6月10日 時の記念日 【SS】歪んだ時間
日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。
【今日は何の日】-時の記念日
東京天文台(現:国立天文台)と財団法人・生活改善同盟会が1920年(大正9年)に制定。
「時間をきちんと守り、欧米並みに生活の改善・合理化を図ろう」と呼びかけ、時間の大切さを尊重する意識を広めるために設けられた。
記念日の日付は、奈良時代に成立した日本最古の歴史書『日本書紀』の天智天皇10年4月25日(グレゴリオ暦671年6月10日)の項に、「漏刻(ろうこく)を新しき台に置く。始めて候時を打つ。鐘鼓を動す」とあることにちなむ。「漏刻」とは水時計のことで、容器に水が流入・流出するようにして、その水面の高さの変化で時をはかる。つまり、この日は日本で初めて時計装置が使われた日である。
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【SS】歪んだ時間
皆さんは知っているだろうか。日付が変わる瞬間に一瞬だけ時間が歪むことを。 時計の針が23時59分59秒から午前0時ジャストに変わる時、場所によっては時間の世界に綻びが生じ、異次元への道が開かれる。しかし、それは一瞬で閉じてしまうので、誰も気づくことはできないし、使うこともできない。
その歪みが磁力に関係していることに気がついた陽介という若者がいた。定職に就くことができずに毎日ブラブラして時々バイトで収入を得ているだけの生活にあきあきしていた。最近は強い磁石のネオジム磁石が百均でも売られているので早速買ってくっつけて遊んでいた。その磁力の強さが面白くて子供の様にはしゃいでいた時、当たり前だが磁石は同じ極同士だと反発しあってくっかない。しかしそれを力任せに合わせようとして、くるっと回ってしまうことが面白くて夢中になっていたら、一瞬反発しないでくっついた時があったのだ。それが23時59分59秒の時だった。最初は時間との関係は気づかなかったが、数日繰り返しているうちに気づいたのだ。
「日付が変わる瞬間に何かが起きている。それも磁力に関係がありそうだ。よし、しばらく実験して確かめてやるぞ」
その後陽介は、日付が変わる前後五分間の磁場の変化を毎日測定し、あることを確信した。日付が変わる一瞬だけ決まって磁場が消える。その瞬間は磁石は効力をなくしてしまう。だが一瞬のことなのですぐに復帰し元通りになる。一ヶ月間毎日計測し、ほぼ結論づけることができたようだ。陽介はさらに考えた。この時間の歪みの中に入ってみることはできないものかと。陽介はある一つの仮定を考えていた。
「磁場が無くなる現象というのは、磁極を相殺する力が一瞬だけ発生しているのではないのか。そうであれば、強制的に磁極を作り出せれば、お互いに引き合って時間の歪みの中に入れるかもしれない。そのためには僕自身が磁極にならないといけないな。もしくは強力な磁極の門の様なものを作れば時間の歪みが発生する時間を延ばすことができるかもしれない。そうすれば、その門を使って行き来できる様になるかもしれない」
陽介は早速磁極の門の開発に取り掛かった。全てが試行錯誤であり、どのくらいの電力が必要になるのかも検討もつかない。とりあえずやってみるしかない。陽介は流行る心を落ち着かせながら、手製の磁気コイルをひたすらに巻き、人が屈んで通り抜けられるくらいの大きさの門の形を作っていた。電源コードも繋いでスタンバイOKだ。時刻は間も無く午前0時を迎える。ブーンという低い音が部屋中に響き渡り、電流が流れ磁界が作られている。陽介は時計を見ながら中腰になって飛び込む体制を作った。
日付が変わる瞬間、わずかだが時間が停止した。陽介は磁極の門に目を瞑って飛び込んだ。全ての重さが感じなくなった。足の下にあった床の感触もない。天井には照明もないし壁もない。上下左右も認識できない。慌てて腕時計を確認すると、針は午前0時で止まったままだ。動きもままならないが泳ぐ様な動作で移動を試みる。真っ暗なのに自分の手や体はちゃんと見えていることに気がついた。陽介は光のない世界だが時間が止まっているので光の反射に頼ることなく「見る」ことができるのだろうかと思った。ふと我に帰り、とりあえず部屋に戻らなければと考え始めた。微かに白く見える方角がある。懸命に近づき、その白い部分に思い切って身を委ねた。根拠はない。すると、陽介が作った磁極の門から部屋へと戻ることができた。途端に感じた重力でしばらくは立てない。慌てて時計を見る。午前0時を過ぎて秒針が動いている。
陽介は頭の中を整理した。磁極の門から時間の歪みを利用して異次元に入ることができた。しかもそこで過ごした時間は元に戻ってきてもカウントされることはない。異次元には明かりはないがものをみることはできる。そして空腹も感じない。ということは、無限の時間を手に入れられるということではないかと考えた。この無限の時間を利用して時間をかけずに本を読むことができると考えたのだ。
次の日から、陽介は図書館で本を借り、午前0時に読書するようになった。1日に十冊程度の本を読み続けた。ものすごい知識が陽介の頭の中にインプットされていった。陽介はこれならノーベル賞も目指せるかもしれないと内心喜び始めた。そして、それまでに得た知識を確認しようとしていた。
だが世界はそんなに甘くはなかった。時間の歪みの中にいる時には全ての知識を感じられるていたのだが、現実世界に戻ってしまうと、停止していた時間で得た知識は蘇ってこなかったのだ。停止した時間の中だけでしか利用できないということを陽介は理解したのである。それに加え陽介は体の変化も感じ始めていた。人に会うたびに「最近、急に老けたな」と言われることが多くなったのである。ハッとした。もしかしたら浦島太郎と同じことをしていたのかもしれないと陽介は思ったのだ。
時間は停止しているのだが、人の細胞の活動は停止してはいなかったのである。考えてみれば当たり前のことである。停止していないから動くことができたし、本を読むことができたのである。陽介は自分の愚かさに気づくために一瞬の中で膨大な時間を費やしていたのである。
了
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