見出し画像

2月1日 重ね正月・一夜正月 【SS】厄を払う

【今日は何の日】- 重ね正月・一夜正月

 厄年(やくどし)の人のための2回目の正月で、厄年にあたる人が「年かさね」と称して、この日を2回目の元日として仮にひとつ歳をとらせ、厄年を早くやり過ごそうとする風習である。
 厄年とは、厄災が身に降りかかるとされる年のことで、本厄は一般的に数え年で男性は25歳・42歳・61歳、女性は19歳・33歳・37歳とされている。


【SS】厄を払う

 二月一日の朝、ある共働き夫婦が住むマンションでは、二人とも有給休暇をとっていた。

「おーい、今年は二人して厄年じゃないか。今日有給休暇を取らせたのはそのためなのかな」
「そうね、あなたは四十二、私は三十七だもんね。もちろん数えだから一つ多いけけどね。あっ、でも今日は厄払いに行こうとは思ってないのよ」
「じゃあ、今年はどこかの神社で厄払いの予約しないといけないかな」
「そうね。あっ、その前にもう一回お正月をやってしまうこともできるみたいよ。そうすればあっという間に厄年脱出よ」
「えー、なんだそれ。なんか超便利だな。で、それ何時やるの」
「えへへ、今日よ。だから私準備していたのよ、昨日から」

 そう言って満三十六歳の妻は、前日から準備していたお正月料理をテーブルに出し始めた。お正月のお重やお雑煮、お屠蘇まで出てきた。お重をのぞいて見ると、いわゆるお正月の時のそれとは少し違う内容で埋め尽くされている。流石にお正月と同様の品物をすべて揃えるのは無理だと判断した妻は、色が似ているものを買って綺麗に重箱に並べていたのだった。そうすることでより一層豪華に見せていたのである。

 お屠蘇に至っては、日本酒が大好きな夫婦でもあり「獺祭」を準備していた。もちろん、雑煮をいただいたあと、おせちをいただきながらも、飲めるようにぐい呑みは大きいものが準備され、テーブルの上が所狭しとばかりに料理とお酒で埋めつくされていた。

 夫は目を丸くしながら、テーブルに近寄ってきた。

「うわー、本当にお正月だ。すごいなー。大変だっただろう。言ってくれれば手伝ったのに」

「ううん、いいの。あなたの驚く顔が見たかったし。久しぶりの平日の休みだからあなたには休んでほしかったのよ」

「おお、泣けるようなセリフだー。ありがとう。愛してるよー」

「もう、全く〜、調子いいんだから。さぁ、座って」

 目の前の杯にお屠蘇代わりの獺祭が三回に分けて注がれ、二人はそれを三回に分けて飲み干した。そして、お正月の挨拶も交わした。

「明けましておめでとう。今年も健康で仲良く過ごせるように」

「明けましておめでとうございます。厄年を終えて楽しい年にしましょうね」

 こうして、一ヶ月しか経っていない二月一日に二回目のお正月を二人だけで実施して、厄年を終わらせた。その日は、どこに出かけるでもなく二人ゆっくりと流れる時間を楽しんだ。ひとしきり、食べて飲んだあと、妻はすっくと立ち上がり、夫に対していつもの妻に戻って話しかけた。

「よし、これで重ね正月は無事終了よ。まだ午後三時。有給休暇を有意義に使いましょうね」

「お、どこかに出かけるのかい」

「いいえ、厄払いを兼ねて、断捨離をするわよ。お互いのいらないものを徹底的に処分しましょう」

「え、え、これから。せっかくいい気分で酔が回っているんだけど」

「だから適度に体もあったまってるから動きやすいでしょう。さぁ、開始、開始。これが終わって本当の厄払いが終了よ」

 重ね正月の過ごし方で、断捨離というのもオオスメであるという記事をどこかで読んだ妻は、物が溢れつつある今の部屋の整理にちょうどいいと考えて、前々から計画していたようである。夫の読まなくなって久しい蔵書や、箱の中に入ったまま積み重ねられて場所だけ取っていたプラモデルなど妻にとっては全てが不用品だったのだ。夫は多少アルコールで気分良くなっていたのか、妻と争うこともなく、どんどん断捨離をしていった。その数、段ボール十箱にもなった。

 不用品となった段ボールを部屋の外に出し、業者に引き取ってもらうと、広々とした部屋が現れた。これで気持ちのいい年が開始できると妻は内心思っていた。どうやら、妻にとって重ね正月は断捨離をさせるための口実だったようだ。夫はうまく乗せられて大事にしていた品物にさよならをさせられた。しかし、気持ちよく広くなった部屋を見るとその方が良かったと感じるようになっていたので、結果的には成功だったのかもしれない。

 夜になり妻から感謝の言葉が夫に贈られた。

「ありがとう、あなた。これでやっと厄払いができたわ」

 そして妻は心の中でもつぶやいた。

「これで不用品はあなただけになったわね、ふふ」



🌿【照葉の小説】今日は何の日SS集  ← 記念日からの創作SS


いつも読んでいただきありがとうございます。
コメントも気軽に入れていただけるとうれしいです。
「てりは」のnoteへ初めての方は、こちらのホテルへもお越しください。
🌿サイトマップ-異次元ホテル照葉


#ショートショート #創作 #小説 #フィクション #今日は何の日ショートショート #今日は何の日


いいなと思ったら応援しよう!

松浦 照葉 (てりは) よろしければチップによるご支援をお願いします。皆さんに提供できるものは「経験」と「創造」のみですが、小説やエッセイにしてあなたにお届けしたいと思っています。いただいたチップは創作活動費用として使わせていただきます。

この記事が参加している募集