【SS】 送ることのない手紙 #シロクマ文芸部
書く時間の始まりを知らせるチャイムが鳴った。各部屋では、一斉に姿勢を正して手紙を書く準備に入っている。書く時間のチャイムが鳴るのは、一日に二回のみ。起床して朝食を摂った後と就寝の二時間前だ。チャイムが鳴った後、最大一時間は手紙を書く時間として与えられている。
ここは、宇宙刑務所。宇宙空間で犯罪を犯した様々な惑星人が収監されている。言語も多すぎて把握できないくらいだ。宇宙刑務所のコンピュータは宇宙標準言語への変換機能を持っている。各犯罪者が書く手紙は一旦、宇宙標準言語へと変換され、AIにより検閲され、それぞれの宛先に宛てて送られることになる。
手紙自体は、紙の上に書くのではなく空中を指でなぞって書く。指の動き通りに各惑星の文字が空中に浮かぶ。それをセンサーが読み取ってコンピューターへと連携するのだ。したがって、ペンも紙も利用しない。セキュリティ的にも望ましい対応だ。
収監されている犯罪者の一人に地球人の男がいた。彼には地球上に家族がいた。彼は宇宙貿易の際の荷物を誤魔化して横流しをしていた罪で収監されている。刑期は十年。彼の娘は体が弱く、手術をしないと助からないと医者から告げられ、やむなく犯罪に手を染めてしまったようだった。しかし、犯罪を犯したことには変わりはない。理由はどうであれ罪の償いをしなければならいのである。
彼はいつも妻と娘に謝りの手紙を書いている。そして、書く度に書いた手紙を消去している。毎日そんなことを繰り返している。看守はその理由を知っていた。
「彼もかわいそうな奴なんだよ。子供は結局手術が間に合わずに死んでしまい、その後、夫が逮捕されたショックで妻も自殺してしまったんだ。ここに来てから彼は毎日毎日ごめんなさいという手紙を書いては消し、書いては消ししているんだ。見ているこっちの方が切なくなる」看守は新しく入った同僚に教えていた。
そんな彼は、今日も書く時間になると妻と子供への手紙を書いている。決して送ることのない手紙を。
了
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