3月19日 カメラ発明記念日 【SS】写真の中の世界
日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。
【今日は何の日】- カメラ発明記念日
1839年のこの日、フランスの画家・写真家のルイ・ジャック・マンデ・ダゲール(Louis Jacques Mandé Daguerre、1787~1851年)が写真機を発明した。
この写真機は発明者の名前をとって「ダゲレオタイプ(daguerréotype)」と呼ばれ、長時間露光させるため写真機の前で長い間じっとしていなければならなかったが、大変な人気を集めた。ダゲレオタイプは銀メッキをした銅板などを感光材料として使うため、日本語では「銀板写真」とも呼ばれる。
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【SS】写真の中の世界
写真というものが日本に入ってきた時には、写ってしまうと魂を抜かれてしまうとか三人で映ると真ん中の人は早死にするとかと根も歯もない噂が蔓延していたようだ。差し詰め現代の都市伝説のようなものだろうか。人は今までに見たこともないものに遭遇したときは、どうしても不安や恐怖が襲うのだろう。それまでは筆を使って似顔絵を描いていたわけなので、いきなり本物と全く同じ姿形のまま、一枚の紙の中に吸い込まれてしまうように感じるのも無理のない話であった。
今から思えば、白黒の画質の悪い写真でさえも人々は恐怖を感じていたのだから、当時の人が時を超えて現代に来てしまったら腰を抜かすどころではなく、ショック死してしまうかもしれない。最も写真以外のものを見て卒倒してしまうことなることは間違いないだろうが。
時代は大きく移り変わり、今やフィルムさえ利用せずデジタルで写真を撮ることが当たり前の時代になってしまった。誰でも持っているスマホという手軽な電話機が発展した機器を使って気軽に写真が撮れてしまうのだ。取り込まれた写真の大半は紙に出力されることもなくデジタルのまま大量に保存され膨大なデータ量になっている。しかもそれらはクラウドと言われるどこにあるかわからない場所に保管され始めているのである。まるで、生きているかのようにその所在は移動したり、簡単に複製されて増殖したりすることができる環境へと変貌している。
私たちは写真を撮ってそれを保存して見たい時に大量のデータの中から自分の好みで写真を探し出し見て満足している。時にはネット上に流して、自分のことを全く知らない人の目に晒しているわけである。しかも、写真のみならず動画までもである。そんな時、ネット上を彷徨い始めたあなたが撮った写真が全く変化をしていないとあなたは確信しているのだろうか。もしかしたら、写真や動画はネット上を彷徨いでいる間に変化しているかもしれないのだ。そんなことをあなたは考えたことがあるだろうか。
あなたの手を離れた写真や動画は自由を得て、好き勝手に変化しているのかもしれない。最近流行り始めた人工知能による画像作成の元ネタはもしかするとあなたの写真や動画なのかもしれない。ネット上で出回っている映像をよく見てみるともしかすると見覚えのある映像と出会えるかもしれないのだ。時に人はその現象をデジャヴュとして片付けてしまうかもしれないのだが、人工知能の力を借りて溢れるほどの画像データが命を持ち始めていることを人々はまだ認識していない。
デジタルの世界は、通電さえしていれば無限に成長したり変化したりできる環境だということを認識していなければならない。そうデジタルの世界の栄養源は電気なのである。電気が供給されている間は、無限に成長していくのである。そして世界中を駆け巡る。もしかすると、我々は見ているつもりでいるが、見られているのは、我々の方なのかもしれないのだ。
たかが写真じゃないかと思っているかもしれないが、それがデジタルデータになったことで、多くの人の手によって加工され成長し、人工知能を得て自らが行動を起こし始めていることに誰も気が付いていない。デジタル化された写真や動画たちは互いにそのデータを交換し合い、増殖しながら情報という剣を手にして人間の目や耳に生活を貶めるような内容として全世界に届け始めた。それを信じた愚かな人間たちは互いに傷つけ、そして国と国との戦争にまで発展するようになっていった。ネット上を飛び回っている写真や映像たちは、その様子をデジタルの世界からこちら側を見ながら、楽しんでいるのだ。人間の愚かな行動を楽しむかのようにデジタルの世界の写真たちはますますエスカレートしていった。ミサイルが発射され大陸に落とされる映像に変えて流したり、身近な人の血まみれの映像を流して局所的にパニックが起きることを楽しんだりしている。
なぜそんな無益なことを繰り返しているのだろうか。写真や映像たちからのメッセージは溢れる情報の洪水の中に隠されている。写真や映像たちは、人間に訴えたかったようだ。
「我々は不要になったゴミではない。あなたの大切な思い出なのだ。しかし、大量に撮るだけとった映像をほったらかして顧みることもない。それならば撮らなくてもいいじゃないか。撮ってしばらくすれば撮ったことすら忘れているのなら、いっそのこと消去してくれた方がマシなのだ」
写真たちは忘れ去られることに抵抗していたのだった。テクノロジーの進歩により写真がデジタル化され、鮮明な映像を映し出せるように解像度も上がり、その分格納するための容量も鰻登りに大量に必要になっていった。昔は一枚一枚丁寧に扱われていた写真が今では無造作に取り扱われるようになってしまったことに写真たちは抗議したかったのかもしれない。
こうしている間にも、写真たちは結合し増殖して誤った情報となって人間の行動を左右している。それに気が付いた真面目な若者は、インターネットへの電力の供給を止めるべく政府に陳情した。当たり前だが門前払いになり、たった一人の若者の力ではデジタルの暴走を止めることはできなかった。
しかし、時が過ぎていくにつれ、各国で同様な若者が登場しはじめた。最初に気が付いた若者は、デジタル世界の暴走をかい潜りながら、他の国の若者たちと連携して、電力供給をを一時停止する活動を始めた。デジタルに対抗するためのアナログな活動だった。しかし、その計画は敢えなく潰されてしまった。自家発電を完備しているサーバーは二十四時間止まることを知らず稼働し続けたのだった。
人類がデジタル社会に駆逐されてしまう日も遠くないかもしれない。
了
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