見出し画像

1月22日 飛行船の日 【SS】空の上の殺人事件

【今日は何の日】- 飛行船の日

 1916年(大正5年)のこの日、初の国産飛行船である陸軍の「雄飛号」が、所沢(埼玉県)~大阪で実験飛行を行った。もともとは、ドイツから輸入された飛行船に対し改造を重ねて製作された銀葉の飛行船である。その「雄飛号」の実験飛行が行われた日を記念して飛行船の日が制定された。残念ながら実験飛行は往復することはできず、復路は機関不調のため分解して陸送で戻って行った。


【SS】空の上の殺人事件  (今回は少し長いお話になってしまいました)

 一人の男の水死体が伊豆半島沖の海に黒い上着の袖が破れて、浮かんでいるのを近くを通った漁船が見つけた。すでに腐敗が始まってはいたが司法解剖に回され、死因は高いところから落下したための内蔵破裂だと特定され、死亡推定時刻は二日前の一月二十二日の午前中と推定された。身元を証明する持ち物がなく捜査の難航が予想されたが、県警では捜査本部が設けられ、事故、事件の両面から捜査が始まった。担当刑事には、石廊崎殺人事件を解決した大森刑事、内海刑事も加わっていた。

「内海刑事、これはまたまた石廊崎からの飛び降りの線が強そうだな、飛び降りて海面に体を打ちつけて内蔵破裂したと見るのが普通だろう。問題は自殺かどうかだけどな。とりあえず石廊崎にまた行ってみるか」

「そうですね〜。それも必要かもしれませんが、ちょっと気になるんですよね」

「ん、何が」

「ええ、岩に当たって損傷したような痕跡は見つからなかったという検死報告があったじゃないですか」

「あれ、そんなこと書いてあったかなぁ。内海刑事はよく見てるね〜」

「もし石廊崎から落ちたとしたら、確実に痕跡は残ると思うんですよ。だから直接海面に叩きつけられるような場所から落ちたんじゃないかと思うんです。それも結構高い場所から」

「そんな高い場所、あるかなぁ。ないんじゃないか」

🔶 🔶 🔶

 一月二十二日、富士山静岡空港を飛び立った飛行船が御前崎沖を旋回して楽しんでいて墜落事故を起こしていた。当日は飛行船の日ということで記念飛行を実施していたグループだった。乗っていたのは乗船名簿によると四名だったが助かったのは操縦していた谷村錠という四十歳のエンジニア一人だった。彼の話によると突然舵が効かなくなってしまいエンジンの出力も落ち、墜落してしまったというのだ。残りの三名は御前崎沖で発見され全員が海中での溺死と診断された。事故の原因究明はまだ実施中だったが、乗員全員が確認されたため、事故の原因のみが捜査対象になっていた。ただ、乗員名簿によると、死亡したのは、谷村の家族で両親と姉だったので、谷村に対する嫌疑は晴れてはいなかった。

 内海刑事は「もし四名ではなく五名乗船していて乗船名簿を書き換えていたとしたら、飛行船から突き落とされた可能性もあるんじゃないか」と推測していた。だがまだ憶測の域を出てはいない。そこで、大森刑事と共に石廊崎に聞き込みに行った。すると飛行船の目撃者が現れた。毎日掃除に来ているボランティアのおばあちゃんだった。おばあちゃんによると「石廊崎沖で飛んでいるのを見た。珍しいのでしばらく見ていた」ということだった。憶測が事実に近づいた。

 内海刑事は、飛行船の事故を調査しているチームに連絡を入れた。

「事前に提出された飛行ルートの確認と、飛行船内部の遺留物に男性の上着の袖の一部と思われる黒い布が発見されていないか確認して教えていただけますか」

 程なく回答が来た。それによると提出された飛行ルートは御前崎灯台の沖を何度か旋回して戻ってくるというものだったようだ。そして、黒い布については飛行船の窓の部分に袖のボタンが付いている状態の黒い布が引っかかっていたということもわかった。加えて弁護士のものらしい鞄も船内から発見された。憶測は完全に事実になった。

 内海刑事は大森刑事に自分が立てた仮説と裏付けを説明し、大森刑事を通して飛行船の唯一の生存者である谷村というエンジニアに任意同行を申し入れた。

🔶 🔶 🔶

  取調室に入った谷村は明らかに動揺していた。内海刑事はそんな谷村に最初の言葉を投げかけた。

「飛行船には、本当は何名乗船していたのですか」
「えっ、な、何名って。乗船名簿の通りですが」聞き取れないように小さな声で答えていた。

 内海刑事は、飛行船の事故を担当している刑事から、谷村は飛行船購入のために多額の借金で苦しんでおり、実家に借金を申し込んで断われていたという事実も聞かされていた。そして飛行船に保険をかけた直後、今回の事故が起きたということも聞かされていた。内海は谷村に畳み掛けた。

「石廊崎沖で男性が水死体で発見されました。かなり高いところから転落し海面で体を強く打ちつけたことが原因で無くなっていました。溺死ではありません。その男性が来ていた上着の袖があなたが操縦していた飛行船から発見されています。そして石廊崎沖を飛んでいる飛行船を見たという目撃証言も確認しましたよ。悪いことは隠せないものです。正直にいうなら今しかありませんよ。谷村さん」

 谷村は両手でグッと拳を作り握りしめながら肩に力を入れて俯いていた。そしてその静寂を破るかのように口を開いた。

「申し訳ありません。私がやりました。突き落としたのは父親の弁護士さんです。遺産を僕には残さない遺言を作ると言っていたので、全員を集めて殺害することを計画しました。もうそれしか手段がなかったんです。僕の人生には選択するべき道は他になかった。弁護士さんには途中で私の計画に気づかれたため家族の隙を見て突き落としてしまいました。それであたかも謝って転落したかのように飛行船の中で騒ぎました。そして乗船名簿から名前を消しました」

「それで最終的には飛行船を墜落させたのですか」

「はい。ゆっくりと海の中に沈むようにしました。私は携帯用の酸素ボンベを隠し持っていたので、海中から非常口を使って脱出しましたが、海中に出た後、非常口をロックして出られないようにしてしまいました。その時に見た、父親の顔が脳裏に焼きついていて毎日夢に出てきます。とんでもないことをしてしまったと思いました。やっと全てを話せて肩の荷がおりました」

 谷村の自供を受け、内海刑事は宣言した。

「一月二十六日午後三時四十分、谷村錠を四人の殺人容疑で逮捕します。谷村さん、あなたはどんなに弁解してもやってはならないことを犯してしまいました。もう、あなたの家族とは会うことはできないのです。同様にあなたの手によって命を取られてしまった弁護士さんの家族も同様です。あなたの行いがどんなに愚かで自分勝手だったのかということをしっかりと自覚して、裁判に望んでください。天国から見ている家族のためにも」

「はい、わかりました。これから私は一生をかけて償う道を見つけたいと思います。いつの日か再会する両親の顔を正面から見られるようになりたいです」

 そう言って谷村は泣き崩れた。本来は優しい心の持ち主だったのかもしれない。それが「お金」という魔物にとりつかれたがゆえに道を誤ったのかもしれない。内海刑事はそう思っていた。

 大森刑事はその時、腕組みをしながら内海刑事のやりとりを見ていて首を何度も縦に振り、感心する様子でつぶやいた。

「さすがは私が教え込んだ後輩だ。すばらしい事件解決だった」


🌿【照葉の小説】今日は何の日SS集  ← 記念日からの創作SS


いつも読んでいただきありがとうございます。
コメントも気軽に入れていただけるとうれしいです。
「てりは」のnoteへ初めての方は、以下もどうぞ。
🌿サイトマップ-異次元ホテル照葉


#ショートショート #創作 #小説 #フィクション #今日は何の日ショートショート #今日は何の日


いいなと思ったら応援しよう!

松浦 照葉 (てりは) よろしければチップによるご支援をお願いします。皆さんに提供できるものは「経験」と「創造」のみですが、小説やエッセイにしてあなたにお届けしたいと思っています。いただいたチップは創作活動費用として使わせていただきます。