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7月7日 七夕 【SS】愛する人は遠く

日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。


【今日は何の日】-記念日

「七夕(たなばた)」は、織姫(おりひめ)と彦星(ひこぼし)が天の川(あまのがわ)を渡って年に一度だけ会うことができるという中国の伝説に由来する日である。

この伝説が奈良時代に日本に伝わり、日本に元々あった七夕信仰と結びついて年中行事としての「七夕」へと発展した。織姫星(織女星:しょくじょせい)はこと座の1等星ベガ、彦星(牽牛星:けんぎゅうせい)はわし座の1等星アルタイルである。なお、この二つの星に、はくちょう座の1等星デネブを加えた三つの星を結ぶと大きな三角形となり、「夏の大三角」と呼ばれる。

七夕の起源は、日本古来の豊作を祖霊に祈る祭(お盆)に、中国から伝来した女性が針仕事の上達を願う乞巧奠きっこうでんや佛教の盂蘭盆会うらぼんえ(お盆)などが習合したものと考えられている。古くは「七夕」を「棚機」や「棚幡」とも書いたが、現在でもお盆行事の一部でもあり、笹は精霊(しょうりょう:祖先の霊)が宿る依代(よりしろ)である。短冊(たんざく)などを笹に飾る風習は、江戸時代から始まったもので、日本以外では見られない。


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【SS】愛する人は遠く

 私と彼が出会ったのは、もう四十年以上も前のこと。その頃は今のようにインターネットも一般的ではなかったし、携帯だって存在していなかった。ましてやラインとかテレビ電話など夢のまた夢の世界だった。

 それでも二人で会った時には、次に会う日時を決め、晴れようが雨が降ろうが、決めた時間に決めた場所にいって素敵な時間を共に過ごしていたものだ。彼は、探検家の道を選んだ。私はバレリーナという道を選んだ。あまりにも違いすぎる二人の仕事は、私たちの共通の時間という大切なものを次第にはぎ取っていく。それでも、若い時は一途な心が支えとなり、たまに会える時間を楽しみに日々の試練に耐えていた。

 次第に彼も私もある程度知名度が上がり、名前が世の中に知れ渡ることになり、お互いの仕事も世界レベルで増加していった。ますます、二人の時間がなくなっていった。私たちは「まるで七夕みたいだね」と話をしていると彼は「いっそのこと七夕の日だけは、会う時間と場所を決めておいて必ず二人の時間の作ろうか。織姫と彦星みたいに」と言ってくれた。その時には、私たちはもう直ぐ三十歳という年になっていた。

 私は女性であることを意識し始めていた。彼との子供も欲しい。そのためには、そろそろ一緒にならないととも思い始めていた。しかし、彼は冒険家。もし何かあれば、シングルマザーになってしまう。それはいやだ。そんな葛藤が私の心の中で沸き起こった。彼はそんなこととは知らず、彼のアンテナが反応する方角の未開の地を求めて旅を続けている。ある時はジャングル、ある時は高い山、またある時は遠く離れた無人島まで足を運んでいる。彼は自分が納得するまで世界を回ったら、そのことを一冊の冒険の書にして、世の中に出したいといつも言っていた。全くもって、私から見れば遠い人だ。

 しかし、彼の方も私のことを遠い人だと感じている。私はバレエの公演のため世界中の都市を巡っている。彼は人のいない場所を巡っているが、私は人が集まるところを巡っているのだ。お互いの職業を考えるとなんら不思議なことではないが、お互いの生活の中にいると自分と違う世界に住んでいる人のように感じてしまう。だから、彼にとっては私も遠い人に感じるようになっていたのだろう。

 そして、さらに五年の月日が流れていった。その間にも七夕の約束は実行されていた。不思議なのは、毎回、待ち合わせる国が違っていたということだ。私の公演の場所と彼の冒険の場所の中間の国で会うようにしていたためである。考えてみれば、織姫と彦星より不幸なのかもしれない。川の向こう側に相手の存在を感じられる距離にはいないのだから。

 時間と距離というものは思った以上に残酷でもあり、幸せを運んでくれるものかもしれないと私も彼も今年は思っている。彼は冒険先のペルーで素敵な女性と知り合っていた。ほぼ同じ時期に、私は、イタリアの公演で共演した男性のバレリーナと出会ってしまった。私がイタリア人の彼にこれまで付き合っていた冒険家の彼のことを話すと「じゃあ、今年の七夕は四人で会うことにしないか。お互いの気持ちを確認するためにも」と言い出した。少し驚きながらも今年の七夕の約束の場所を確認するために彼の携帯を鳴らした。付き合い始めたころには存在すらしてなかった携帯がいつの間にか、当たり前のツールのようにバッグに入っている。それだけ時間が経過していたのだ。彼が電話の向こうで誰かと喋っている。おそらくペルー人の彼女だろう。そして電話口に戻り私に話し始めた。

「そうしよう。彼女もそうしたいと言ってるよ。今年は四人であって七夕を祝おう。そして来年からは別々かな。だから約束は今年が最後だね。今年は、カナダのバンクーバーで会うことにしようか」

 今年の七夕の日。四人はバンクーバーのホテルに集合した。しかし、私はまだ少し迷いがあった。もし彼と二人で知り合った頃に戻れるのなら、全てを捨てて一緒に走ってもいいのにと心のどこかで思っている自分がまだいた。四人でディナーを囲んでたわいもない話をしていると、冒険家の彼がスッと立ち上がりワイングラスを持ったままテラスに移動した。私はその場で「最後の挨拶をしてくるわね」と告げて後を追った。テラスで月の光でキラキラ光るワイングラスを掲げながら彼は私に告げた。

「一年ぶりにまたこうして君と逢ったね。僕はやっぱり君とは別れたくないな。会ってみてわかったよ。もう僕は引退する。これからは経験を本にすることだけをライフワークとして君と一緒に過ごしたい。僕と一緒に日本に帰ってくれないか」

「あなたらしいわね。こんなタイミングでプロポーズだなんて。レストランの二人には罪はないのよ。でも、本当は私も同じ気持ち。私もバレェ団からは引退して、子供達に教えるバレェ教室でも始めようかな。あなたのそばで」

 私たちは、テラスの席に飲み掛けのワイングラスを二つだけ残して、手を取り合って姿を消した。その様子をレストランから残された二人は見つめていた。なんとなくこうなることを予想していたかのように苦笑いをしながら。

 時間は過ぎ、私はもうすぐ還暦を迎える年になった。隣には、彼がいる。残念ながら、彼との間に子供はできなかったが、幸せな時間を過ごしてきたと思っている。


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