2月28日 バカヤローの日 【SS】わからずや
【今日は何の日】- バカヤローの日
1953年(昭和28年)のこの日、吉田茂首相が衆議院予算委員会の席上、西村栄一議員の質問に対し興奮して「バカヤロー」と小声で発言したが、マイクが拾ってしまい、大騒ぎになったそうだ。そしてこの発言が元となり、この年の3月14日に衆議院が解散してしまった。この解散は「バカヤロー解散」と呼ばれている。
【SS】わからずや
「ねえ、悠太。来週の土曜日、暇?」
「えっ、なんで。暇といえば暇だし忙しいといえば忙しいかなぁ」
「もう、何それー、あのさ、一緒にディズニーランド行かない。二人で」
「は、ディズニー。俺そんな金ないし。子供じゃないし」
「私のバイト代が入るからお金の心配はないよ。超楽しーんだから」
ありさは意を決して悠太を誘っている。二人は付き合い始めてまだ三ヶ月の高校二年生で同級生だ。どちらかというとありさの方がお熱になっているみたいだ。悠太は基本恥ずかしがり屋だけどスポーツ万能で勉強はそこそこって感じの男の子だった。割と女子に人気が高い男の子だった。一方ありさは、スポーツは全くダメだけどスリルが大好き。だからディズニーランドでもビックサンダーマウンテンなんかに乗りたがる方だ。勉強の方は国語が得意で数学がダメという文系を絵に書いたようような成績だった。目指している大学も数学の試験がないところを探しているくらいだ。
実は悠太は高所恐怖症だった。もちろんジェットコースターどころか観覧車さえも苦手なのだ。なので、遊園地の類の誘いは基本断っている。高いところがダメだなんて恥ずかしくて言えない。もちろん男友達から誘われても常に断っている。
ありさは悠太とどうしてもディズニーランドに行きたい理由があった。ありさは将来ディズニーランドで働きたいと密かに思っていて、ディズニーランドの年間パスポートも既に二人分購入していた。それをサプライズで悠太に渡して少なくとも月二回は一緒にディズニーランドに行きたいと画策していたのだった。ありさはディズニーラントがたまらなく好きだった。開放的になるし現実からも離れられるので悠太と二人で行けたらいいなと前々から思っていたのだった。
そんなことを知らない悠太はありさとデートはしたいけどジェットコースターとか高いところに行くアトラクションがある場所は避けたいと思ったいたのだった。はっきりと高いところは怖いと言えばいいだけなのだが、悠太の変なプライドがそうさせなかった。それでもいつかは言わないといけないんだろうなとは心の中で思ってはいたようだ。
なかなか思い通りの展開にならない二人は、少しずつフラストが溜まっていった。ありさは、大好きな悠太がそっけないそぶりをすることにやるせなさを感じるようになっていた。悠太は、自分のウィークポイントをありさに知られたくないと思い自己嫌悪に陥っていた。二人が住んでいる家は、江ノ島に渡る橋の右側にありさの家、左側に悠太の家があった。
悠太は腰越港のほうへ歩き、ありさは片瀬海岸の砂浜の方に歩いていた。そろそろ日が沈む時間だ。カップルも多い時間帯だが、それよりも高ぶる気持ちに抗えないでいた。まだ、夏には程遠いのでそんなに人が多いわけではないが、手を繋いだ男女が仲良く歩いているのを見てしまうと余計に腹立たしくなっていた。
そんな砂浜に歩いていったありさは、両足を開き、お腹に力を込めて思いっきり叫んだ。
「悠太のバカヤロー、わからずやー、私の気持ちもわからないのかー」
片瀬海岸を歩いている人たちもびっくりして振り返っていたが、響き渡ったありさの声は、さすがに腰越港にいた悠太の耳までは届いてはいなかった。片瀬海岸とは打って変わり、腰越港はすでに釣り人も引き上げた後で人はいなくなり、静かな雰囲気に包まれていた。恋人たちもここにはやってこない。悠太は、防波堤のヘリまで歩いて行き、ボソッとつぶやいた。
「ありさのバカヤロー、少しは俺のことを解れよ。俺は高いところダメなんだよ」
悠太は呟きながら反省した。言ってないことはわかるわけないよな。そう思い、ポケットからスマホを取り出して、ラインでメッセージを送った。
「ねぇ、ちょっと会おうか。片瀬海岸まで行くよ」
すぐに返事が来た。「うん、待ってる」
悠太が片瀬海岸の水際を歩いていると、ありさが駆け寄ってきた。
「もしかして、私の心の声が届いたのかなぁ」
「え、なんで」
「ううん、なんでもない。なんか悔しくって叫んじゃったの。悠太のバカヤローって。ゴメン」
「おれも呟いてた、ありさのバカヤローって。でもちゃんと話さないとわかんないよなって思って、ラインした。俺のほうこそゴメン。俺さ、高いとこダメなんだよ。ジェットコースターとか。小さい時から。だからありさの誘いも断ったんだよ。ゴメン」
「あっ、私と一緒にディズニーに行くのか嫌じゃなかったんだー。よかったー」
「え、軽蔑とかしないの」
「しないよー。だって、悠太のこと大好きだもん。じゃあさ、ディズニーランドでパレードを見て美味しいもの食べようよ。だったらいいでしょ」
「わかった。行こう」
こうして悠太は自分の弱みをありさにぶつけた。ありさは、悠太の弱いところを自分だけが知ることになって少し距離が近づいた気がして、ちょっと嬉しくなった。今週の週末が楽しみに変わった夕暮れ時だった。ありさは「叫んでみるもんだなぁ」と心の中で思っていた。
了
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