5月28日 花火の日 【SS】夜空の花
日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。
【今日は何の日】-花火の日
1733年(亨保18年)のこの日、隅田川の両国橋付近で水神祭りの川開きが行われ、慰霊を兼ねた花火が打ち上げられた。これが「両国川開きの花火」の始まりであった。
この年は第8代将軍・徳川吉宗(1684~1751年)の治世で、全国的に凶作に見舞われ、大飢饉になったうえ、コロリ(コレラ)が大流行して多くの死者が出た。この犠牲者の慰霊を兼ねて打ち上げられた花火は、やがて庶民の楽しみとして定着した。
その後、江戸を代表する花火師の屋号である「玉屋」と「鍵屋」が技を競うようになった。両国橋を挟んで上流を玉屋が、下流を鍵屋が受け持ち、交互に花火を上げる二大花火師の競演であった。この時、花火師を応援する声として「たまや~」「かぎや~」の掛け声が生まれた。
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【SS】夜空の花
どの方角から見ても同じに見える打ち上げ花火。まぁ、正確に言えば最近のハート型などの花火は角度が違うと違った形になるかもしれないが、丸い大輪の花のような花火は、球体になって燃えるからどこから見ても同じに見えるはずだ。いつしか、花火は夏の風物詩として日本人の心に定着した。暑い時期の夜空に咲く大輪の花は暑さすら忘れて見惚れてしまう。日本全国各地で行われ親しまれ継続できているのは、人々の心が求めているからであろう。
時折、花火に伴う事故のニュースも見るようになった現代。火薬に火をつけて打ち上げるわけなので一つ間違えば大事故につながることはみんな認識しているはずだが、お祭り気分になるとそんなことはすっかり忘れてしまうのだろう。一つ間違えば命の危険さえある花火なのだ。
花火は、目と耳で楽しむもの。しかも遅れて聞こえる大きな花火の音がたまらなく臨場感を掻き立てる。体の中にまで響き渡る音と振動がなんとも心地いい。ただ、小さい子供たちはその音に驚いて泣き出すものである。それが、ある程度経験を重ねると「怖い」という存在から「綺麗」という存在に変わるのだから不思議なものである。
そんな心に響く花火ではあるが、将来はどうなるのだろうか。花火を研究している人たちは、大きく二つの方法を考えていた。打ち上げという行為が一番危険であるという認識は研究者たちの共通認識だったため、打ち上げなくていい花火の実現を目指して研究がなされた。
「打ち上げないで投下すればいいんじゃないか。ヘリとかドローンから」
「おお、それは案としてあるね。でもどうやって導火線に火をつけるんだ。失敗したら大惨事になるぞ」
「確かにそうだな。投下するための専用装置の開発が必要だな」
「いっそのこと、火薬をやめてドローンによる空中ショーに変えるというのはどうだ」
「うん、確かにそれはアリだな。ただ、観客が受け入れてくれるかどうか」
「まぁ、自分が観客だったら帰るかもなぁ。やっぱりあの打ち上がった花火の迫力の方が楽しいからなぁ。ヒューッといって上がっていって花開くまでのあの間もとてもドキドキして楽しいじゃないか」
こんな会話の中にホログラムの専門家が割り込んできた。
「ありますよ。臨場感たっぷりの花火みたいに演出する方法。火薬を使わなくてもね。それに打ち上がっているような演出も可能ですよ」
飛び込みで会話に割って入ってきたのは、自称ホログラム研究家だった。花火をホログラムで再現するというのだ。そして音は人体が共鳴する周波数に合わせた破裂音を時間差を作って再生するという。果たしてそんなことで観客は花火だと思うのだろうか。
しかしホログラム研究家は、自信たっぷりにメリットの説明を始めた。
「この技術を使えば、今までよりも高い位置でも低い位置でも花火を開花させることができるし、火の安全を考慮する必要はなくなります。つまり住宅密集地でも花火大会が可能になるということです。そうなれば遠くの花火大会に出かけていく必要もなく、より多くの場所で実施できることとなり、経済効果も見込まれますよ」
聞いていた他の研究者はなんとなくこの案に心を動かされ始めていた。火を使わないということの安全性に心を惹かれていた。さらに詳しく聞いてみたいという気持ちにもなっていた。それを察したホログラム研究家は、いつの間にかコンサルタントのように流暢な説明になっていた。聞いている研究者たちは、知らず知らずにその口調に引き摺り込まれ、これしかないだろうなと思い始めたのである。ホログラム研究家の思惑は見事に的中した。そして見計らったように持ってきた商品を机の上に並べたのである。
自宅でできる花火ホログラムセットだった。音の再生はスマートスピーカーと連動して再現できる。花火を楽しまないときは空間に時計や天気予報を表示できる。さらにオプション契約をすることで、過去の映画を空中で再生できるのだ。それをみた研究者たちは、家族のために購入を決定しその場で次々と商談が成立していった。その場だけで二十セットが売れてしまった。一台十八万円の機器だった。購入した研究者たちは、家に帰り子供たちを集めてホログラムを披露した。しかし、子供達の反応は冷たかった。
「こんなの花火じゃない。大きな空で大きな花が咲くから花火なんだよ。これならテレビ中継で見た方がましだよ」
子供にそう言われてしまった。しかし、確かにその通りだったのだ。ここで、研究者たちは、もしかして騙されたのかもしれないと悟ったのである。すでに後の祭りではあったが。
アイデアを披露し、商品を販売した自称ホログラム研究家は、そのまま姿を消した。ホログラム研究家は、まんまと騙された他の研究者を嘲笑うかのように、次のターゲットの物色を始めていた。今回の純利益は二百万ほどだった。なんとかもっと効率よく利益を上げたいといつも考えている自称ホログラム研究家だった。もちろん、今回の行為は詐欺ではなかったので訴えられることもなかった。契約書にはクーリングオフは適用されませんという文言も大きく目立つように記載されていた。
了
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