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【SS】 12個の石 #シロクマ文芸部

 消えた鍵を探す旅が始まる。ようやく準備が整ったのだ。僕の前から消えてすでに一月以上の時が流れていた。消えた鍵の居場所を教えてくれる不思議な力を持つ石を探すのに手間取っていたのだ。革の手袋をつけて森の奥深い場所の渓谷の中に入り、漆黒の闇の時にだけ緑色に光る石を十四個見つける必要があった。鍵の行方を知るためには、時計の文字盤のように十二個並べた石が必要で、さらに一番大きな石を真ん中に置き、その横に一番小さな石を配置する必要があった。森の木を切って丸いボードを作り石を埋め込む穴も作り、一番小さな石を除いて、取ってきた石を固定する。そして、最後に小さな石を固定せずに置くと、小さな石は少しだけ浮かび上がり鍵のある方向まで移動して止まる。鍵が移動すると石も光りながら移動してくれる。不思議なパワーで繋がっているらしい。

 消えた鍵に反応する石を探していたために、一月近くも準備にかかってしまった。不思議な石のおかげで鍵がある方角はわかるのだが、距離はわからない。ただ、近づくと石の輝きは増してくるのでそれだけが頼りだ。僕は進むべき方角だけを確認して、石を麻の袋にしまい、紐で肩から下げて鍵探しの旅に出発した。一緒に行くのは愛犬のロンだけ。長い旅になりそうな予感がした。

 一週間ほど彷徨いながら移動していると、不気味な森に差し掛かった。どうやら魔物が住み着いていそうな森だ。だが、石は森の中をさし示している。森を避けていくわけにもいかない。意を決してロンとともに森の中へと踏み込んで行った。不気味な笑い声が遠くなったり、近くなったりしている。気味が悪い。気にせずにズンズンと進んでいくと、小さな毛むくじゃらの「何か」がものすごいスピードで近寄って、麻の袋にしまっている光る石をもぎ取ろうとしている。その「何か」は手のようなものを袋の中に素早く突っ込んでボードに固定してある石を一つもぎ取って逃げていった。石は一つでも欠けると効力を失ってしまう。慌てて追いかけるが、ものすごいスピードで走り去られてしまい、追いかけようが無くなった。

 光る石は魔物の手に渡り直接触っていると熱を発するはずだった。力強く掴んだまま走り去ったはずだから、熱くて放り投げているかもしれないと思い、慎重に緑色に光る石を探した。幸いにも気味が悪い森の中では漆黒の闇に覆われ、石が光れば見つけられる。しばらく歩いていると大きな木の根元に転がっている石を見つけることができた。ホッとした。石を拾いボードの穴に石を入れて再び固定しなおした。そして小さい石を浮かべてみると、なんと力強く光り始めたではないか。もしかしたら、この森の中に消えた鍵があるのかもしれない。遠くには魔物の気配も感じる。石を盗んだ「何か」は多分魔物だったのだろう。だとすれば他の魔物に情報は伝わっていることだろう。石に触ると途端に熱くなり持っていられなくなるということが。なんとなく、魔物に囲まれてはいるが襲われることはないのだろうと思い始めていた。

 森の出口付近に差し掛かった。横を見ると小さな小屋が見えた。石がさらに強く反応しはじめた。どうやら鍵は小屋の中にありそうだ。そっと近づき扉を開ける。ギーという鈍い音と共に扉が開いた。奥の方には女性がいる。

「カリン、カリンだね。今助けてあげるからね」

「いやー、来ないで。近寄らないで」

 カリンの首には消えた鍵が掛かっている。僕の目はその鍵に釘付けとなり、だんだんと僕の目は青白く光り始めた。そしてゆっくりとカリンに近づいた。ロンは先にカリンのそばに行き、僕に向かって唸り始めた。

「ウウー」

「ロン、お前がいてくれたおかげで石が光ってくれたな。おかげでここまでやってくることができたよ。感謝しているよ。でももうお前には用はない。楽にしてあげよう」

「ダメー。ロンを殺さないでー」

 僕は近づき、両手をカリンに差し出した。

「その鍵で、この呪いの手錠を外してくれたら、助けてあげてもいいよ。さぁ、これを外してくれ」

 カリンは鍵を手錠に差すふりをして、柱に巻かれているロープを手錠に通して、思いっきり引っ張り、柱に僕を縛りつけた。咄嗟のことで油断していた僕がいけなかったのだが、両手に手錠がかけられている上、不意をつかれ縛られてしまった。その後、足枷までつけられ、カリンが首に下げている鍵で足枷を外れないようにされてしまった。

 僕は魔物だった。しかも魔物を喰らってしまう魔物だった。それを見かねてカリンは僕を薬で眠らせ、スキをみて僕に魔法や力では外れない手錠をかけたのだった。僕はこの手錠を外したくてずっと鍵を探してきたのに、またしてもカリンにやられてしまった。もしかすると、カリンのことを愛し始めていたから油断したのかもしれない。そんなことを全く知る由もないカリンは、麻の袋に入った光る石を取り出し、小屋の奥にある剣の刃に当てた。するとどういうことか剣は石を飲み込んでしまったかのように石が剣に溶け込んでいった。そして淡く緑色に輝く剣に変わった。僕はその剣で胸を一突きされてしまい、意識がなくなっていった。目を開けるとカリンが涙を流して僕を覗き込んでいた。

「カリン、僕は一体、どうしてしまったんだ。ここはどこなんだ」

「王子様、お目覚めですか。王子様に取り憑いた魔物は追い出しました。もう安心です。よく、取り憑かれた体で私を探してくださいましたね。きっと石を持って私のところに来てくれると信じていました。ありがとうございます」

「カリン。そうか、魔物に取り憑かれた私を助けるために、君は魔物の習性を利用してくれたんだね。ありがとう」

 王子の手錠と足枷は外れていた。剣で刺した傷跡も消えていた。しかし、石の力が宿った剣で体から追い出された魔物がロンに取り憑いてしまったことには、カリンも気が付いていなかった。もちろん王子に戻った僕もこの時には気づく余地もなかった。


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