5月8日 紙飛行機の日 【SS】見知らぬ街まで
日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。
【今日は何の日】- 紙飛行機の日
広島県福山市に事務局を置き、紙飛行機を通じて世界との交流と図り、子供達のものづくり、工夫する楽しさ、挑戦する気持ちを応援する「折り紙ヒコーキ協会」が制定。
日付は「GO(5)HIGH(8)」と読んで「行け、空高く」と5月の青空に高く飛んで行く紙飛行機の飛ぶ姿を表している。また、知的障害と白血病というハンデを背負いながら、多くの人に愛と勇気を教えてくれた紙飛行機が大好きな少年、井上健史君の命日にちなんで。一枚の紙を折るだけで作る「折り紙飛行機」の楽しさ、魅力をより多くの人に伝えることが目的。記念日は2017年(平成29年)に一般社団法人・日本記念日協会により認定・登録された。
紙飛行機といえば、この歌もいいですね。おまけでした😊
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【SS】見知らぬ町
頂上に雪が積もった高い山の中腹までは鬱蒼とした森があり、ずっと下にある街に向かう川の源流があった。よく見ないと湧き出ている箇所を見つけられないほど小さな場所で澄んだ水が音も立てずに湧き出していた。その隣には、水の妖精のクリアがいつもいる。水の透明度や匂いに変わった兆しがないか、量は減っていないかをずっと見守っているのだ。この水はやがて大きな川となって魚を育み、川の両側に広がる小麦畑に水を提供し、さらに下流にある街に住む人々の命を支える水となる。なので、妖精は綺麗な水を守っているのである。
小さく透明な羽で自由に飛び回ることができる妖精クリアだったが、遠くまで飛び続けることはできない。もっとも水の源流を見守ることが役割なので遠くまで飛ぶ必要もない。そんな日々を送っていたある日、滅多に人が来ない場所なのだが、街に住んでいる男の子がお父さんと一緒に山に登ってきた。
「ポール。どうだ、綺麗なところだろう。ここまで登ってくると空気も水も澄み切っていて気持ちがいいなぁ」
「うん。お父さん、そうだね。すっごい遠かったけど来てよかったね。帰ってから学校に行ったらみんなに自慢してやろう」
「ハハハ、ポール、自慢するのは止めておきなさい。たくさんの人がここに押し寄せてきたら、せっかくの綺麗なこの環境が壊されてしまうかもしれない。だから、本当に自然を愛する人だけに話をするんだ。いいね。我々人間は綺麗な環境を守っていく必要があるんだから」
「うん、わかった。お父さんは環境保護のお仕事をしているから時々ここにきてるんだね。僕もお父さんのようになりたいな」
「あぁ、ここだけじゃなくていろんなところの自然に変化がないかみて回っているんだよ。ここには三年ぶりかなぁ。結構大変なんだぞ、お父さんの仕事は」
「ふーん、そうなんだ」
ポールは持っていたスケッチブックを広げ、周りの絵を書いて自然を楽しんでいた。そろそろ下山する時間になり、ポールは慌てて荷物やゴミを寄せ集め、リュックに詰め込んだ。その時、一陣の風が吹いてスケッチブックの横に置いていた紙飛行機が青い大空に舞い上がり、風に乗って飛んでいってしまった。
「お父さん、ごめんなさい。紙飛行機が飛んでいっちゃった」
「まぁ、仕方ないな。紙は土に還るから環境には影響ないよ。気にするな」
こうしてポールとお父さんは、山を下りて住んでいる街に帰って行った。一部始終を水の妖精は見ていた。そして風に乗って舞い上がった紙飛行機を見上げている。紙飛行機は次第に高度を下げ、クルクルと旋回しながら岩の上に着陸した。それを見てクリアはこれに乗れば街まで行けるかもしれないと思ってしまった。
「あっ、紙飛行機が降りてきたわ。よし、あの紙飛行機をちゃんと飛ぶようにして街まで行ってみようかしら」
クリアは自分の体の何倍も大きい紙飛行機の羽を一生懸命に調整した。飛んでいる紙飛行機を見て左右の羽の角度に問題がありそうだと感じていたのだ。なかなかシャープな紙飛行機が出来上がった。クリアが乗るには問題のない大きさである。クリアの胸は嬉しさで高鳴った。紙飛行機が降りてきた場所は、水の源流の上のある大きな岩の上だった。もう一度風を受けるにはいい場所だったのである。紙飛行機の羽の角度をもう一度ゆっくりと確認して、滑空できるような方向に向けた。クリアは紙飛行機の真ん中あたりにヒラリと飛び乗り、風が吹いてくるのを静かに待った。
「これに乗れば、きっと街まで飛んでいけるわ。そうしたら、街の様子を見ることができるわね、きっと。もしかしたらポールとかいう男の子にも逢えるかも」
ビュー。しばらくして風が背後から吹いてきた。この風に乗れば大空に舞い上がれる。そう思ったクリアは紙飛行機にしっかりとしがみつき、風が運んでくれた空気の上に紙飛行機が乗って飛ぶのを身体中で感じていた。
フワッ。一瞬無重力状態かと思うほど軽々と紙飛行機は大空に向かって押し上げられる。上へ上へと昇り森の木々の上に出た時、目の前に広がる雄大な景色を感じ空の広さを実感した。風に乗った紙飛行機は迷うことなく街に向かって軽やかに飛んだ。すでに日が傾き始めていて真っ赤に染まった空が綺麗だった。
どのくらい飛んだだろうか。もう直ぐ夕日が沈みそうな時間になっている。クリアの眼下には、ポツポツと窓に灯りが灯り始める街が見えてきた。
「わぁ、あれが街か。真ん中を大きな川が流れているなぁ。私が見守っている源流の水があんなに大きな川になっているのね。すごいわ。私の仕事ってきっとみんなの役に立っているのね。あぁ、風がだいぶ止んできたわね。そろそろ着陸してしまうかしら」
山肌を滑空しながら順調に飛んでいた紙飛行機も障害物が多い街に到着して風が一定では無くなり、だんだんと地上に近づきつつあった。そして、そのままアパートの一室の空いていた窓からスルリと滑るように部屋の中に着陸してしまった。
「あら、どこかのお家に入ってしまったわ。仕方ない、ちょっと箪笥の影にでも隠れていましょう」
「お父さん、窓閉め忘れたから部屋に行ってくるよ」
「あぁ、スープが冷めるから、早く戻ってきなさい」
ガチャ、バタン。部屋のドアが無造作に開けられ、可愛い足音が窓に近づいて行った。パタパタパタ、どうやら男の子のようだ。部屋に入ってきた男の子は床に転がっている紙飛行機に気がついた。
「あれ、これ、今日昼間に山で飛んでいった僕の紙飛行機だ。僕が書いた絵で作った紙飛行機だ。うわー、一人で戻ってきたのかな。すごいや」
「こんにちは。ポール。私は水の妖精クリア。あなたの作った紙飛行機に乗ってやったきたのよ」
クリアはポールの目の前で羽ばたきながら挨拶をした。素直なポールはもっと小さな時から妖精の存在を信じていたので、驚きはしなかった。
「こんにちは。あの山の妖精さんなんだね。嬉しいなぁ。お友達になってくれる」
「もちろん、喜んで。でもお父さんたちには内緒よ」
「うん、わかった。じゃあ、急いでご飯食べてくるから待ってて」
了
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