4月1日 ジャパニーズウイスキーの日 【SS】ダンディに生きる
日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。
【今日は何の日】- ジャパニーズウイスキーの日
ウイスキーについての研究、情報収集・発信などを行うウイスキー文化研究所内に事務局を置く、ジャパニーズウイスキーの日実行委員会が制定。
日付は1929年(昭和4年)4月1日に日本初の本格国産ウイスキー「サントリーウヰスキー」(通称「白札」)が発売されたことから。
「ジャパニーズウイスキー(Japanese whisky)」の歴史や製造方法、他の国のウイスキーとの違い、味わいの特徴などを幅広く知ってもらうとともに、世界中で高い評価を受けているジャパニーズウイスキーをより多くの人に飲んでもらうことが目的。
また、ジャパニーズウイスキーの礎を築いた先人の偉業を讃え、生産者を応援する思いも込められている。
記念日は2021年(令和3年)に一般社団法人・日本記念日協会により認定・登録された。同年4月1日には記念日の制定記念としてスペシャルトークショーなどのオンライン限定イベントが開催される。また、このイベントに合わせてプレゼントキャンペーンも実施される。
「白札」の愛称で親しまれた「サントリーウヰスキー」は、サントリー(壽屋:ことぶきや)の創業者・鳥井信治郎(とりい しんじろう、1879~1962年)により「国産ウイスキー第1号」として発売され、多くのウイスキーファンに愛され続けてきた、日本のウイスキーの原点と言える。
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【SS】ダンディに生きる
都会の裏通りにあるショットバーで一人の青年がウィスキーを飲んでいた。彼は今年上京してきたばかりで友達もいなかった。都会の生活は毎日が緊張の連続で、休まることもない。街を歩く人たちは颯爽としているように見え、着ているものまで全く違うもののように見えていた。電車に乗ればこれ以上乗れないと思っていてもどんどん乗ってくるし、会社に出社すれば、みんな黙々と仕事をしている。そんな風に彼には見えていた。
青森から上京したての彼、名前はノボルという。漢字では昇降機の昇という字を書く。昇はこの平凡な名前も嫌いだった。まるで「お上りさん」みたいだと自分自身で卑下していた。それでも何とか都会の人間に馬鹿にされないようにと思い、懸命に言葉に気をつけて標準語で話すようにしている。しかし、訛りのイントネーションは簡単には修正できない。そのことも自覚していたからか、旅行に来た外国人のように単語だけで会話することもしばしばだった。特に動詞を使うとどうしても訛りが出てしまう。
昇はまだ給料も少ないので、住まいも安いアパートを探した。下町を探すと駅からちょっと歩くような場所には古いアパートがまだまだ残っている。昇が見つけたのは東横線の祐天寺という駅から徒歩十五分くらい歩いたところにあるアパートだった。部屋も狭いし日当たりもあまりよくないが、どうせ寝るだけだしと思い家賃が安いところを選んだのだ。しかし、祐天寺に住んでいるというと渋谷から近いので、みんなから羨ましがれるのは快感だ。ただ、時々泊めてくれよという依頼を断るのには苦労している。会社の飲み会の後、先輩に言われることがたまにあるようだった。「ボロいアパートを見せるわけにはいかない、給料が上がったらもう少しいいところに引っ越そう」いつもそう思っていた。
会社の中で女子がおしゃべりしているのが時々聞こえてくる。大抵は美味しいお店とか素敵な男性などの話をしている。ある日聞こえてきたのが、ちょっと気になっている女性の会話だった。
「私さ、女性みたいに美しい男性ってあまり好きになれないのよね〜。これって変なのかなぁ。今時のジャニーズとかにも興味湧かないし。どっちかっていうと石原裕次郎みたいな男性がいいなぁ。ダンディな人に憧れるなぁ」
「えー、そうなのー。確かに変わっているわね。今は草食系男子だらけだし、それがブームよ。韓流だって、みんな綺麗な子ばかりよ」
昇は「ダンディか」と一人でうなづいていた。綺麗な顔には今更なれないけど、ダンディなら振る舞いとかで何とかなるかもしれないなと考え、何とかダンディな雰囲気を出すようにしてみることにした。格好で言えば大抵スーツとか皮のジャケットを着こなしているイメージがあるが、安月給の昇には買うことができない。そう思い古着屋を周りフェイクの皮のジャケットなどを安く入手してみた。帰ってから鏡の前でニヒルを決め込んでみるが、どうもしっくりこない。髪がボサボサだからかと思い、近くの千円理髪店に行き髪を揃えてみた。七三に分けてセットした髪ではフェイクとはいえ皮のジャケットが似合わない。仕事用のスーツを着ると新橋の駅前でよく見かけるようなサラリーマンそのもの。ダンディとは程遠い姿形だ。
元々の素材のせいかと思いながら、それならば一人グラスを傾けるようなところで静かにウィスキーの氷を転がす仕草とかはいけるんじゃないかと勝手に妄想してしまった。思い立ったらやってみたくなるのが昇のポジィティブなところだ。しかし、そんなおしゃれな店自体を知る由も無い。スマホで調べてみる。会社のそばにショットバーがあるのを見つけた。
仕事が終わり、恐る恐る一人でショットバーの扉を開けた。まだ夕方六時ごろなので店内に客はいない。昇はホッとしてカウンターの一番端っこに座った。
「いらっしゃいませ。お客様、初めてでいらっしゃいますね」
「ああ、最近。こっちに来たから」ちょっと気取って返事をしてみた。
「そうですか。では今後ともご贔屓にお願いします。お飲み物は何にいたしましょうか」
「ウィスキー」
「銘柄のご指定はございますか」
「ジャパニーズ・ウィスキー」
「シングルモルト系がよろしいですか。こちらになりますが」
メニューを差し出され、グラス一杯の値段が高いのに驚いたが、何とか顔には出さず「角」を指差した。
「角ですね。畏まりました。飲み方はどうされますか」
「ロックで」氷を転がすところを想像していたのだ。
「シングルでよろしいですか」
問われて頷き、頭の中でシングルってなんだと思いながらバーテンの動きを見ていた。ウィスキーの量を調整するポーラーが取り付けられた「角」から、カチ割り氷が入った広口のグラスにウィスキーが注がれる。手際のいい作業は初めてみる光景で見惚れてしまった。目の前に差し出されたグラスの隣にはナッツとチョコ、そしてチェイサーの水が置かれている。マスターはニコッと微笑み「どうぞ」と言った。
昇はここで自分にダンディさは全く無いことを認識した。一生懸命形を真似てもダメなのだということと経験というベースがないと雰囲気は出すことができないなと悟った。そう思うと気が楽になった。目の前のロックを飲もうとして手に取ったグラスはチェイサーのほうだった。見透かしたようにマスターが声をかけた。
「ロックの場合、時折お水を飲まれることをお勧めします。あっ、それはチェイサーと呼んでいますよ」
顔から火が出るほど恥ずかしかったが、素知らぬ顔で微笑み返すのが精一杯だった。そしてロックのグラスを手に取り、見よう見まねでグラスをくゆらせながらウィスキーを口に含んだ。何とも言えない不味さが口の中いっぱいに広がり、慌てて横のチョコを口の中に放り込んで中和させた。
会計をお願いして店を出た時、まだ二十分しか時間が経っていなかった。昇は自分で何やってるんだろと思いながら一人で笑ってしまった。
これから長い時間をかけ多くの経験をして、きっと本物のダンディさを身につけていくことだろう。今は目の前の仕事に集中した方が良さそうだ。
了
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