4月14日 タイタニック号の日 【SS】海中旅行
日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。
【今日は何の日】- タイタニック号の日
1912年(明治45年)のこの日、初航海中のイギリスの大型客船「タイタニック号」が、北大西洋ニューファントランド沖で氷山に激突し、翌日未明にかけて沈没した。
イギリスのサザンプトン港からニューヨークに向けて出発したのが4月10日。その4日後の出来事だった。沈没に要した時間はわずか2時間40分。乗客乗員2208人のうち1513人が死亡または行方不明となる大惨事だった。これは当時、海難事故における最大の死者数であった。
この事故の原因や被害には、救命設備・流氷の監視・無線電信など様々な問題が関連しており、その後の船の安全確保において多くの教訓が生かされる結果となった。
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【SS】海中旅行
豪華客船による世界一周旅行、誰しも一度は憧れた旅行手段。それがコロナ発生と共に危険な空間としての認識が広がった。船内感染が広がり同時に乗客から乗務員にさらには乗客が上陸してウィルスが拡散するという事態になり、慌てて船内隔離が実施されるというニュースがずいぶん過去のことに感じられるようになっている。すでにマスク着用も個人の判断に委ねられ、人々はコロナを恐怖ではなく、受け入れて生活することに慣れてきているように感じる現在である。旅行業界も補助金の後押しを受け、国内需要も回復基調となり、インバウンドの旅行客も増加しつつあるようだ。
そんな需要の回復を待っていたかのように、水面下ではとある計画を練っている投資家がいた。今や宇宙への旅行も視野に入り始め、富裕層に向けて販売する時代になっているのだが、この投資家は足元に着目していた。
「この美しい地球の源である海をもっと観光資源として利用すれば、もっと利益を得られるんじゃないか。少なくとも海中を観光するための近場を周遊するような乗り物は存在しているが、潜水艦で世界を旅行することができたなら注目度は最高に高くなりそうだ。まぁ、いろいろな障害はあるかもしれないが不可能な話ではないな」
こんなアイデアから始まった極秘プロジェクトが間も無く完成する。海中は各国の軍事活動の場でもあり、航路の許可を取るのにはかなり苦労した。陸の近くでは必ず一部を海面に出して航行する制約を付けられたり、四十メートルより深い水深のところを航行しないことも約束させられた。最も厳しく確認されたのは安全性だ。万が一推進力を失った場合の浮上方法やその後の避難手段など細かくチェックされた。もともと安全面には気を使って設計していたため、ほぼ想定内の基準だった。最も苦労したのは推進力の部分だった。原子力を利用するわけにはいかないので、新しくエンジンを設計し最新テクノロジーを採用した。海水から水素を取り出し水素で稼働するロータリーエンジンを搭載した。ロータリーエンジンにすることでエンジンルームを極端に小さくすることが可能となり、その分バッテリーを搭載できる量を大幅に増加させることに成功した。航行中のエンジン音が響かなくなり船内の静粛性も向上する副次効果まで得られたのだ。もちろん、バッテリーを増やしたことにより海中での移動も四十ノット以上の速度が可能になったのだ。書き忘れたが潜水艦は海面を航行中はエンジンを利用して電気をバッテリーに蓄積し海中に潜った時はモーターの力で推進する。これは海中では空気の吸排気ができないため、燃焼しなければならないエンジンは利用できなないからだ。
何日も旅行することを考えた場合、室内が静かであることは望ましい。資金を出した投資家も喜んでいた。完成した潜水艦はなんと全長が約二百メートルもあり、世界最大級の潜水艦となった。部屋数は二百室も作られている。もちろん、海中展望室や娯楽設備も充実している。誰も考えていなかった海中旅行の実現も間近に迫っていた。全ての準備を終え、いよいよ旅行ブランの売り出しを開始した。「美しくしずかな海中旅行」ということを売り文句にしている。もちろん富裕層向けではある。旅行代金は一名三百万円からで十日間の海中旅行だ。寄港する国は三カ国、全ての国において港に直接接岸することはなく、沖合に停泊し専用ボートで上陸して観光するというプランになっている。
世界中の富裕層がこぞって申し込みを実施した結果、向こう一年分のチケットが売り切れてしまった。投資家は、このペースなら潜水艦に投資した分は三年くらいで回収できそうだと算盤を弾いてニヤついていた。順調な立ち上がりが期待されて処女航海の日がやってきた。処女航海はコースを短くして招待客を中心に実施される。出発地は東京湾沖だ。ここから小笠原諸島を目指す五日間のコース設定だった。
この日は招待客のみということで、客室半分だけの稼働にされていた。乗客はワクワクしながら乗り込んだ。初めてというのはワクワクと同時に心配にもなるものだ。航行中は日の出と日の入りの前後二時間は充電のために海上を航行する。そして乗客は日の出と日の入りの景色も楽しめるようにプランされていた。乗客は物珍しさもあり、最初の日は楽しく過ごせたのだが、そのうちに、常に夜の状態で生活している感覚となり、開放感を感じられなくなっていた。航海二日目は上陸予定である。乗客は一斉に小笠原に上陸した。太陽を感じ開放感を感じることがこんなにも爽快なのかと誰しもが思った。そして、一人の招待客が宣言していた。
「せっかくの潜水艦旅行だが、私はここで下船することにするよ。やっぱり海上で風や太陽を感じながら移動する方がいい。設備は最新で快適だが、自然を感じられない箱の中では面白くない。最初は海の中が見られて綺麗だろうなと思っていたのだが、水深四十メートルでは窓から外を見ても昼間でも暗いし、面白いと感じない。夜はもう真っ暗で何も見えない。水族館と違って魚ともそれほど遭遇がない。これではまるで囚われているような錯覚に落ちいるから私はもう乗らない」
この言葉を皮切りに、全員が賛同してしまい、招待客全員が旅行の継続をギブアップしてしまった。招待客のなかには旅行ライターや週刊誌記者もいた。結局、潜水艦旅行は前評判倒れとなり「長期旅行には向いていない旅行手段」として紹介されてしまった。一年先まで予約でいっぱいだったのが、この経験記事がウェブ上で拡散され翻訳されると同時に、全ての予約がキャンセルされてしまった。投資家は描いていたシナリオ通りに進まなかったことを悔やんではいたが、海難事故は起こしていないということを前向きに捉え、この潜水艦を海上自衛隊へ提案し、買い取ってもらう交渉に入っていた。転んでもタダでは起きないのが投資家である。値崩れを起こしてしまう前に手放すことで損失を最小限にする行為のタイミングを心得ているのだ。この投資家は、日本の自衛隊だけではなく主要各国にも打診をしている。航空機を飛ばせない時の大統領避難場所としての活用に適しているというのがアピールポイントのようだ。どうやら石油で潤っている某国も購入検討を開始したようだ。
タイタニックの沈没の影には多額の保険金がかけられていたという話もある。投資家は無意識のうちに自分を守る術を備えているのかもしれない。できれば、巻き添えになる乗客のことを一番に考えて欲しいものだ。押し付けの計画はどこかで綻びが出るものだから。
了
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