【SS】お出かけは、何処
『ねぇねぇ、今日はどこかにいくの。お父さんもお母さんもお着替えしてるけど』
我が家のワンコは上目遣いの目で訴える。私たちが普段家の中にいる格好から着替えを始めると途端に尻尾を下げて心配そうな表情になる。出かける準備のために部屋から部屋へと動き回ると、様子を伺うように足元にまとわりついてくる。どうしてもそばから離れたくないようだ。
『ねぇねぇ、僕も一緒にけるのかなぁ』
お構いなしに外出の準備をしていると、観念したかのように尻尾を下げたまま普段の定位置であるリビングのソファの背もたれの上に乗り、我々の行動をじっと見つめている。声をかけると尻尾を振っている。だが、お出かけというキーワードが入るとフンというような態度に変わる。わかりやすい。
「ちょっと、お出かけしてくるからね」
『ちぇっ、お留守番かー。また買い物だな。よく買い物に行くよなぁ』
「今日は、一緒に出かけるよ」
『えっ、僕も行けるの』
急にワンコは元気になり、くるくると回りはじめ、早くリードをつけろとばかりにワンワンと激しく吠えまくる。一緒にお出かけするためのワンコのおでかけセットを棚から取り出すと、待ってましたとばかりに興奮する。落ち着くまでは手がつけられない。リードすらできない。
『やったー、やったー。お出かけだー。やったー、やったー、うれしいなー』
しばらく興奮して大人しくなると今度は早く抱っこしろとばかりにそばに寄ってくる。なんて現金なやつだと思いながらも、その仕草はかわいい。年老いた犬ではあるがかわいい。リードをつけて抱っこする。
実は今日はワンコのシャンプーの日なのだ。でもそんなことはワンコは知らない。きっと散歩に行けると思ってはしゃいでいる。
『散歩、散歩、散歩。早くいきたいなー。お外は寒いかなー。公園がいいなー』
抱っこして玄関を出る。玄関の前のエレベータのボタンを押す。まだまだ、ワンコは上機嫌。散歩の時は一階から出るのだが、車に乗る時は二階で降りる。エレベータを出た時の景色が違う。今日は二階。
『あれ、散歩じゃないみたいだ。なんだか嫌な予感。このコースは車に乗って何処かに行くパターンだ。えー、だったら、お留守番の方がいいなー。車に乗った時って、楽しいところには行かないもん』
ワンコを車に乗せて家を出る。ついたのは近くのペットショップ。今日は予約をしてあったシャンプーの日だ。毛もふわふわになるし、いい匂いになる日だ。
「さぁ、着いたぞ。今日はシャンプーの日だぞ。ふかふかになってくるんだぞー」
『やっぱり、楽しいところじゃなかった。お姉さんたちに、身体中をゴシゴシされるところだ。あー、やだなぁ。お風呂は大嫌いだ。だって、顔にお水がかかるんだもん。息ができなくなっちゃうよ』
ペットショップの店員さんに我が家のワンコを託して、晩御飯の買い物だ。スーパーを一回りして買い物を済ませた頃、スマホの呼び出し。
「こちらはペットショップです。シャンプーが終わりましたのでお迎えをお願いします」
「わかりました。これから迎えにいきます」
ふかふかになった我が家のワンコは、一人用のケージに入れられて早く出してくれーと言わんばかりにワンワンと吠えている。
『ワンッ、ワンッ。早く、ここから出してよー。狭いところは嫌いだよー』
こうして、我が家のワンコのシャンプーは無事終了した。月に一回のイベントだが、なかなか慣れない。どうやらシャワーを浴びるのが好きではないようだ。
『ああ、やっとお迎えが来た。お父さん遅いよー。僕はもっと早く帰りたいよー。でも、ここに来た日の夜はお父さんもお母さんもスリスリしてくれるから、嫌な時間を我慢した甲斐はあるかなぁ』
了
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