に向かって漕ぎ出した。満月の月で海面は穏やかな凪の夜だった。風もほとんど感じられないような海面を沖に出た。振り返って、漕ぎ出してきた浜辺が小さく見える位置にきたことを確認すると、年寄りは漕ぐのをやめてしばし海面を漂うことにした。そして目を閉じて耳を澄ます。
小刻みに船が揺れているのを年寄りの五感は感じている。そして船底を伝わってくる振動はいつしか言葉となって、年寄りの耳に届いてきた。
「最近の人間は、水のありがたさを理解していないな。その横暴さはあまりにも酷い。あたかも地球上の水は、人間のものだと言わんばかりの振る舞いだ。あまりにも目に余るようになってきた。いくら温和な我々水霊であっても、そろそろ限界だ。人間たちに水の怖さとありがたさを、知らしめないといけないのではないか」
「そうだな。しかし、水を大切にしている人間だって大勢いるぞ。無闇に怒りに任せた行動をとってしまうと心ある人間まで傷つけてしまう可能性もあるぞ」
「それはわかっている。だからこれまで辛抱してきたんじゃないか。我々と共に静かに生活をしている亀や魚や海藻や珊瑚たちが、汚れた水の中で死んでいくのさえ、黙って見てきていたんだ。我々水霊は、地球上の情報を水という媒体を通してほぼ全て網羅しているじゃないか。最終的に水は海に帰ってくるのだから、水が持っている情報は全て我々の手元に届くことになるんだ。陸地の開発が結果的に川を汚し、汚れた川は海に流れ込む。海は人間に代わって汚れた水を浄化してやっている。しかし、流れてくるゴミはどうにもできない。最終的には海の中を彷徨い、消えないゴミとして魚たちを苦しめることになる。そんなことはもう辞めさせたい」
「うむ。確かにそうだな。じゃあ、数年間は突発的に怒りを表現して人間にメッセージすることにしてみるか。人間にかなりの犠牲が出るかもしれないが、お互い様だな。我々は神ではないのだからな」
老人は、ついに水は怒りを抑えきれなくなってしまったかと、船の上で肩を落としていた。老人は、海の水の声を聞くことはできても、その会話に参加することはできない。だから、老人は街の中で「水を大切にしよう」という運動を起こすことしか出来なかった。近いうちに災害が起きるぞといっても、イソップ物語の狼少年と同じだと思われるだけだった。老人はさらに静かに、海の水の会話を聞いた。
「我々が大量にしかも一気に蒸発すれば、どこかで局所的な豪雨を起こすことができるはずだ。そうなれば確実に川は氾濫し街を破壊できる。そのくらいの怒りを表してもいいのではないか」
「あ、でも、すでに今年は何回も豪雨になって土砂災害を起こしてしまっているな。最も、我々の怒りが原因じゃないけど。それでも、人間からすれば同じ災害になるんじゃないか」
「た、確かに。行きすぎた災害は良くない。下手をすれば因果応報で我々に戻ってくるかもしれないな。人間界でも助け合いで復興を実施しているようだし、我々も怒りを表すことなく、もう少し我慢して様子を見てやることにしようか。でなければ、これまでとは比べ物にならない災害になってしまうからな」
老人は胸を撫で下ろしていた。少なくとも水の怒りで災害が怒ることはなさそうだ。とはいえ既に起こってしまった災害の復興は、まだまだ終了してはいない。水の大切さを訴え続けることは、これからも必要だと感じていた。同時に、水はあらゆる情報を海に集めることで、陸の情報も入手できているらしいということもわかった。老人は、ゆっくりと目を開け小舟を陸の方に向かって、そっと漕ぎ出した。音を立てて気づかれないように慎重に。その時海中では、小舟に届かないような声で会話が続いていた。
「どうやら、帰って行ったようだな。唯一我々の声を聞くことのできる人間だからな。ちゃんとメッセージを受け取ってもらわないとな。少しは水に対する考え方を人間が変えてくれることを祈っていよう。怒りを行動に移すつもりは最初からないけど、少しは人間に伝えておくことも大切だからな」
「そうだな。もう少し水というものを丁寧に扱って欲しいし、考えてもらいたいよな。人間の体だって半分以上は我々で出来ているんだからな。まぁ、それでも人間を制御するだけの力を持っているわけではないのだけれど」
全ての地球上の情報が集まっている海は、まだまだ人間が知らないことだらけのようである。水の精霊とはずっと仲良くしていきたいものである。
了
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