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11月3日 難聴ケアの日 【SS】遺書・たくらみ

日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。


【今日は何の日】- 難聴ケアの日

埼玉県さいたま市大宮区に本社を置き、補聴器を中心とした聴覚関連機器の販売などを手がける株式会社岡野電気が制定。

日付は「いい(11)みみ(3)」(いい耳)と読む語呂合わせと、難聴ケアを文化にしたいという思いも込めて国民の祝日「文化の日」である11月3日とした。

難聴が原因で起きる様々な障害の重大性を知る機会を作ること、難聴予備軍の人に正確な情報を提供すること、そして障害が発生する前に対策を取ってもらい、難聴を改善するきっかけの日とすることが目的。記念日は2020年(令和2年)に一般社団法人・日本記念日協会により認定・登録された。


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【SS】遺書・たくらみ

<昨日のSSの続きです>

 詐欺師グループの介護要員は、ほぼ毎日のように訪問して来ていた。ただ、通常の介護とは違い、身の回りのことを支援するわけではなく、あくまでも書道の練習を見守ることがメインだった。時には代行で買い物に行くことはあったが、動けない老人でも無いので、特に他に支援することはなかったのだ。そんな中、老人は介護してくれる人たちの言葉が聞き取りにくいなと感じ、息子に連絡を入れた。

「どうも、補聴器が合わなくなっているような気がするんだ。調整してもらいに行きたいから横浜駅の店に連れて行ってくれないか」

「ああ、父さん、分かったよ。そろそろタイミング的にも前回から三ヶ月以上たってるからちょうどいいね。じゃあ、予約をしてまた連絡するよ」

 老人は、オーティコンの補聴器を使っている。結構な値段だが、いい性能には代えられないと思っているようだ。何しろちゃんと聞こえないと正しい判断もできないと考えている人だったから。予約はすぐに取れたようで、翌日、息子が迎えに行くことになった。その連絡を受けて老人は、介護サービスに連絡をした。

「もしもし、正直介護さんですか。毎日訪問していただいている横浜の山本正雄というものですが、明日は急遽外出することになりましたので、訪問は不要となりましたので連絡しました」

「山本様。ご丁寧な連絡、ありがとうございます。明日は訪問不要という件、了解いたしました。もし、差し支えなければ、外出の目的をお知らせいただけると助かります」

「ああ、ちょっと補聴器の調整をしてもらいにね、息子の正行と出かけるんですよ」

「かしこまりました。お気をつけて行ってくださいませ」

 なんとも気持ち良い対応だなと老人は思い、息子にも介護のことを伝えておこうと考えていた。翌日、そう、老人が遺言書を書く一週間ほど前、息子が迎えにきて補聴器の調整を実施するために横浜の駅まで出かけた。補聴器のお店に到着して、聴力の再計測も終わり、無事に音量の調整も終了した。

「やっぱり、アフターケアがしっかりしているね。この補聴器にしてよかったんじゃない」

「ああ、そうだな。よく聞こえるし満足だよ。あ、そうだ。実はな、今、介護サービスの人が毎日来てくれていてな。それがまた親切なんだよ」

「えっ、介護の人が来てるの。父さんが依頼したのかい」
「いや、そうじゃない。なんだか、市の方で手配してくれたみたいだぞ。それで介護に来た人がな。リハビリには字を書くのがいいと提案してくれてな。今、毎日書道の練習をしてるんだ。昔はよく書いてたから、若返った気分だぞ。まぁ、小筆だけどな。手首のところにベルトみたいなものをつけて筋肉か何かわからないがデータを取っているみたいだ。これが楽しくてな」

「ふーん。父さんが楽しければいいけど。ちゃんと確認したほうがいいよ」

「ああ、分かってるさ」

 この後、息子の正行は市役所に電話をして確認をした。どうも腑に落ちなかったからだ。結果、案の定「市では手配をしていない」と言われた。そこで、正行は偽の介護要員の狙いがなんなのかを探るために父親が住む家にカメラを設置することを思いついた。早速、家電販売店に行き、ウェブカメラを購入。父親が普段生活をしている部屋と隣の部屋に人感センサーを付けて、人の気配を感じて起動するカメラを取り付けた。

 翌日、偽の介護要員がやってきた時、父親が言っていたように、手首にベルトのようなものを巻かれてから、父親はいつものように書道を楽しみ始めた。くっきりと写っている。しかも、隣の部屋ではパソコンのようなものを見ながら作業をしている様子も確認できた。正行は確信した。父親の筆跡を盗んでいると。その行為は、一週間後に証明された。いつもより多くの機材がセットアップされている。どうやら父親は遺言書を書いているようだ。そして、隣の部屋でセットアップされた機械には筆がセットされ、父親の動きを追いかけるように文字を描き始めた。

『こ、これは。遺言書をリアルタイムで複写してるんだ。お、書き終わったみたいだ。えっ、複写した方には追加で文言が加えられている。そういうことか。そのためな父親の筆跡を学習させていたのか』

 父親が書いた遺言書は最後に署名するところまでを隣の部屋で複写され、その後に「相続者は、相続した金融資産の一割を正直介護財団に寄付すること」という文言が足され、機械による署名が書かれた。なるほど、うまく考えたものだ。金額に左右されることのない文言だ。そして封筒に入れられ、父親が書いた遺言書とすり替えられていた。

 この後、正行は父親にビデオを見せて遺言書を書き直させた。同時に、介護も息子夫婦と住むことになったから不要という電話をかけた。正行は警察に通報しようかどうしようかと悩んでいたが、父親の気持ちを傷つけてしまうかもと思い、とどまった。それから、三年後、父親は徐々に体力を無くし老衰でこの世を去った。葬式には、なんということか、偽の介護要員が現れたのである。この時、正行は警察に通報した。当たり前の話だが、遺言書はすり替えられた後、何度か書き換えられ正しい内容になって弁護士に渡されていた。偽の介護要員は、別の場所で補聴器の売りつけ詐欺も実施しながら遺言書の書き換えを繰り返していたようだった。

 通報で駆けつけた警官によって、偽の介護要員の詐欺チームは逮捕された。詐欺チームは全く知らないと言っていたようだが、ビデオを見せられて観念したように項垂れた。この後、他での被害額も明らかになることだろう。


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