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6月6日 恐怖の日 【SS】気配

日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。


【今日は何の日】-恐怖の日

キリスト教の聖典『新約聖書』の中で、世界の終末を描いた『ヨハネの黙示録』に「獣の数字」として登場する「666」にちなむ。

『ヨハネの黙示録』の13章16~18節には、「また、小さな者にも大きな者にも、富める者にも貧しい者にも、自由な身分の者にも奴隷にも、すべての者にその右の手あるいはその額に刻印を押させた。この刻印のある者でなければ、物を買うことも、売ることもできないようにした。この刻印とはあの獣の名、あるいはその名の数字のことである。ここに知恵が必要である。賢い人は、獣の数字にどのような意味があるかを考えるがよい。その数字とは人間を指すものである。そして、その数字は六百六十六である。」と記述されている。


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【SS】気配

 六月六日、中古の一軒家を購入して引っ越しをしてきた家族がいた。少し街からは離れているがその分静かで自然を楽しめる。隣の家までも五十メートルくらい離れているので、子供たちが大きな声をだしても問題ないだろう。そんな期待に胸を膨らませながら家具を運び込む前尾家だった。

 大黒柱である父はエンジニアで名前が進、その妻で専業主婦の郁、小学四年生で長男の走、小学二年生で妹の美晴という家族構成だった。やんちゃな小学生兄妹なのでこれまで住んでいたマンションでは何度か苦情を言われていた。夫婦は、その心配が無くなっただけでも肩の荷が下りたような気になっていた。

 テンション高く引っ越しをした前尾家族は、スーパーで買っておいた蕎麦で引っ越し祝いをした。隣近所への挨拶には買っておいたタオルを配ってまわっていた。ご近所さんはとてもいい人たちで、畑で採れたものなどもその場でくれたりした。ただ、これから大変だろうけど頑張ってねと言われたことが、知らない土地に引っ越してきたことに対する言葉だろうと思っていたのだが、どうやらそうではなかったようだ。引っ越してきた夜からその洗礼を受けることになってしまった。

 引っ越しで疲れ切った前尾家族は夜十時を待つことなく、全員が眠りについていた。すると俄かに天井裏や床下、さらには壁の中からもガサゴソという音がし始めたのだ、一家は疲れ切っていたため一切気づくことはなかった。

 その頃、周りの家では引っ越してきた前尾家族に教えてあげた方がいいんじゃないかという声が上がっていた。

「ねぇ、今日越して来られた前尾さんには話をしておいた方がいいんじゃないかな。このままだとまた引越しして行ってしまわれるかもしれないよ」

「あぁ、そうだけど。伝えてしまったら余計に気持ち悪がって引っ越してしまうんじゃないだろうか」

「でも、このまま伝えないのは気が引けるねぇ。明日野菜でも届けてあげようかね」

 翌日になって、近所のお年寄りがアサドリの野菜を携えて前尾家へやってきた。

「おはようございま〜す。よく引越しして来られましたね。歓迎しますよ。隣の川端というものです。今日は野菜を持ってきたからみんなで食べてくださいね」

「うわー、ありがとうございます。こちらからご挨拶に行かなければならないところ、申し訳ありません。前尾と申します」

「あ、前尾さんね。なーに、近所同士にそんな遠慮しないでもいいよ。ところで、昨日はぐっすり眠れたかい。なんか変な音とかは聞こえて来なかったかい。ここは田舎で静かだから都会と違って騒音もないからね。余計に物音などが聞こえやすいかな」

「いえ、昨夜はもうみんな引っ越しで疲れ果ててぐっすりでした。何か、この辺りでは音がすることがあるのですか」

「あー、いやいや。気にならなかったらいいんだよ。余計なこといっちまったかね。じゃあ、また、そのうち野菜でも持ってきてあげるよ」

 郁は、近所のおばあちゃんの言葉がちょっとだけ引っかかっていた。そういえばこの家を買う時、前の持ち主は一年もしないうちに売ってしまったということを聞いていた。不動産屋からは仕事の都合で売却しなければならなかったから、安くなってますと聞いて購入を決定したことを思い出した。その時は、なんてついているんだと思っていたが、もしかして事故物件だったりしたら大変だと思い始め、夫の進に相談し、とりあえず今夜は耳をすませて確認してみようということになった。

 ドキドキしながら、その日の夜を迎えた。進はリモートワークをしながら、郁はリビングのソファに座り、テレビをつけるのを我慢して静かに耳を澄ましていた。すると天井の辺りから、ギギギー、ギッギッギーという低く引きずるような音が聞こえてきたのだ。時々、ビシッ、バシッという音も聞こえてきた。時計を見ると午前〇時になる前。子供達は眠っているので気がつくはずもない。夫婦は目を合わせながら脂汗を流していた。怖くなった二人は、翌日早々に不動産屋に掛け合った。

「あの家、夜になると不気味な音がします。もしかして事故物件を売りつけたんじゃないでしょうね」

「ああ、聞こえましたか。やっぱり」

「やっぱりってどういうことですか。知ってて売りつけたんですか」

「あ、いやいや。そうではありません。あの家は立っている場所がとても日当たりが良くて風通しがいい家なんです。実は前の持ち主の方は仕事の都合で転勤にもなったのですが、その音が気味が悪いということもおっしゃっていたんです。しかし、私たちからすればごく当たり前の現象だったので特に触れませんでした。申し訳ありません」

「当たり前の現象ってどういうことですか」進が追求した。

「はい、木造の家は生きているのです。呼吸もしているのです。昼間の太陽で温められた木材はわずかですが膨張します。そして夜になり風に吹かれ冷えると収縮しようとするのです。その時木材同士の継ぎ目や接している面が擦れて音が出るのです。おそらく、ギギーとかパシッという音ではありませんか。それは家が健全だということなんです。古い家の特徴とでも言えると思います」

「ああ、なるほど。なんとなく理解できたような気になりました」

「もしどうしても気になるようであれば、点検することもできます。もちろん点検費用はこちらで負担しますので」

「あ、でしたら、点検だけお願いしてもいいでしょうか。安心して住みたいので」

「わかりましたでは手配しておきます。あまり気になさらない方がいいと思います」

 こうして、進と郁は納得して不動産屋から帰っていった。その日の夕食の時、小学二年生の美晴が、ニコニコしながら話をした。

「今日ね、お友達ができたんだよ。家の裏にワラの着物を着た男の子がいたんだ。そしたらね、この家の中に住んでるんだって、笑っちゃった。ここは私たちの家だよっていってあげたら、ケラケラ笑ったのよ。それで一緒にかくれんぼして遊んだの。またあしたも遊ぼうって言われたんだ」

 進と郁はお互いの心の中で「座敷童がいるんだ」と理解した。


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