8月13日 怪談の日 【SS】恐怖の夜
日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。
【今日は何の日】- 怪談の日
「怪談」をエンターテインメントとして確立した稲川淳二氏が制定。
自身の「MYSTERY NIGHT TOUR 稲川淳二の怪談ナイト」20周年連続公演を記念して記念日とした。日付は第1回の公演が1993年(平成5年)8月13日にクラブチッタ川崎で開催されたことから。記念日は一般社団法人・日本記念日協会により認定・登録された。
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【SS】恐怖の夜
夏の夜になると霊界からも多くの霊が人間界にやってくるらしい。もちろん、祖先の霊を呼び寄せるために迎え火を灯すことも影響しているのだろう。だが、人間界にやってくる霊のなかには、優しい霊に紛れて人間に対する恨みを晴らしたいと思っている霊もいるようだ。この時期に忽然と人が姿を消してしまう事件が発生するのは、復讐の念で成仏できていない霊たちの仕業かもしれない。
戦国時代に首を刎ねられ、頭と胴体が別々の場所に葬られた人の霊は、生きていた世界への執着も大きく、生きている人間を自分たちのそばに連れて来ることで生前の恨みを晴らそうとしているのかもしれない。
毎日毎日、仕事で怒られてばっかりの中年サラリーマンがいた。名前は、平田凡太といい、会社のみんなからは、省略して平凡と呼ばれていた。今日も失敗をして怒られてしまった。トボトボと当てもなく歩き回っているといつの間にか、スナックが軒を連ねる通りに迷い込んでしまった。一人でスナックに入る勇気もないので、俯き加減で歩き、通りの出口の交差点に差し掛かった。いつの間にか時計の針も翌日になろうとしている。そういえば、夕食を食べることも忘れていた。その時に鉄板で焼けるソースの匂いのような香りが、平凡の鼻を刺激した。フラフラと香りに誘われるままに行くと通りの一番端っこのスナックのドアの前にたどり着いた。
「あれ、いい匂いはこの店の中からみたいだな。そういえば、まだ夕食食べてなかったよな。思い切って入ってみようかな。明日は土曜日で休みだし」
平凡は、恐る恐るドアを引いて開けた。お店の中からはママと思わしき女性から声をかけられた。
「いらっしゃーい。あら、初めてのお客様ですね。どうぞ、こちらにお座りください」
中には、客が一人いるだけのようだ。ママはどうやらお好み焼きを作っているようだった。気の弱い平凡は、言われるままにカウンターの端っこに座り、その時、空腹だったことも後押しをして、ママさんに思い切って話しかけた。
「あのー、お好み焼き、僕にも焼いていただけますか」
「あら、ひょっとしてこの匂いに誘われて入ってきたのかしら。いいわよ。特別に焼いてあげるわ。お飲み物は何にします」
「あっ、じゃあ、ビールをお願いします」
そう言うと、ママが冷蔵庫から瓶ビールを取り出して栓を抜き、ビールを注いでくれた。しばらくすると、焼きたてのお好み焼きも目の前に出てきた。平凡は、空腹だったこともあり、ビールを飲むのも忘れ、貪るようにお好み焼きを食べてしまった。お腹もいっぱいになり、我に戻って、店内を確認してみた。確か、平凡が入ってくる時にはカウンターに客が一人いたはずだが、今は誰もいない。平凡は、ちょっと不思議に思った。自分が入る時に確かにカウンターの反対側の席に座っていたはずだったのが、いつの間にか消えていたのだ。平凡は、自分が知らない間に帰ってしまったんだろうと自分に言い聞かせ、気にしないことにした。
ビールも飲んで、お好み焼きも食べて満足した平凡は、そろそろ帰ろうと思い、立ち上がった。そして、お勘定をしようとしたら、そのことを察したように、ママが声をかけてきた。
「初めてお店にきてくれたお客様には特典がありますよ。次の日に必ずもう一度来てくれると約束してくださるなら、今日のお勘定はタダにしちゃいまーす。さぁ、君はどうするかなぁ」
「うわー、本当ですか。じゃあ、明日、もう一度必ず来まーす」
「では、本日のお勘定は免除です。連続のご来店、お待ちしてまーす」
平凡は、その日気分良く家に帰った。仕事で怒られたこともすっかり忘れてしまい、上機嫌だった。そして部屋につくなり、ベッドに横たわり、眠りについた。
次の日の朝、ちょっとだけ頭痛を感じたのだが、会社は休みだし、ノンビリとしていた。たまには、一人でマックにでも出かけてみるかと思い、ハンバーガーを食べに行き、夕方自宅に戻ってきた。土曜日に出かけることはほとんどなかったので、人混みにもまれて疲れてしまった。ゆっくりとお風呂に浸かり、うとうとし始めたので、そのままベッドに入ってしまった。何か忘れているような気がしたが、眠気の方が先行しベッドの中で夢の世界に入ってしまった。
そして、日曜日も過ぎて月曜日がやってきた。平凡はいつものように会社に出かけた。案の定、今日も怒られっぱなしだった。定時で会社を出た後、またしてもフラフラと歩いてしまった。そして、意識したわけではないが、金曜日に入ったスナックがある通りに来ていた。
『そういえば、金曜日の夜に次の日にも来ると約束した店があったな。結局すっぽかしちゃったけど、たしか、優しいママさんだったよな。顔を出してみようかな』
そう思い、スナックが立ち並ぶ通りを奥まで歩いた。そして交差点に差し掛かったところで立ち止まった。
「あれ、確かここにスナックがあったはずなのに。何もないな。ポツンとお地蔵様があるだけだ。なんかおかしいな」
その時、そばを通る年配の方が目に入ったので思い切って聞いてみた。
「あのー、すみません。このお地蔵様はなんですか」
「ん、あぁ。これね。ずいぶん前にはなるけど、ここにもスナックがあったみたいなんだよ。でもね、約束を守らない客がいたらしく、ママさんはそのことを気にして、自殺したらしいんだよ。それで、お店が取り壊された後、お地蔵様が設置され、祀られたってわけだ。お兄さんも気をつけた方がいいよ。今でも、午前零時頃になるとここにスナックが現れるという噂もあるくらいだから」
「そ、そうなんですね。ちなみに、その約束を守らなかった客はその後どうなったんでしょう」
「ああ、それはそれで不幸になったみたいだよ。約束を守らなかった客は、ママの霊に取り憑かれて悲惨な最後を迎えたと言う話を聞いたことがあるくらいだから」
了
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