見出し画像

4月11日 中央線開業記念日 【SS】折り返し

日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。


【今日は何の日】- 中央線開業記念日

1889年(明治22年)のこの日、JR中央線の前身である甲武鉄道・新宿駅~立川駅(約27km)が開業した。

その後、8月11日に立川駅~八王子駅が開通、1906年(明治39年)6月1日に官設鉄道中央線・八王子駅~甲府駅が開通し、1906年(明治39年)10月1日に鉄道国有法に基づき買収・国有化された。1987年(昭和62年)4月1日に国鉄分割民営化により東日本旅客鉄道が承継した。
現在、「中央線(中央本線)」は、東京都千代田区の東京駅から新宿区の新宿駅、長野県塩尻市の塩尻駅を経由して愛知県名古屋市の名古屋駅までを結んでいる。このうち東京駅~塩尻駅間は東日本旅客鉄道(JR東日本)、塩尻駅~名古屋駅間は東海旅客鉄道(JR東海)の管轄となっている。


🌿過去投稿分の一覧はこちら👉 【今日は何の日SS】一覧目次

【SS】折り返し

 都内を走るJRの電車は色がカラフルで外観から識別しやすくなっている。その中で一際目立つオレンジ色が中央線だ。昔は車両全体がオレンジだったが、いつからか車体の中央にオレンジのラインが入るのみになった。最近はどの路線もラインで識別するように変わっている。確かに近代的な感じは受けるが個人的には車両全体が塗装されている方が好きかもしれない。

 中央線は東京駅を起点として八王子方面に向かっていくが、その先まで行く車両ではなく八王子との間で往復する車両も多く走っている。八王子から出発した中央線は東京駅に到着し、乗客を一旦全員吐き出した後、再度乗客を乗せ八王子方面に折り返して向かう。至って日常的な光景である。そんな中で人間観察をしていると面白い現象に遭遇することがある。人はそれぞれであり、多くの人と異なった動きをする人は目につきやすくなり観察の対象となりやすい。

 ある日の中央線の車内での出来事である。とても疲れ果てたようなサラリーマン風の男性が立川から東京行きの中央線に乗り込み、空いている席を素早く見つけ座った。持っていたバッグを膝の上に乗せ、腕組みをしたと思ったらあっという間に眠り込んでしまった。外は暖かい春の陽気で日差しも窓から差し込んでいる。きっと背中はポカポカなのだろう。駅に着くたび大きなアナウンスが流れるが男性はぴくりともしない。そうこうしているうちに東京駅に到着した。車内アナウンスもホームのアナウンスも「終点」であることを伝えている。男性は依然として心地良さそうに眠ったままだ。他の乗客は全員が下車してしまった。同じホームで次に乗り込む予定の乗客がきちんと整列して待っている。一旦乗降口の扉は閉まり、しばらくした後に再度扉が開く。車庫に入る車両なら各車両内を乗務員が点検して回るのだが、折り返し運転の場合は点検が省略される。再度開いた扉からは待っていた乗客が整列していた順に雪崩れ込み、あっという間に座席は埋まって、座れなかった多くの乗客は立って発車するを待っていた。発車のベルがホームで鳴り響き、再度八王子に向けて中央線の電車は発車した。男性はまだ腕組みしたまま眠っている。

 周りの乗客は、ニヤニヤしながらこの男性を見ていた。おそらく、どこで目を覚ますのだろうと興味津々なのだろう。誰一人として起こしてやろうという乗客はいない。いくら都会でも一人くらい起こしてやるようなおせっかいが居ても良さそうなものだ。たまたまなのだろうが、今日の乗客はただただ傍観して楽しんでいるようだった。無論、他の乗客はこの男性がどこから乗車したかは知る由がない。でも私は知っている。立川から乗車したのだ。もうすぐ立川駅に到着する。早く目覚めないと通り過ぎてしまう。見ているこっちの方がハラハラしてきた。立川に到着した。車内はだいぶ乗客も入れ替わったりして少なくなり、男性のことを気にする乗客はいなくなった。まだ男性は眠っている。

 やがて八王子に到着した。男性は一瞬薄目を開けた。気がついてくれたかなと思ったが、男性はまた静かに瞼を閉じてしまった。東京駅と同じ光景が今度は八王子で起きている。中央線は、何事もなかったかのように再度折り返し運転を始めた。そして立川駅についた。男性は再度薄目を開けた。そしてまた閉じた。見ているこっちの方がハラハラしてたまらない。男性は時折電車の揺れでずり落ちそうになるバッグの位置を目を覚ますことなく巧みに修正しながら、バッグを元の位置に落ち着かせると腕組みをして眠っている。このまま東京駅に着いてしまうと三時間くらいは眠っていたことになる。よっぽど疲れているのだろうか。そろそろ日も暮れかかってきた。

 電車は東京駅に着いた。到着のアナウンスとともに、乗客は男性を残して全員が下車した。そしてしばらくしてから閉じられていた扉が再度開いた。また折り返しの電車になるようだ。乗り込んでくる乗客の中に優しそうなおばあさんがいて、この男性の隣に座った。そして、さも普通であるかのように男性の肩を何回か叩いて声をかけた。

「もし、お兄さん、東京駅に着いてますよ」

 男性はやっとハッとした顔になり、周りを見渡しておばあさんの方を向いた。

「あ、ありがとうございます、では、失礼します」

 一言だけ感謝の意を伝え、慌てて電車を降りていった。周りの乗客はクスッと笑いを堪えたような顔をしている。それまで男性の前に立っていた若い学生はラッキーとばかりにおばあさんの横に座り、うるさい音楽をイヤホン越しに聴いている。ただ、隣がおばあさんだと認識したのか、ボリュームを少し絞っていた。

 ホームに降りた男性は、一度大きな伸びをして時計を確認している。おそらく自分が中央線に乗り込んだ時間から、すでに三時間くらい経っていることを認識したのだろう。男性は困惑したような顔になっていた。そしてバッグを小脇に抱え足早にホームの階段を降りて消えていった。これで私もハラハラしなくて済むと思い安心した。

 えっ、私はなぜ電車を降りないのかって。そういえば自己紹介するのを忘れていましたね。私は、今乗っている車両に飛び込み自殺をした魂なんです。天国にも地獄にも行けず、この電車の中だけを彷徨っています。自殺したのは一年前でした。今思えば、なぜ咄嗟に飛び込んでしまったのかと後悔ばかりです。だから困っている人を電車の中で見かけるとハラハラするし、なんとかしてあげたいと思うのです。でも私には話しかけることも合図を送ることもできません。ただただ見守っているだけなのです。こんなつらい時間を後どれくらい過ごせば黄泉の国からのお迎えが来るのかもわかりません。もしかすると、この車両が運行を続けている間は、こんな時間がずっと繰り返されるのかもしれません。やはり自分で自分の命を終わらせるべきじゃなかったんだと今は思っています。


🌿【照葉の小説】今日は何の日SS集  ← 記念日からの創作SS


いつも読んでいただきありがとうございます。
コメントも気軽に入れていただけるとうれしいです。
「てりは」のnoteへ初めての方は、こちらのホテルへもお越しください。
🌿サイトマップ-異次元ホテル照葉


#ショートショート #創作 #小説 #フィクション #今日は何の日ショートショート #今日は何の日 #掌編小説 #超短編小説

いいなと思ったら応援しよう!

松浦 照葉 (てりは) よろしければチップによるご支援をお願いします。皆さんに提供できるものは「経験」と「創造」のみですが、小説やエッセイにしてあなたにお届けしたいと思っています。いただいたチップは創作活動費用として使わせていただきます。

この記事が参加している募集