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3月3日 金魚の日 【SS】異次元の金魚

【今日は何の日】- 金魚の日

日本鑑賞魚振興会が制定。江戸時代、雛祭りの時に金魚を一緒に飾る習慣があったことに由来するようだ。

キンギョ(金魚)は、コイ科フナ属で、フナの突然変異から観賞用に交配を重ねた結果生まれた観賞魚である。日本には室町時代に中国から伝来し、江戸時代から養殖が盛んに行われるようになり、金魚すくいなどにより庶民の間に広まったとされる。


【SS】異次元の金魚

 今日はひな祭り。女の子のいる家では綺麗な雛人形が飾られていることだろう。同時に綺麗な金魚も日の当たる場所で泳いでいるかもしれない。今では、金魚も共に愛でるひな祭りは少なくなったが、江戸時代には水に関係あるものの一つで綺麗な金魚はいつしかひな祭りに一緒に飾られるようになったとのこと。では金魚はどうやって生まれたのだろうか。もともとは、フナやコイに混ざって綺麗な紋様の金魚が混ざっていてその後養殖で繁殖されたと伝わっている説があるが本当なのだろうか。江戸時代の初期の頃に遡ってみようか。

 時は江戸時代初期、とある金持ちの薬問屋の中庭にある池で異変は起きた。池の中には、それはそれは美しい鯉が悠々と泳いでおり、来客の目を楽しませていた。気を良くした薬問屋の主人の薬介は、可愛い十歳になる孫娘のために池を大きくしてやろうと考えていた。どうせならひな祭りの日に間に合わせてやりたいと考え、庭師を呼んで通常の倍の費用を払うから間に合わせるようにと依頼した。

 仕事を引き受けた庭師の与太郎は「がってんだ」と安請け合いをして安い給金で働いてくれる農民を連れてきて薬問屋の中庭の池掘りをさせた。すると農民の一人が変なことを言い始めた。

「与太郎の旦那、池を掘り終わって周りを石で固めて水が漏れねえようにして、水の引き込みを作ろうとした途端に掘った池の底から水が噴き出してきたんでさぁ」

「何、水が勝手に出てきたと言うのかい。そいつぁあ、井戸でも掘り当てたんじゃねぇのかい」

「へい、あっしも最初はそう思ったんですが、たかだか二尺くらいの深さしか掘ってねえんです。だから水が湧くはずがねぇんですが」

「そいつぁあ、不思議だ。どれ確かめてみよう」

 与太郎は、農民が掘った新しい池を見にいった。確かに、隣の池と同じくらいの水位に水が溜まっている。だが、水の引き込みからは、水は出ていない。なんとも不思議なことがあるもんだと不思議に思い、時が経つのも忘れ、しばらくじっと水面を見つめていた。するといくつかの波紋が広がった。そっと覗き込んでみると、なんと魚が数匹泳いでいる。鯉よりは小さくなんとなく小判くらいの綺麗な魚に見える。泳ぎ方もゆっくりでゆらゆらと揺れるように、透き通るような尾鰭を左右に振って泳いでいる。与太郎はまたまた見入ってしまった。何をしに池に来たのかと言うことをすっかり忘れていた。

 隣で農民は困ったようにモジモジしながら与太郎の動向を見守っている。やっとそのことに気がついた与太郎は農民に行った。

「これは、神様の贈り物じゃ。神様が我々の仕事を褒めてくださっているのだろう。よし、お前たちは道具を片付けて帰っていいぞ。あとはこの与太郎様が旦那様に話をしておくからな。それ今日の給金だ。みんなで分けろ」

「ありがとうごぜえます。ほんなら、わしらは帰らせていただきます」

 農民が帰ったことを確認して与太郎は薬問屋の主人に作業終了の報告に行った。もしかすると褒美をもらえるかもしれないと思っていた。

「薬介の旦那、おいでになられますか」

「なんだい、与太郎」

「へい、作業も無事終了いたしました。水も魚も入れてありますのでご確認くだせぇ」

「お、仕事が早いね〜。ん、水も魚もと言ったかい。どこから魚を持ってきたんだい。まぁ、確認しに行ってみようではないか」

 こうして薬介と与太郎は中庭の池のほとりにやってきて二人して池を覗き込んだ。確かに何匹かの魚が泳いでいるのが分かる。しかしどこかで見たような魚だなと思い、薬介はさらに近づき水面に顔を近づけ、まじまじと泳いでいる魚を見つめた。

「こ、これは。。。」

「どうです。旦那。綺麗な魚でしょう。色は赤いけどまるで小判のようじゃありませんか。いやー、近くの川で偶然に見つけやしてね。ここに運んだ来やした」

「ほお、そうかい。それはそれは、ご苦労を掛けたね。なんぞお礼をせねばなるまいな」

「へへ、そんな礼だなんて。まぁ、いただけるものは戴きますが」

「そうか、そうか。おーい、五平、金魚泥棒をとっ捕まえておくれ」

 後ろの小屋から五平と呼ばれた体の大きな男が現れ、与太郎を縛り上げた。与太郎は何が何だかわからず、泣きついた。

「旦那。旦那。これは一体どう言うことですかい。あっしが何か悪さしましたか」

「お前は、川から魚を取ってきたと言ったが、池で泳いでいる魚は『金魚』と言って、私が繁殖させている魚なんだよ。川にこんな美しい魚がいるはずなかろう。馬鹿者め、わしを騙そうなんて百年早いわ。この金魚泥棒め」

「ひぇー、申し訳ございません。悪気はなかったんです。池を作ったら勝手に水は入るし勝手に魚は出てくるので神様からの贈り物かと思っただけでございます。許してください。決して盗んではおりません」

 まじまじと池の底の方を見ていた薬介は与太郎に言った。

「なーるほど。そう言うことか。与太郎、お前は池を作る時に地面の下を通って向こうの池と繋がっている水路まで掘ってしまったんじゃな。大方、それで水も入り込んで、そのあと水路に開けた穴が小さかったので、鯉は通ることができず金魚だけが新しい池に入り込んだのだろう。水路は、向こうの小屋の水槽に繋がっているのじゃ」

 金魚の繁殖を担当していた五平は間違いないとうなづいて薬介に合図を送っている。金魚の繁殖と池の水の交換や池の中の魚の避難のため、地面を一旦掘り返し水路をつくり石の蓋をして、また埋め戻していたのだった。池を作る時に農民たちの鍬が勢いあまってその水路を壊していたと言うのが事実のようだった。この後、金魚が盗まれたわけではないとわかり、薬介は与太郎を放免してくれ、当の与太郎は、ほうほうの体で家に帰っていった。

 その頃先に引き上げてなんを逃れた農民たちは、自分たちの村に帰り、与太郎からもらった給金を分けながら笑って話していた。

「いやー、地面の下の石を割ってしまった時にはたまげたけど、与太郎がバカでよかったなぁ。おかげで給金も、ほれこの通りじゃ。さぁ、みんなで分けるぞ」

 金魚の繁殖の裏にこんな騒動があったことはどこにも記録されてはいない。


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