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7月23日 米騒動の日 【SS】喧騒からの脱出

日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。


【今日は何の日】- 米騒動の日

1918年(大正7年)のこの日、富山県魚津町の漁師の主婦ら数十人が米の県外への積み出しを止めて、地元住民に販売するよう集団運動を起こし、この運動は全国にまで広がり、米騒動となった。

1914年(大正3年)の第一次世界大戦後の物価上昇の中で、都市部の人口増による米不足、米商人による買い占めや売り惜しみなどにより米価が急騰した。この米価高騰に苦しんでいた魚津町の漁師の主婦ら数十人が米の積み出しを行っていた十二銀行の米倉庫前に集まり、米の県外への積み出しを止めて地元住民に販売するよう要求し、米の搬出は中止された。この事件が新聞で報道されると、全国的な米騒動へと波及し、政府は警官と軍隊を投入し、また新聞報道を規制するなどして鎮圧しようとした。しかし、これは言論報道の自由を要求する運動に発展し、1918年(大正7年)9月21日に寺内内閣は総辞職し、原内閣が誕生した。


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【SS】喧騒からの脱出

 多くの発明により、一代で富を築いた日本人科学者がいた。彼の名前は人見守。四十五歳の努力家だった。人見は、伝説の人であるスティーブジョブズをこよなく愛し、いまだにSiriを愛用している。Siriといってもはるか昔の音声認識のシステムではなく、人見が作ったAIを呼び出す時のワードとして利用しているのだった。

 人見は、これまでに稲の水耕栽培管理システムとして苗の育成から収穫、精米、袋詰め、保管まで完全自動で行うビルを設計し完成させた。今では人見米というブランドで出荷している。ただ、日本人の米離れは予想以上に進み、市場では米がだぶつき値崩れを起こしていた。ただ、人見が作った稲作ビル自体は川から引き込んだ水や雨水を濾過して利用し、同時に水力と風力と太陽を利用した発電でエネルギーを賄っているので、最小限のコストしかかからないため、米の売値が下落しても痛手を被ることはなかった。

 人見は世の中に発表していない発明を一つ持っていた。それは、液体と個体であれば地球内の遠く離れた場所に瞬時に転送できる機能を持ったシステムだった。人見は考えていた。

「資源が何もないところでも風と太陽さえあれば電気エネルギーは作ることができる。そんな人が来ない静かな場所に生活拠点を置くことが、このシステムを使うことで実現できそうだな。私には家族はいないから静かな生活を送れるのならそれも悪くない。ロボットを数台作って家事を任せてしまえばいいかもしれないしな」

 人見は転送装置の小型化を実現した。携帯できるようにしたのだ。日本国内でも秘密にしている人見の研究所をベースとして携帯用の転送装置を持っていれば、自分自身を含めて転送することも、リモートからの指示で、研究所の内部にあるものを携帯の転送装置の場所まで転送させることもできるようになった。

 研究所の敷地内に頑丈なコンクリート製の二階建てビルを建設し、あらかじめ購入していたオーストラリアの砂漠地帯の土地へと建てたビルを転送した。ここが人見の新しい生活拠点だ。水は日本の研究所の地下水を転送して利用し、米は水耕栽培で自動収穫された分を自動転送するようにした。それ以外の日々必要なものは、自ら日本に買い物に行き転送してしまう。そんな不思議な生活が始まった。

 オーストラリアの砂漠でしばらくは平和で静かな生活が続いていた。転送生活も徐々に自動化を進め、今では三ヶ月に一度だけ買い物のために自らを転送して外出している。それも日本だけではなく各国に出かけている。考えてみればパスポート提示で外出しているわけではないので、正確には違法だとは認識している。いざという時には日本に戻ることで問題はないだろうと思っていた。そんな折、日本国内においてはるか昔の米騒動に似た騒ぎが起きていることをネットニュースで知り、一度様子を見るために久しぶりに日本に戻った。

 どうやら日本の米農家は廃業が進み、東北と九州の一部でしか米の生産をしていないらしい。それというのも、大量に出回った小麦依存の生活にどっぷりと浸ってしまっていたからだった。しかし、外国に頼っていた小麦は終わりのない戦争の影響でほとんど輸入できなくなり、政府は頭を抱えていた。小麦が入手できないため止む無く米を買おうとしたが米も流通が少なく、価格高騰していたのだ。一部の米流通業者は、ここぞとばかり値上げを敢行し利益を得ようとしているものだから始末が悪い。

 人前に出たくない人見ではあったが、国民が困っているのを黙って見ているわけにもいかない。人見の持っている稲作ビルは地下に大量の備蓄ができるようになっており、全てが瞬間冷凍で鮮度を維持した備蓄米が保管されている。有事の際に役立てようと思っていたものだ。ただ、公表してしまうことによって近くの住民が殺到しても困る。人見は政府に掛け合った。

「三千トン程度の備蓄米が私のビルにあります。倉庫を準備していただければ搬入しますので手配をお願いできますか」

「えっ、三千トン? どなたかは存じませんが、悪い冗談はやめてください。こんな電話に関わっている時間はありませんから」

 全く相手にされなかった。だがそんなことでめげる人見ではなかった。懸命に支援活動を実施しているいくつかのボランティア・チームにコンタクトを試みた。電話では嫌な思いをするかもしれないと思い、メールのみで連絡した。すると数カ所から送り先を指定する返信が来たのだ。人見は面倒だったが運送業者を手配し備蓄米を送った。転送すればコストもかからないが転送技術が公になってしまうので通常の運送にしたのだった。

 次々と送付される備蓄米の噂はあっという間に日本全国に広がった。一躍有名になってしまった人見は、注目されるようになり、本人の意思とは無関係にメディアの前に登場させられるようになってしまったのである。そんな時、最初にコンタクトしたボランティアチームの女性が気を使ってくれて、まるでマネージャのような振る舞いをして人見を助けてくれた。人の心は助け合うと近づくものである。一人が好きな人見もこの女性だけは例外となり、遅い春を迎えることになった。

 やがて二人は結婚し、人見の秘密だった転送装置も二人の秘密となった。二人は転送装置を二人の生活のためと困った人を支援するときだけ、こっそりと使うことにして決して公表することはなかった。世界がパニックになるだろうし戦争や犯罪に利用されると考えたからである。この二人が亡くなった後は、転送装置の設計図や制御するコンピュータはオーストラリアの砂漠の中のビルの中で朽ち果てていき、その存在すらも消えてしまった。また、同じような機能をもつシステムを発明する研究者は現れるのだろうか?


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