8月12日 国際青少年デー 【SS】大人がいない
日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。
【今日は何の日】- 国際青少年デー
1999年(平成11年)の国連総会で決定。国際デーの一つ。英語表記は「International Youth Day」。
1999年のこの日、リスボンで世界青少年担当閣僚会議が閉幕した。目的はアースデイなど他の政治的な記念日と同じように、既知の危険にさらされた人々を取り巻く一連の文化的・法的問題へ注意を促すことである。
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【SS】大人がいない
新しい朝になった。今日もいい天気になりそうな夏の日だ。窓を開けると蝉の声がうるさく聞こえるし、暑い空気が部屋に入り込むので、カーテンだけ開けて両手を頭の上に上げ大きく伸びをした。いつもなら、階下のキッチンから朝食のいい香りが漂ってくる頃だが、今日はやけに静かだ。高校生の光太郎は、パジャマのままトントントンと階段を降りてキッチンへ行った。
「あれ、母さんいないんだ。こんな朝早くからどこに行ったんだろう。朝食の準備もしてないみたいだな」
違和感を感じながらも、光太郎は冷蔵庫を開け、ミルクを取り出してコップに注ぎ、一気に飲み干した。空になったコップをキッチンのシンクに無造作に置いて洗面所に向かう。いつものように顔を洗い髪の毛をセットする。いつもなら、場所を取り合うように父親がやって来るのだがその気配はない。光太郎はちょっといつもとは違うことに違和感を感じ、両親の寝室へ行ってみた。ドアは空いているが誰もいない。仕方なくリビングに戻ると、急にテレビの電源が入った。
『中学生、高校生の皆さん、ようこそ、グローイング・ワールドへ。これは、番組ではありません。今テレビを見ているあなたへのメッセージです。皆さんは普段生活している世界とは違う時空間に転送されて来ました。この世界では、大人や小学生以下の子供は存在しません。皆さんがこれから生きていく上で、協力したり、環境のことを考えたり、人を労ったりすることを学ぶためにこの世界に転送されました。この世界には、大人はいません。皆さんはどうやって治安を維持するかというところから学んでください。ただし、元の世界の法律違反に該当する行為の予兆がみられた場合、もう一つの異次元であるジェイル・ワールドに再転送され、独房で拘束された体験をすることになります。早く言えば自由を奪われる体験をすることになりますので、十分に気をつけてください。それでは、グローイング・ワールドでの生活をお楽しみください』
光太郎はすぐさまスマホでラインを立ち上げ、友達に連絡をとった。すると、友達からも「テレビで同じメッセージを見た」と返事が来て、それに被せるように「親もいない」というメッセージが来た。慌てて、グループラインに切り替え、仲のいい友達同士で確認が始まった。どうやら夢ではないらしい。全員が同じ環境にいて驚いている。高校の同級生で一部札付きの悪い素行の奴らもいる。注意しておこうと思いラインを入れた。しかし、応答がない。嫌な予感がした。どうやら既にジェイル・ワールドへ転送されてしまったあとだったようだ。朝目覚めた後は、タバコに火をつけるのが日課だと自慢していたのを光太郎は思い出した。
なんとなく、自分が置かれた環境を理解し始めた光太郎。急いで、高校の生徒会と連絡をとった。生徒会長は、女子の桜咲希だ。流石に生徒会長だけあって順応性も高く、いろいろと考え始めていたようだ。咲希と光太郎はラインビデオに切り替えて今後の対応を確認した。
「私も朝起きてびっくりしたんだけど、どうやらとんでもないことが私たちの身の上に起きていると理解したわ。高校生と中学生だけの世界なんて考えたこともなかったけど、どうやら、入院とかしている子は元の世界にいるみたいなのよ。だから問題なく動き回れる私たちに対する試練みたい。考えたんだけど、まずは各高校の生徒会同士が連携して行動を統一し、中学校の生徒会に連絡して決して悪いことをしないように徹底しましょう。コンビニやショッピングモールは出入り自由になっているはずだから、中にはお金を払わずに盗む生徒も出ると思うの。そんな行為を私たちのネットワークで防止できれば、まずは第一段階として治安は維持できると思うのよ。結束力が必要よね。光太郎も協力してね」
「さすがは生徒会長。冷静だね。こんな信じられない環境に置かれて、よくそんな冷静に考えられたね。まだ、そんなに時間も経過してないのに。よし、ラインやSNSを使って呼びかけをしよう。きっと信じていない生徒もたくさんいるだろうからね」
このあと、光太郎たちは、急いで連絡網を整備した。学校同士の生徒会が協力し合うということはこれまでなかったことだったが、逆に色んな意見が出て勉強になることは多かった。ある学校の生徒会では、全生徒を体育館に集めて時間がすぎるのを待ってはどうかという意見も出たし、中学校は中学校の生徒会に任せないと自分たちのこともできなくなるかもしれないといった意見も多く出た。しかし、兄弟姉妹が中学校にいる生徒からは、年上の高校生がリードして守ってあげるべきだという意見もでた。おそらくはどちらも間違いではないだろう。そんな意見を聞きながら咲希は、学校という枠にとらわれないグループを作る提案をした。住んでいる場所を整理し隣接する学区の生徒同士が一つのグループとなり、街を巡回しようという提案だ。同時に、別のグループは、食料の調達を担当しスーパーなどで買い物をして配布することを提案した。もちろん、代金はスーパーに置いてくることにしたのだ。
一部で悪さを企む高校生や中学生はいたが、悪いことをしようとしている友達が一瞬で消えてしまうのを目の当たりにして、次第に統制が取れるようになっていった。高校生を中心とした治安はその日の夕方には確立した。
翌日、すべての学校をオンラインで接続し、全体のリーダー選出のための会議が開催された。リーダーには咲希が選出され、光太郎は補佐役だ。二人は、これが民主主義の政治みたいなものかもしれないと自覚し、中学生が恐怖を持たないようにケアすることも忘れずに実施した。二日目の夜になり、戻ることは本当にできるのだろうかとみんなは思っていたが、みんな疲れてそれぞれの家で眠りについた。
三日目の朝がやってきた。前日と変わらず眩しい朝日が差し込んでいる。光太郎は、朝食の懐かしい香りを感じていた。普段なら、ゆっくりと起き上がるはずなのに、いい香りがしたので一瞬で飛び起き、カーテンを開けることも忘れて、階段を駆け下りた。
「あら、光太郎。おはよう。もうすぐ朝ご飯ができるわよ」
いつもの何でもない平和な時間に戻ってきたことに安心すると、何故か母親に抱きついてしまった。
了
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