10月25日 民間航空記念日 【SS】鳥を目指した日
日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。
【今日は何の日】- 民間航空記念日
1951年(昭和26年)のこの日、戦後初の国内民間航空会社として設立された日本航空が、1番機の「ど星号」または「もく星号」で東京~大阪~福岡間の運航を開始した。
第二次世界大戦で敗北した日本は、連合国より軍民問わず、航空機を運用することを禁止されていた。当時は模型飛行機でさえ飛ばしてはいけなかったという。そして、この日にようやく民間旅客機の定期路線が就航した。
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【SS】鳥を目指した日
小さい頃から空を飛ぶことが夢だという男の子がいた。そんなことをいつもいう男の子を周りの友達はバカにしていた。
「おーい、飛太。お前はさー、いっつも空を飛ぶとか言ってるけど、お前の父ちゃん、仕事もしないで酒ばっかり飲んでるじゃないか。そんなんで空なんか飛べるわけないだろう。飛行機乗りになるのは金がいるんだぞー」
「ふん、そんな事ぐらい知ってるよ。僕が働いてお金を貯めて飛行機乗りになるんだよ」
「ワハハハ。そんなんじゃ、年取ってしまうから絶対無理だって、俺の父ちゃんが言ってたぞ」
何かにつけて、空を飛んでやると豪語していた飛太は、いつも友達から揶揄われてばかりいた。あまりにも悔しさが積もっていたので、ある日父親に文句を言った。
「父ちゃん、父ちゃんが飲んだくれてるから家には金がないんだろ。そしたら、僕は空を飛ぶことができないじゃないか」
「ん、飛太。なんだお前、飛行機乗りになりたいのか。そうか、まだ小さい頃の夢を追いかけてんだな。偉いなぁ」
「そうだよ。でも、すっごいお金がいるんだってさ」
「そんなこたぁ、ないさ。飛行機乗りになりたければ自衛隊にはいりゃいいじゃないか」
「自衛隊?」
「おお、まぁ、飛行機乗りは狭き門だけど、勉強すればなんとかなるかもな。航空学生っていうのを募集するはずさ。まぁ、今、飛太は小学生だから、今から死ぬ気で勉強して高校出たらなんとかなるかもな、ははは」
飛太は、家がお金持ちでなくても飛行機乗りに成れるんだという希望を持った。飲んだくれの父親は好きではなかったが、情報をくれたことに感謝した。今から勉強すればきっと間に合うと固い決意をしたのだ。そして、中学、高校と必死で勉強し航空学の低い合格率の狭き門に挑戦し、見事に合格した。飛太が受験した時には、倍率が百倍にも及んだ難関だった。
航空自衛隊の航空学生となった飛太は、すでに海外で飛行経験のある新入生や大学から航空学生となった新入生など自分よりも優れている人が多いことに驚いた。それほどまでしても挑戦したくなるのが航空学生だったのだ。飛太はめげるどころか、大いに刺激を受け、全ての時間を勉強に費やした。最初の二年間は座学のみだったので、若い飛太の柔軟な記憶力は武器となった。座学終了後はいよいよ実践教育に移った。二年間の教育である。この期間で飛行機の操縦免許を取得することになる。飛太は最初の座学二年間の時にも勉強の合間にトレーニングを欠かさず、筋肉作りも並行して実施していた。基礎体力は十分過ぎるほど出来上がっていたため、飛行実習で体にかかってくるGにも耐えられ、上位の成績で卒業することができた。
入学当初、多少なりとも不安はあった飛太だったが、持ち前の意地と頑張りで見事に飛行ライセンスを手にすることができ、戦闘機パイロットへと駒を進めることになったのだ。驚いたのは、父親のみならず、小学生の時に飛太のことをバカにしていた友達だった。手のひらを返したように、友達たちは「飛太の親友です」などとことあるごとに自慢していたらしい。
一人前のパイロットとなった飛太は、久しぶりに休暇をとって実家に戻った。残念ながら父親は、飛太が航空学生を卒業する前に、病気で他界してしまっていた。その時、飛太には父の死を知らされることなく、葬儀にも参列することができなかったのだ。航空学生を卒業した時に母親から知らされたのだった。そして今回、母親からとても信じられない話を聞かされることになったのだった。
「おかえり、飛太。よく頑張ったわね」
「ああ、グータラな親父を見ていたからね。友達にもバカにされていたし、やるしかなかったんだよ。最も、親父の葬儀に出られなかったのはちょっぴり残念だったけど」
「そうね。お父さんは、亡くなる時に絶対に飛太には知らせるなと言ったのよ。だから、お母さんも我慢したの。本当に悪かったと思ってるわ。でもね、もっと飛太を驚かせる話もあるのよ。今日は、それを教えてあげるわ」
「えっ、どういうこと。もっと驚くことって、何」
「お父さんはね、飛太が頑張ってくれるように、飛太が小学生の時は飲んだくれのフリをしていたのよ。あの時は、遺産も入ってお金には全く困っていなかったのよ。それどころか余っていたくらい。普通の大学に飛太を進ませるのは全く問題ないくらいの財産はあったし、お父さんは実はリモート専用の仕事をずっとやっていたのよ。だから仕事は真面目にやっていたの。ただ、飛太が家にいる時はいつもお酒を飲んで飲んだくれの真似をしていただけ。そうすることで、飛太のやる気を最大限にするんだと言ってね」
「えっ、何それ。じゃあ、自衛隊の話も仕込んであったってこと?」
「ええ、そうよ。防衛大に進ませて幹部を目指すよりもパイロットを目指した方が飛太は頑張れるはずだって言ってたのよ。お父さんは、飛太の性格とやりたいことを本当に理解していたんだと思うわ。ただ、こんなに早く亡くなってしまうとは思わなかったけどね。きっと、お父さんもそう思っていることでしょう」
仏壇に灯っている蝋燭が、喜んでいるかのようにユラユラと揺れたのを飛太は見ていた。そしてこの後、飛太は新たな挑戦をすることを仏壇の前で父親の位牌に誓った。
「親父。全く知らなかったよ。そんなに考えていてくれたんだな。今度は僕が親父を驚かす方かな。次の目標を決めたんだよ。自衛隊を辞めて、民間の航空会社のパイロットを目指すことにする。追加のライセンスも取らなければならないけど、ここまで頑張ってきたから最後までやってみるさ。その時は親父の位牌をお袋に持ってもらって、僕が操縦する旅客機に乗せてあげるよ。楽しみに待っていてくれ」
仏壇の蝋燭が再び、ユラユラと揺れていた。
了
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