4月2日 図書館開設記念日 【SS】作家志望
日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。
【今日は何の日】- 図書館開設記念日
1872年(明治5年)のこの日、東京・湯島の昌平黌(昌平坂学問所)講堂跡に日本初の官立公共図書館で帝国図書館の前身である東京府書籍館が開設された。
ロンドン図書館などを参考にした初めてのヨーロッパ式図書館であった。のちに上野に移り、上野図書館として親しまれた。帝国図書館は国会図書館の前身で、帝国図書館の開館は1897年(明治30年)4月27日。なお当初は大宝律令の時代からの呼び方で「ずしょかん」と読んでいた。「としょかん」と統一されるようになったのは大正以後のこと。
4月27日は「国会図書館開館記念日」、4月30日は「図書館記念日」。
🌿過去投稿分の一覧はこちら👉 【今日は何の日SS】一覧目次
【SS】作家志望
私は本が大好きだった。好きが高じて司書試験を受け、晴れて郊外の図書館勤務が実現した。毎日を本に囲まれて幸せな日々が送れることを夢に見ていた。きっと、毎日大好きな本を貪り読むことができるだろうと。
現実は違っていた。郊外といっても最近は発展目覚ましい住宅地であり、タワーマンションが何本も立ち並ぶような場所で急激に人口が増え、小中学校まで新しく開校するほどだ。図書館に本を借りに来る人も増加の一途を辿り、平日だろうが休日だろうが図書館の中はごった返しするほどに利用率が上がっていったのである。利用者が多くなると返却された本の消毒と書棚に戻す作業も半端なく増えていった。
私は図書館で好きな本を読み、仕事が休みの時は、自ら小説を執筆するのが小さい頃からの夢だった。しかし、実際に図書館に勤務するようになるととてもじゃないが毎日本を読む時間を確保することは難しく、休みの日は体力もなくなり執筆する気力すら残っていない状況が続いたのである。
しかしそれだけ忙しくても、司書としての知識向上のため、毎週何かしらの読書感想文も書かされる。実を言うと私は読書感想文が苦手なのである。私は私の感覚で一気に本を読むだけなので、読みながらメモしたり作者の意図を推測したりすることが、嫌いなのである。というよりできない。結果、小学生でももう少しまともな読書感想文になるのではないかという程度の文章しか出来上がらない。
これではダメだと自分自身に言い聞かせはするのだが、楽しく本を読むというのが私のポリシーなのでイヤイヤながらの読書はしたくない。ただ司書として図書館にやってきた人たちに対し、この本はこんなところが面白いですよとか、学ぶところがありますよと声をかけてあげることができるといいなと漠然と憧れている。私がこれまで図書館に通っていた時、そんな事を言ってくれた人はいなかったので、なんとなく漠然と憧れているのかもしれない。それにその事自体が図書館に来る人にとっては、余計なお世話かもしれないということもわかっているのだ。でも、やってみたいし、そうなりたいと思っている私を否定しない。
月日は流れて図書館勤務も五年が経過した。蔵書もそれなりに近隣の図書館との間で交換したりして増加している。最近はIT化も進んできているのでちょっと困ったことも起こり始めた。パソコンで検索したり貸出の操作ができるのだが、シニアの方から使い方をよく質問されるのだ。私はITが苦手なので、普段はあまり使わないのだが、聞かれることが多くなるたびになんとかしたいなと思い始め、シニアの方でもわかりやすく小説を読むように使い方を覚えられる本を書いたらいいのではないかと突然思いついたのだ。思いついたら即実行の私はすぐに手をつけ始めた。
私は、図書館の検索システムを使うための手順をわかりやすく説明するために、登場人物やその人物の趣味などの設定を複数人分行った。想定は、シニアの方達だ。小さい子たちは勝手に触って覚えてしまうので説明書などは逆にいらない。シニアの方は苦手意識があり手を出そうとしない。結果として有人の窓口が混雑してしまっている現状がある。私の文章でこの状態をなんとか解決してやると意気込みパソコンの前に向かった。
そこでハタと気がついた。登場人物の設定は問題なくできたのだが、その人物が実際に触って検索したり、貸し出しや返却の処理をするところが思い浮かばない。そういえば、私自身簡単な説明を受けたきりで触ったことがほとんどなかったのだ。質問を受けた時には想定質問集を頼りに回答していたし、それでもわからない時は先輩に聞いていただけだった。これではダメだと、まずは自分自身で納得いくまで使ってみた。結果として分かったことは、なんと簡単な操作なんだということ。
そんな経験をして、小説風の図書館システムの使い方冊子を作り上げた。図書館の複写機を使って、とりあえず二十部コピーをとってホッチキスで簡易製本。希望者に配布してみた。だが反応は良くない。シニアの方からすれば、窓口に並ぶことは苦になっていないから、わざわざパソコンを使わなくてもいいらしい。これが図書館の現実なんだなと改めて高齢化社会を実感してしまった。
しかし、これで諦めるような私ではない。なんとかシステムの利用率を上げて、図書館員の負荷を下げるために私は作った冊子を来館したシニアの方々に一人ずつ手渡しすると共にお願いの言葉を添えた。
「図書館のご利用ありがとうございます。この図書館を末長く存続させていくためのお願いです。我々図書館員の作業を少しだけお手伝いしていただけませんか。そうすることで、図書館員は未来の利用者である子どもたちに提供できる本の整理ができるようになります。ぜひ、この冊子に目を通していただき効率よく図書館をご利用ください。お手伝いは、ご自身で手続きをしていただくことで実現できます」
「おお、なるほど。子供達のためとあらば、われわれ年よりも協力しないといけないな。苦手だがやってみるか。分からなかったらお姉さんが教えてくれるのかのう」
「もちろんです。気軽に声をかけてください」
数日後、図書館システムのパソコンの前にシニアの方々が集まり、先日冊子を手に取ってくれた方が先頭に立って説明してくれていた。私に気付いたようで声もかけてくれた。
「みんな、ほら、あのお姉さんがこの冊子を作ってくれんだ。わかりやすく書いてあるからわしでも理解できたよ。あのお姉さんは人を惹きつけるような文章を書ける人だから、今のうちに仲良くしておいた方がいいぞ。まずは、わしらはこのシステムの使い方を覚えるのが先決じゃがの。未来の子供達のために。な、お姉さん」
私はペコリと頭を下げ微笑んだ。
了
🌿【照葉の小説】今日は何の日SS集 ← 記念日からの創作SS
いつも読んでいただきありがとうございます。
コメントも気軽に入れていただけるとうれしいです。
「てりは」のnoteへ初めての方は、こちらのホテルへもお越しください。
🌿サイトマップ-異次元ホテル照葉
#ショートショート #創作 #小説 #フィクション #今日は何の日ショートショート #今日は何の日 #掌編小説 #超短編小説
いいなと思ったら応援しよう!
よろしければチップによるご支援をお願いします。皆さんに提供できるものは「経験」と「創造」のみですが、小説やエッセイにしてあなたにお届けしたいと思っています。いただいたチップは創作活動費用として使わせていただきます。