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【SS】 砂浜の詩 #シロクマ文芸部

 詩と暮らすことが私には最適なんだと思い込んだ。その為に、都内のマンションを引き払って、人里離れた海岸のそばの小さな家に引っ越しをしたのが二年前。ここでの暮らしも二回目の冬を迎えようとしている。私の気持ちの時計は、二年前にここにやって来た時から止まったまま。一体何をしているんだろう。もうすぐ二十八歳にもなるというのに。

 都内にいたとき、私の全てはあなたの存在だった。あなたが私の前からいなくなるなんていうことは、考えたこともなかったし、もう少しでずっと一緒に生活できるようになると信じていた。だからあの頃は、明るく楽しい詩を作るのが好きだったし、言葉もこぼれてしまうほど溢れ出ていたのよ。

 私の二十六歳の誕生日の一週間前。忘れもしない、十一月十日。私のスマホは、あなたからのラインの着信を知らせる音を響かせていた。いつものように笑顔になりながらスマホを取ってスワイプすると、信じられない一方的なメッセージが私の目に飛び込んできたのよ。

『朋美、ごめん。今年の誕生日は一緒に過ごせそうにない。僕は君が好きだったけど、もっと好きな人ができてしまった。三年間付き合ったことはとてもいい思い出になったよ。ありがとう。そして、さようなら』

 私は、只々ラインのメッセージを見つめていた。しばらく待っていれば、「冗談だよ」っていうメッセージが現れるだろうと思っていたの。でも、何も現れなかった。そのメッセージを最後に、あなたは一方的に私のラインをブロックしてしまったのよね。あなたの家まで押しかけたい衝動が湧き上がって来たけど、じっと我慢したわ。だって、そんなことをしても何も良くならないと思ったから。でも、行った方が良かったのかなぁ。自分の心に正直に。

 それからの私は、自分の殻に閉じこもった。何もしない生活。スマホの電源を切った生活。外にも出ない生活。仕事も辞めた。二週間くらい経った頃、誰も尋ねて来ないマンションに一人でいるのが、たまらなく寂しくなった。私は久しぶりにパソコンを立ち上げ、詩を書いてみた。悲しみが溢れ出てるような詩しか書けなくなっていたわ。多分「現実」という世界から逃げ出したかったんだと思う。あなたの知らない場所に行って、あなたのことを忘れて、一人でも楽しく生きられると思いたかったんだと思う。だから、引っ越しすることを決めた。寒い冬に。当分生活していけるくらいの貯金はあったし、自分の周りの環境を変えたかった。私のことを誰も知らない街に行って、しばらく静かに暮らしたかったのかもしれない。

 私は、思い切って広島の坂町という街に引っ越しをした。知り合いも親戚もいない街で砂浜がある場所を探した。坂町は、以前豪雨災害があった町だ。復興という力ももらえるかもしれないと安易に考えて決断した。砂浜に近い場所の古びた一軒家を見つけ、逃げるように引っ越しをした。空も私の心の不安を見透かすようにどんよりとした冬の曇り空で風が強い日だったのを覚えている。引っ越した日から、私は髪を伸ばし始めた。それまではショートヘアで活発に見られるのが好きだったけど、暗い表情にショートは似合わないと勝手に自分で思ってしまっていたわ。

 私には、詩があればいいとその時は思っていた。だから、来る日も来る日もパソコンに向かって詩を綴り続けた。それも、悲しい詩ばかりをね。そんな毎日は決して楽しい日々ではなかった。懸命にあなたという存在を私の記憶から消そうとしていただけだって気づいたの。そう思えば思うほどあなたは私の心から消えなかった。そして、詩も書けなくなってしまった。

 そんな私でも朝陽が出る日には必ず砂浜に出て散歩をするのがいつの間にか日課になっていたの。誰もいない早朝の砂浜を歩くのが唯一安らぎを感じる時間だったから。昇ってくる朝陽を背に受けながら砂を踏みしめて歩く時間が好きだった。夕方頃にくれば瀬戸内海に沈む夕日を見ることができるのだが、それだと人が多い。朝は、ほとんど人がいないから砂浜を歩くのは朝にしたの。

 私の二十八回目の誕生日が近づいてきた。今年もまた一人の誕生日なのかなと思っていたけれど、もしかしたら二人で過ごせるかもしれない出来事があったの。でもあんまり期待はしない。裏切られるのはもう嫌だから。

 早朝の散歩の時、偶然に出会った彼。私が寂しそうに歩いているのを見て、気になったそうだ。それで声をかけてくれた。広島市内に住んでいてライブハウスで時々歌を歌っているという彼。作詞作曲もしているということで、詩の話で盛り上がった。そんな彼は二十九歳。真剣に将来を考え始めていると話してくれた。何度か朝の砂浜であって、仲良くなり、いろんな話をしてしまった。失恋のことも。そしたら、彼のための詩を私が書いて、彼が曲をつけるという話に発展したのよ。そして、その歌を私の誕生日に披露してくれる約束もした。場所は、私のお家。

 明日は、私の誕生日。部屋を片付けておかなくちゃ。詩と暮らす生活も悪くないかなと再び思い始めている。また、明るい私になれるかなぁ。


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