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8月2日 帆布の日 【SS】大航海

日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。


【今日は何の日】- 帆布の日

「高島帆布」などで知られる滋賀県高島市で産業用資材基布・道着の製造、販売などを手がける駒田織布株式会社が制定。

日付は「帆布(はんぷ)」には10番糸(8+2)を使うことと、「8」と「2」で「はん(8)ぷ(2)」(帆布)と読む語呂合わせから。帆船の帆を起源として、工業資材やトラックの幌(ほろ)・生活雑貨・カバンなど様々な分野に使われている帆布の丈夫さや天然素材の優しさなど、その魅力をより多くの人に知ってもらうことが目的。記念日は一般社団法人・日本記念日協会により認定・登録された。


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【SS】大航海

「みんな、ご苦労だった。今回は一年間にもわたる北への大航海を無事終えて、我々の港に帰ってきた。得るものも多い旅だった。人魚や妖精に助けられたり、海のモンスターともいえる巨大なタコや鯱との戦いにも耐え抜き、何とか帰ってくることができた。これも、みんなの恐れを知らぬ勇気と行動の賜物だ」

「キャプテン・ドリーム。お疲れ様でした。これで、わしらも港に帰ってきて、女房の胸でゆっくりと眠れます」

「そうか、そうか。眠れるといいな。お前の恋女房は首を長くして待っていたはずだから、そう簡単には寝かしてくれないかもしれんぞ、ワッハッハッハ」

 船乗りたちは、港に戻ってきた安心感で、冗談を口々に言い合い、笑い合っている。その光景を建物の壁の陰からそっと見守っている婦人がいた。そう、キャプテン・ドリームの妻、ルーシーだった。ほっとした様子で、船乗りたちが散らばるのを待っている。ちょっと恥ずかしがり屋のルーシーは、注目を浴びるのが苦手なのだ。しかし、目ざとい船員の一人に見つかってしまった。

「おっ、キャプテン・ドリームの恋女房ルーシーだ。早く帰ってきてという視線を送ってますぜ」

「ワシを冷やかすんじゃない、ジョー。おーい、ルーシー、こっちに来てみんなに顔を見せてやれ」

 少し下向き加減でルーシーは小走りにやってきて、ピョーンとキャプテン・ドリームの胸の中に飛び込んだ。キャプテン・ドリームは、その小さく華奢な体をしっかりと受け止めてキスをして、みんなの方を向かせた。拍手喝采が沸き起こった。

「みなさん、おかえりない。本当に無事でよかった。私の大切な人を連れて帰ってきてくれて本当にありがとう。皆さんの愛する人も次々に港に集まってきてますわ。しばらくの間は、辛かったことは忘れてゆっくりと安らぐ場所で過ごしてくださいね」

「おい、ルーシー。ワシよりもいいスピーチをするなよ。立場なくなるぞ〜」

 港中が笑いに包まれ、安堵の空気が流れていた。港の女たちは、ルーシーをリーダーとして、男たちが留守の間、港と家を守り続けてきていたのだ。そして、次の大航海までの間、束の間の幸せな時間を楽しむとともに、女たちには大切な仕事が待っていた。大航海で傷んでしまった船の帆の作り替えをするのだ。半端ない数の帆を修復したり、新しくしたりする作業が待っていた。そして、古くなった帆を使って、次の大航海の時に男たちが着ていく服に作り変えることもやってのけるのだ。男たちが港に滞在するのは一年足らず、また大航海に出かけて一年は戻ってこない。つまり、一年間持ちこたえられる帆と服を作らなければならないのだ。かなりの重労働ではあったが、自分たちが作った帆や服が大切な人を守るのだと思うと、辛いと感じることはなかった。むしろ、針を持つ手に力が入るくらいだった。

 そんな作業も船がついた後一月が経過した後から始まる。一ヶ月の間は、船から帆を下ろし、洗濯をして補修と作り直し部分を選別するのだ。そうしている間は大切な人との大切な時間を過ごす時だ。男たちは、酒場に出入りすることを一ヶ月だけは自粛する。つぎの航海の前までに自分の子供を作りたいと願う者、既に小さい子がいる家庭では一家で楽しい時間を過ごす者、それぞれは船の上では荒くれ者だったが、陸に上がると心優しい夫になっていた。キャプテン・ドリームも例外ではなかった。そろそろジュニアも欲しくなってきていた。何とか次の出発の前にはジュニアの顔を見たいと、夫婦ともに願っていた。

 平和で静かな時間が一ヶ月経過した。ルーシーの掛け声と共に、女たちは針仕事に精を出し始めた。今回は作り直す帆は八枚、決して少ない量ではない。船全体では大小あるが三十枚以上はあるのだ。女たちは港に集まり、陽気な歌を歌いながら、太い針を使って帆を作っていく。帆布自体は男たちが海に出ている間に紡いで準備していたものだ。女たちは男たちを支えるために、休むことなく働き続けている。男たちもそれを知っているからこそ、女たちを大切にしていた。

 帆を作り始めてしばらくした時、ルーシーが体調を崩した。港には医者はいない。そこに年配の女性がやってきて、にっこりしながら、ルーシーに告げていた。

「おや、おや、やっと赤ん坊を授かったようだね。これからが大事な時だ。針仕事は数ヶ月休んでみんなに助けてもらうといい」

 周りでは港の女たちが、この女性の言葉を聞いていた。一気にお祭りモードとなり、ルーシーは太い針を取り上げられ、綿の生地と小さな針を代わりに渡された。

「ルーシー、帆のことはあたい達にまかせておきな。あんたは、赤ん坊の服でも作って体を大切にしておきな」

「ありがとう。みんな。甘えさせてもらうわ」

 こうしてルーシーは、数ヶ月を自宅でキャプテン・ドリームと一緒に過ごして、妊娠も安定期に入り、通常の食事もできるようになった。その時には赤ん坊の服も出来上がり、準備万端となった。港では帆が出来上がり、古い帆布を切り分けて配布していた。それぞれの家庭で男達の服を作るためだ。ルーシーも帆布をもらい、懸命に縫いあげた。できたのは、キャプテン・ドリームの服と少し成長したら着せられる子供服、そして自分のスカートだった。

 南の海への大航海を控えた二ヶ月前。帆は張り替えられ点検している最中、ルーシーは無事に男の子を出産した。丸々と太った丈夫そうな子供だ。キャプテン・ドリームは、我が子にホープという名をつけ、喜びを船員達と分かち合った。二十年後には、若きキャプテンが誕生することだろう。


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