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3月11日 いのちの日 【SS】犠牲

日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。


【今日は何の日】- いのちの日

2011年(平成23年)3月11日に発生した東日本大震災では多くの命が失われた。命の尊さを思い、命の大切さを考え、震災で学んだことを風化させることなく災害に備えることが目的として「災害時医療を考える会」が制定した。


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【SS】犠牲

 現代社会では、様々な事故が起きて多くの犠牲者が出てしまうことがある。その多くは天災に起因するが、その天災を誘発しているのは人災なのかもしれない。そして最悪なのは戦争による犠牲なのだろう。毎回ニュースで報道されるたびに「もう二度とこんなことが起きないように」と思ってしまう。しかし、人間は忘れるのが得意な動物なのだ。「喉元過ぎれば熱さ忘れる」という諺もあるように、記憶というのは次第に薄れ、関係者でなければ年月と共に消えていくのだろう。

 月日は流れた。そして人々は何世代か交代した。過去の惨事は少なくとも生きている人の記憶としては無くなっている。あるのは記録映像だけ。誰かが意図的にその記録映像を引っ張り出して世の中に見せてくれないことには、人々は思い起こすことはないだろう。しかし、自然の摂理とは怖いものである。どんなに文明が進んだとしても自然の脅威は存在するのである。そして、文明が発達して自然を刺激すればするほど自然は脅威を増した災害を起こしてしまうのかもしれない。

「揺れてるぞ。気をつけろ」

 ここは、宇宙ステーションと地球を繋いでいる宇宙エレベータのクライマーの中だ。地上のエレベータの箱に当たる部分はクライマーと呼ばれている。どうやら予想以上の強風が吹き荒れてハリケーンへと発展し、クライマーが移動するためのケーブルが揺れているようだ。地上のエレベータと違って、ワイヤーで巻き上げているわけではない。宇宙エレベータは、ケーブルを中心としたクライマーと呼ばれるカプセルがケーブルをよじ登ることで移動するようになっている。ケーブルが切れてもクライマーは落下しないような安全装置はついているが、揺れは自然現象の影響を受けるので制御し切れない。それに、ケーブルが切れた場合は、重力バランスが崩れることになり宇宙ステーションも影響を受けることになる可能性が高い。

 「まずい、ケーブルに亀裂が入っていそうだ。最悪キレてしまった場合、宇宙ステーションは地球と反対側に引っ張られてしまう可能性もあるぞ。しかし我々が乗っているクライマーはすでに地球に戻れる状態にはない。なんとかして宇宙ステーションまで辿り着かないと脱出する術も失ってしまう。自動制御を解除して手動運転で宇宙ステーションまで移動させよう」

 クライマーに乗っていたのは宇宙ステーションに向かおうとしていた研究者たち五人だった。クライマーの中に緊張が走っている。手動でクライマーを動かすというのは、手動でスピードコントロールをしながら宇宙ステーションまでよじ登っていくということを意味する。適度な速度を揺れの状態を感じながら制御するのは至難の業である。

 その頃、宇宙ステーションでは、ケーブルが切断された場合の対応について協議が始まっていた。現在、宇宙ステーションを中心として地球側と宇宙側のケーブルの長さを同じにすることで「やじろべぇ」のようにバランスを保っている。したがって、地球側のケーブルが万が一切断した場合は、地球と切断部分の距離の半分の長さのケーブルを地球側に向かって移動させればバランスを取ることができるだろうと結論が出た。宇宙ステーションにはケーブルを移動させるための機能もつけられている。だが、バランスはできるだけ時間をかけずに実施しなければ宇宙ステーションの軌道がずれてしまうかもしれない。そうするとクライマーをある程度犠牲にせざるを得ないという決断を迫られることなる。

 クライマーの中にいる研究者たちは当然ケーブルが切れた時の対応がどうなるかということは察しがついていた。それだけにケーブルが切れてしまう前に宇宙ステーションにたどり着いておくことしか助かる道はないと理解していた。手動によるクライマーの上昇処理が始められた。揺れを体で感じながら、クライマーについているバッテリーの力でモーターを回しケーブルをよじ登っていく。宇宙ステーションがとてつもなく遠い位置にあるような錯覚に陥り始めていた。

 しばらく経った時、ハリケーンの威力が増した。巨大な竜巻も起こり岩や車も空中に巻き上げられていた。それが宇宙エレベータのケーブルを何度も直撃していた。かなり頑丈に作られているケーブルではあったが、繰り返しの衝突により亀裂は増えていた。そして遂にその時は訪れてしまった。大量の岩が巻き上げられケーブルを直撃したかと思った時、成層圏の少し下のあたりでケーブルが切断してしまった。支えを失ったケーブルは鞭のようにしなりながら、宇宙ステーションのバランスに影響を与えた。当然クライマーも大きな揺れに見舞われた。

「ケーブルバランスを早急に回復せよ。クライマーには犠牲になってもらうしか方法はない」

 宇宙ステーションの中では、非情な決断が下された。クライマーを犠牲にしてケーブルバランスを維持させる指示がでてしまったのだ。瞬時にケーブルが地球側に向かって送出された。クライマーはそのスピードに耐えられず、ケーブルから外れて落下した。中に乗っていた研究者五人は落下の強烈なショックで気を失った。だが彼らは気を失う前に自分たちの運命を理解していた。宇宙ステーションに向けてメッセージを発信していたのだ。

「われわれ五人の命は、今後の地球の未来のために捧げます。もし、ケーブルが切断してしまったら迷うことなくケーブルバランスの回復処理を実施してください。我々も宇宙ステーションの研究者の端くれです。そのくらいの覚悟はいつでもできています。判断の迷いは犠牲を大きくするだけです。最も、そうなる前にクライマーが宇宙ステーションに着くことをほんの少しだけ期待はしていますけどね」

 このクライマーの犠牲は、宇宙エレベーターの発展のために大いに役立てられると共に、五人の死を偲ぶ記念碑が建てられた。そこには「宇宙ステーションを救った強く偉大な研究者たち五名への感謝の記念碑」という文字が刻まれている。



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