【SS】喧嘩したリモコン
暑い日が連続して続いている。まだ、6月だというのに半端なく暑い。猛暑だ。
部屋の主であるアーヤは、自分の部屋でテレビを見ていた。一体全体地球はどうなってしまったんだ。本来なら、日本は梅雨真っ盛りで、少し肌寒い日があっても良さそうなのに。そう思っていたら、テレビの天気予報で表示された日本列島は、温度を表す色がどこもかしこも真っ赤で表示されていた。日本列島が猛暑になるらしい。6月の下旬なのに。
こんなに暑い日が続くとまだ夏の前とはいえ、エアコンのリモコンが手放せない。こんな時にエアコンが壊れでもしたら、地獄の日々を送ることになりかねなくなってしまう。アーヤの部屋のエアコンはまだ取り付けて一年半。一年という保証期間こそ切れてはいるがまさか壊れることはないだろう。安心して使えるのは幸せなことだ。
とてもじゃないが、外出する気にもならないし、エアコンを止めて窓を開ける気にもなれない。窓を開けても気を失うような熱気が入ってくるだけだ。それでもエアコンをつける時は、温度を標準より高めに設定し冷えすぎないように気を付ける。そして、アーヤはテレビのリモコンを持ってお気に入りの番組を自分の部屋で見ることにした。
これぞまさに、極楽極楽。熱いお茶を美味しくいただきながらテレビを見る。
人間の知らないところで、小競り合いが起こっているようだ。何だか言い争いをしているのは、テレビのリモコンとエアコンのリモコンのようだ。人間には聞こえない信号で言い争いをしている。家電製品同士のいがみあいだった。特に製造メーカーも違うので仲も良くないのだろう。少し、内容を聞いてみよう。
「おい、エアコンのリモコン。まだ新しいからと言って大きな態度するなよ」
「ん、何だ。アナログ放送のボタンがついてる昔のテレビのリモコン君か。なにか、僕に文句でもあるのかい」
「その言い方と、態度が嫌いなんだよ。上から目線で、人、じゃないリモコンを馬鹿にしたような言種が」
「うーん、そんなこと言ったってね。僕の方が製造年度も新しいし、金額的にも君の何倍もするんだよ。そりゃあ、同じ目線になれと言われてもちょっと無理かな」
「はぁ、お前だって単なるリモコンじゃないか。電池がなくなったら動かなくなっちゃうだろ。僕と同じなんだよ」
「まぁ、ひがむのも解らなくはないけど、僕に八つ当たりしないでくれないかな。僕はこの部屋のアーヤのために頑張っているんだから。それにアーヤの一番のお気に入り家電なんだからね」
「くっそー、今に見てろ。テレビのリモコンの怖さを思い知らせてやるからな」
「はい、はい。負け犬の遠吠えにしか聞こえないけど。何でもして下さい」
そうは言ってみたものの、エアコンのリモコンはアーヤのそばに置いてあるので今はどうすることもできないテレビのリモコンだった。そして、時間が経ち、夕食の時間になったのでアーヤはエアコンの電源を切った後、テレビの電源も切ってリモコンをリモコンスタンドに立てて部屋を出た。しばらくは家族団欒の時間である。
テレビのリモコンはふとリモコンスタンドの中を見た。アーヤが使っているペンが隣に立てかけられている。テレビのリモコンは、途端に閃きいいことを思いついた。「これで、エアコンのリモコン野郎をギャフンと言わせてやれるぞ」そう思い、隣のペンに話しかけた。
「ねぇ、ねぇ、隣のペン君。ずっとその格好で立っていて疲れただろう。ちょうど同じ場所にいるんだから、僕にもたれかかって休んだら。どうせアーヤは部屋にいないんだしさ」
「えー、本当。テレビのリモコンさんって優しいんだね。じゃあ、お言葉に甘えてもたれかかっちゃおうかな」
「いいよいいよ、全然遠慮なんかしなくて」
こうして、テレビのリモコンの隣で立っていたペンはリモコンのほうにゆっくりともたれかかり、テレビのリモコンのチャンネルの数字のボタンを枕にしながらペンは体を休めるように斜めになった。テレビのリモコンは思惑通りになり、ニヤリと笑った。
夜になった。アーヤの家族はそれぞれの部屋に入って寝る準備に入っていた。アーヤはまだしばらくリビングで大きなテレビを楽しんでいた。もうだいぶ夜も更けてきて家族はみんな眠ってしまったようだ。アーヤは一人遅い時間にシャワーを浴びてリビングの後始末をしてから自分の部屋に入っていった。
自分の部屋は既に温度が高くなっていたので、慌ててエアコンのリモコンを手に取り電源ボタンを押した。しかし、いつもは反応してピッと音がするのに何の音もしないしエアコンは動いてくれない。家族は寝てしまったけど、これじゃ眠ることができないと思い、隣の部屋で寝ている兄のソランを叩き起こした。
「お兄ちゃん、エアコンがつかないよー」
「はぁ、何だよ。こんな時間に。もう1時過ぎじゃないか。寝てたのに」
「だって、暑くて眠れないんだもん。ごめーん。ちょっと見てよ」
「しょうがないなー」
兄のソランはアーヤの部屋に行ってリモコンを操作してみた。確かにウンともスンとも言わない。往々にしてこんな時は電池切れの場合が多い。兄ソランの部屋にも同じエアコンが取り付けてあるので、ソランは自分の部屋のリモコンをアーヤの部屋に持ってきて試してみた。電池切れならこれで反応するはずだった。しかし、現象は変わらない。やはりウンともスンとも言わない。ソランはエアコン本体のところに行って、本体のスイッチを入れてみた。するとエアコンは何事もなかったかのように動き始めた。ソランは、リモコンの信号に反応しないと判断し、これはエアコン本体の赤外線を受ける部分が故障してる可能性が高いなと結論づけた。もう、午前2時になっていた。
「アーヤ、とりあえず、明日明るくなってからもう一度見てみることにするよ。リモコンの問題じゃなく本体のほうの故障かもしれない」
「えー、そうなの。お昼までは問題なく動いたのにー。私の使い方が悪かったのかなー」
「解らないけど、明日もう一度見て、修理依頼になるかも」
「ふぇーん」
「とりあえず、手動で動いたから今日はこれで凌ぐしかないな」
アーヤは、自分が何かしたのかなと気になってなかなか眠れなかった。次の日になって、兄ソランは取扱説明書を引っ張り出してきて、いろいろな説明を参照したり、ネットで検索したりして調べていた。横でアーヤは不安そうに両手を合わせて祈った。兄ソランは、赤外線の干渉に注意という記述に目が止まった。テレビのリモコンなどの何処かのボタンが押されっぱなしになっていたりすると、エアコンの赤外線受光器はその信号を認識してしまい、エアコンのリモコンを認識しなくなるケースもあるという記述があった。もしかしたらと思い、兄のソランはテレビのリモコンを確認していた。
「アーヤ、原因が分かったよ。テレビのリモコンにもたれかかって寝ているこのペンが原因だよ」
「えっ、どういうこと」
「このペンがテレビのリモコンのボタンを押しぱなしにしてたんだよ。それでエアコンはその信号に邪魔されてエアコンのリモコンを認識できなかったみたいだ。いいかい、ペンをどかしてからリモコンでエアコンをつけてみるよ」
そう言って、テレビのリモコンからペンをどかして、エアコンのリモコンの電源ボタンを押した。ピッという音と共に、心地よい冷たい風がエアコンから噴き出してきて、快適な部屋に変わった。
「うわー、本当だ、直った、直った。お兄ちゃんってやっぱりすごーい。ありがとう。故障じゃなくてよかったー」
「これからは、気を付けるんだよ、アーヤ」
「はーい」
テレビのリモコンは少しの間ではあったけど、仕返しできたことに満足しながら、アーヤには悪いことをしたなと反省していた。そして、エアコンのリモコンを羨ましがることをこの日から止め、エアコンのリモコンも横柄な態度を改めるようになり、リモコン同士は仲良くするようになった。しかし、被害者とも言えるペンは、同じことが起きないようにペン立てに移されてしまった。
おわり
実際に我が家で起きた現象をショートショートにしました。本当にリモコンが効かなくなったように感じますので、みなさん、リモコンをまとめて立てて置いていたりする場合は、気をつけて下さいね。
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いつも読んでいただきありがとうございます。
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