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【SS 1月11日】塩の日

【今日は何の日ショートショート】- 塩の日

1569年(永禄11年)、武田信玄と交戦中の上杉謙信が、武田方の領民が今川氏によって塩を絶たれていることを知り、この日、越後の塩を送ったとされている。
文字通り、敵に塩を送るという言葉が生まれることになった逸話である。


【SS】生きるため

「長老、もう塩がありません。どうしたらいいですか」
「うーん、困ったのう。これまで取引していた海洋族とは戦争になってしまったから調達ができなくなってしもうた。ここは山奥だからどうしようもできないのう。だれかいい知恵があるものはいないのか」

 これまで毛皮と交換に塩を調達していた山林族だったが、海洋族の男に山林族の長老の娘ニーサがさらわれたことで戦争になってしまい、塩が調達できなくなってしまっていたのだ。人間は塩分を取らなければ生きてはいけない。そのことを山林族は経験から知っていた。だから海洋族との揉め事は避けていたのだ。海洋族は、山林族の長老の娘を捉えて、山林族を支配しようと考えていたのだった。しかし、山林族の長老は、自分の娘が拐われてしまったとあっては、生死よりも面目を先に考えなければならないと考えたため、戦争を仕掛けてしまった。山林族は先制攻撃をかけ、最初は優勢になっていたのだが、やがてこう着状態が続き、戦争は長期化の様相を見せ始めていた。

 海洋族からは、無条件降伏するのなら塩を送ってもいいという提案を受けていたが、それでは対等な立場が崩れてしまうため、山林族の長老は提案を持って来た使者を怒りに任せて追い返してしまった。

 山林族の一人の若者が、長老のところにやって来た。

「長老、私に塩探しを命じていただけませんか」
「塩探しだと。それはどう言うことだ」
「はい。はるか昔、この山の二つ向こう側は低い土地だったという言い伝えがあります。もし、そこが海の底だったとしたら、もしかすると地中に塩の塊があるかもしれません」
「おお、もし、お前の言うとおりに塩を手に入れられて、娘を取り返したらお前を婿にしてやろう」
「ありがたき幸せ。では、早速出発します」

 男は、一人で塩探しの旅に出た。

 その頃海洋族に囚われていた娘の周りでは異変が起こり始めていた。毎日、日が沈み始める頃、娘は美しい声で歌い始めるのだ。すると近くにいた海洋族の男たちはその歌声に聞き入ってしまい、優しい気持ちになり、娘を守らなければならないと思うようになっていった。そのおかげで、乱暴をされることもなく静かに日々を過ごしていっていた。しばらくすると、海洋族の長老の息子イデコがそのことを聞きつけ、どんな娘なのだということで夕暮れ時に様子を見に来た。するとしばらくして娘が歌い始めた。

 イデコはニーサの歌声を聞き、そしてその美しい容姿を一目見ただけで心を奪われてしまった。ニーサはイデコに話し始めた。

「二つの部族が戦争をしてもお互いに得るものより失うものの方が多いと思うわ。私とあなたが一緒になって、部族を統一するほうがいいと思わない?」
「確かに、君の言うとおりだ。それに僕はすでに君の虜になってしまった。僕と結婚してくれ」
「よろこんで、あなたの元にまいります」
「よし、では長老に話をして停戦するようにしてもらおう」

 イデコは海洋族の長老である父親のところへ行き、山林族と親戚になることで支配下におけると提案し、長老も同意した。海洋族から山林族に使者が送られた。そしてことの次第を山林族の長老に伝えると、八方塞がりになっていた山林族の長老も賛成し、状況は急転直下、結婚式の段取りへと事態は変わった。

 その時、塩を探しにいっていた山林族の男が満面の笑みで戻って来た。

「長老、見つけました。やはり塩は眠っていました。この石を見てください。塩の塊りです。これをすりつぶせば塩になります」
「おお、おお、でかした。いいか、このことは内緒にしておくんだぞ。そして、塩があった場所までの地図を書いてもってこい」
「すでに書いてあります。こちらです」
「準備がいいのう。頭の良さは部族一だ。お前は素晴らしい功績を残してくれた。だがな、ニーサはすでに海洋族のイデコとの結婚が決まってしまったのじゃ」
「私はニーサ様と一緒になりたくて塩を探しにいったのではありません。この部族が生き抜くために探しにいったのです。お気になさらないでください」
「よく言った。お前は今日からわしの右腕だ」

そう言うと、長老は男に碗を差し出しなみなみと酒を注いだ。そして男は一気に飲み干し碗を返した。

 お互いの部族の長老の子供同士の結婚式は無事盛大に執り行われ、見かけ上は一つの部族となった。ニーサはそれから毎晩歌を歌い、イデコを愛する努力をした。そして部族は次第に名実共に一つとなり、両方の長老が亡くなった後は完全に一つの部族としてニーサが仕切るようになっていった。

 ニーサは、海洋族の戦士をそそのかして誘拐させ、部族間の戦争を誘発し、まんまと長老の息子イデコと婚姻することで、両部族の頂点に立つという計画を実現したのだった。不思議な歌声と美貌を持つ女帝の誕生だった。そして女帝の隣には岩塩を探し当てた山林族の賢い男が塩の場所までの地図を持って控えていた。


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