8月7日 機械の日 【SS】見分けられない
日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。
【今日は何の日】- 機械の日
2006年(平成18年)に日本機械学会が制定。
七夕の読みが「棚機(たなばた)」という織機で神に捧げる御衣を織ったことに因むことから。また、七夕は技巧上達を祈念する中国の「乞巧奠(きっこうでん)」に由来し、奈良時代に日本に伝来したとされている。8月1日から7日を「機械週間(メカウィーク)」とし、”機械”の意義や役割を広く社会と共に考え、人間と機械のふさわしい関係を模索するための日。
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【SS】見分けられない
人間は、自分と瓜二つの顔をした他人が三人は存在しているという。そんなことをまことしやかに信じ、ドッペルゲンガーと呼ぶ幻覚の一種まで話は作られていた。自分にそっくりなドッペルゲンガーは、話をしないとか、二回遭遇すると死んでしまうなどと言われていた。ただ、歴史上で実際にドッペルゲンガーを見たという記録もあるらしいので、もしかしたら科学を超えたところに存在するのかもしれない。科学的に見れば、自分に似ている他人ということであれば、遺伝子の組み合わせが似ていると姿形も似てくるということらしい。ということは人口が増加すれば、その確率も増加しそうだ。あくまでも、自分に似ている他人というだけであって、ドッペルゲンガーではないが。
自分にそっくりな別の自分という存在が実在し、自分の意思通りに動いてくれれば面白いだろうなと考えている若者がいた。自称、ロボット研究家の長福昇太である。昇太は自分だけの研究室を自宅の地下に作り、二足歩行のロボットを研究し続けていた。親から譲り受けた資産があり、研究費用には事欠かない。その点では恵まれていたが、早くに両親を無くしていたので親の愛情はあまり受けていなかった。
昇太は、両親と自分にそっくりなロボットを作り上げようとして研究に没頭していた。ロボットの家族を作って親の愛を再現したいと考えたのだ。自分にそっくりなロボットは自分をスキャンしてデータ化することで顔を再現できるが、両親は亡くなっているので、写真から立体データに変換するしかない。何枚かの写真のデータから立体にするための数値を算出し、なんとか制作の目処がついた。
「よし、頭脳に利用するAIは三体とも同一の回路だが、学習する内容を変えることで三人の特性を持ったロボットにすることができるだろう。まずは、自分自身の分身ロボットを作ってみよう」
こうして自分自身の分身ロボットを作るための試行錯誤が始まった。シリコンの皮膚が不自然に見えないように毛穴まで再現した。手足の動きも人間と遜色ないスムーズな動きを実現できた。内蔵するバッテリーも大容量を実現し、丸一日充電なしで稼働するようになった。あとは学習だ。昇太は自分の性格やこれまでに習得した知識をロボットに教え込んだ。自分の分身ロボットに学習させていくうちに昇太は変な気持ちになっていた。
「この分身ロボットが完成したら、僕は表に出なくても生活できるようになるかもしれない。分身ロボットに、僕の代わりに社会との接点役を担ってもらい、僕はここで研究に没頭することが出来るようになるかな。そのためには完全なコピーを作らなければいけないな」
ある程度学習が進んできた時、昇太は最後に自分の癖を学習させた。考え方や身振り手振り、そして癖までも完全な翔太のコピーを作り上げた。
「できた。完璧だ。これなら他人が見たとしても、僕そのものだ。よし、充電が完了したら外部の人間との接触はこの分身ロボットに全てを任せよう」
次の日、デリバリーでピザを注文して、受け取りを分身ロボットに対応させてみた。モニター越しで対応を見守っていたが、どう見ても人間としての対応にしか見えない。昇太は満足していた。その勢いで両親の分身ロボットを一年をかけて作り上げた。分身家族が誕生した。当たり前だが、近所の人は両親が亡くなったことを知っている。したがって、この場所で両親の分身ロボットを見られるわけにはいかない。昇太は、知らない土地に一軒家を購入し、そこに分身家族を住まわせることにして、自分はこれまでの研究室での生活を続けることにした。引っ越し業者の選定から引っ越しそのものまで、昇太の分身ロボットに全て対応させた。
「誰も知らない家で分身家族に生活をしてもらおう。ロボットだけれど自立した生活が出来るはずだ。ここからはモニターで監視していればいいだろう」
昇太の計画は面白いほどうまくいった。分身ロボットは、近隣の住民とも友達になり、家族ぐるみでも付きあうようになっていた。完全に街の住民として認められ溶け込んでいた。分身ロボットは日々新しい情報を自ら学び、住民のことや街のことを正確に把握していった。次第に住民からの信頼も高くなり、分身ロボットの昇太に対し「街をもっと良くするために議員に立候補してくれないか」という話まで持ち上がり始めた。流石に公の場に出させるわけにはいかないと思ったのだが、地下研究室にいる昇太は困惑していた。分身ロボットは、モニターで監視できるのだが、リモートから制御できるような機能は実装していなかったのだ。
分身ロボットは昇太が恐れていた「暴走」状態に入り始めた。自らが学んだことをベースに判断して行動するようになり、独立した人格を持つようにまでなってしまったのである。昇太は恐怖を感じるようになった。
「まさか、分身ロボットは、僕のことをドッペルゲンガーだとして始末してしまおうと思い始めていないだろうな」
その頃分身ロボットは、懸命に推理小説を読み漁り「密室殺人」を学習していた。そして、昇太がいる地下研究室は分身ロボットによって閉鎖され鍵をかけられてしまった。人間と同様の考え方をしてしまう頭脳を与えてしまったことが、そもそもの始まりだったのかもしれない。
了
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