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【SS】風が吹く街 (2718字)  #シロクマ文芸部

 風が吹く街に一組の家族が棲み始めてから五年が過ぎていた。大きな屋敷が海を背にして整然と並んでいる街だ。まるで別荘地帯のようにゆったりとした空気を醸し出しているリッチな街だった。以前は、年老いた老夫婦と一緒に幸せに暮らしていたのだが、老夫婦が施設に入れられてからは家の中は荒れ放題となり、食べるものも無くなってしまった。一緒に生活していた家族は仕方なく新天地を求めて家を出た。そして、辿り着いたのが海沿いの街だったのだ。

 五年前から街の住人を避けた生活をし続けているこの家族は、奇妙な事件に遭遇してしまった。

『お父さん、隣の家は毎日のようにパーティをやってるね。おかげで僕たちも食べるものには困らないけど』
『ああ、そうだな。ただ、隣で飼われている大きな黒猫はちょっと怖いな。お父さんの体の二倍はありそうだろう』
『あなた、噛みつかれたら大変だから、くれぐれも近寄らないようにね』
『ああ、わかってるよ』
『お父さん、もう、風に乗ってくる匂いがたまらないから何かもらってくるね』
『気をつけるんだぞ、ミータ、特に黒猫にはな』

 足音を立てることなく、隣の家に忍び込むミータ。広い庭ではバーベキューパーティが開かれていた。集まっている人間たちは街には似つかわしくなく、行儀が悪かった。おかげでミータは庭の端っこに捨てられるバーベキューの残りを難なく手に入れることができていた。

『今日も、たくさん食べられそうだな。お父さんとお母さんへのお土産も持って帰れそうだし。しめしめ』
 庭の端っこの草の影から、人間たちが食べ散らかしてくれるのをじっと待っていた。その時、叫び声と共にミータの目の前に人間が倒れ込んできた。

『うわっ、びっくりしたなぁ。この人間、酔ってるのかなぁ…』

 そっと近づいて匂いを嗅いでみた。

『あっ、血だ。頭から血が流れてる…もしかして、死んでるのかなぁ』

 周りが急に騒がしくなった。人間が近寄ってくる。

「おい、ロブ。うわーっ、大変だ、ロブが殺されてるぞー」
「何、誰がやったんだ。俺の大切な弟を」
「奴らが入り込んだんじゃないか、このパーティに」

 その時ミータは、黒い影が家の裏から海岸に逃げていくのを目撃していた。すかさず黒猫がミータの横にやってきた。
『おい、お前、隣に無断で棲みついている家族だろう』
『…』
『お前をどうこうしようってわけじゃないから、心配すんな。殺されたのはこの俺様の飼い主なんだよ。これでこのブラック様もお前らと同じ野良猫になってしまうのかもな』
『えっ、そ、そうなんだ。僕はミータ。隣にお父さんとお母さんがいるんだ』
『そうか。ミータか。弱そうな名前だな。まぁ、そんなことはどうでもいい。お前も見ただろ、黒い影』
『うん、海岸の方に走って行った』
『ああ、やつが犯人だ。俺の飼い主を目の敵にしてたやつさ。あいつはな、飼い主の兄貴のマークってやつが雇ったやつなんだよ』
『えっ、それって』
『そうさ、黒幕はマークだ。この家と財産を乗っ取るつもりなんだよ』

 ミータはブラックが思ったほど怖いやつじゃなかったとわかり、ブラックに親近感を持った。

『じゃあ、何とかしないとね』
『ああ、だからお前たち家族にも手伝ってほしいんだよ』
『えっ』
『俺は敵をうちたいんだよ、飼い主の』
『でも相手は人間だよ。かなわないよ…』
『いや、人間は臆病だから自滅させることができるさ』

 ブラックは自分の飼い主が殺されたことを知って復讐することを決心したのだった。だが、ひとり、いや一匹では難しいと悟り、ミータ家族にも協力を依頼したのだった。二匹の目の前ではマークが弟を抱え涙していた。周りの人間はその光景を静かに見守っている。パーティどころではなくなっていた。夕方になり強い風が吹き付けて血の匂いを周りに撒き散らし始めていた。

 ブラックとミータの家族は夜になり今後の計画を打ち合わせていた。

『まさか、こんな形で君と知り合いになるとは思っていなかったよ』
『ええ、それはお互い様ですよね。野良猫が棲みつきやがってって最初は思ってましたからね』
『まぁ、ひどい言い方』
『申し訳ない。猫なんていつ野良猫になるかわからないものだってわかって反省したんです』
『ブラックはいい猫だよ。だから僕たちも協力しようよ』
『ああ、それで何か計画はあるのか?』
『人間の世界のことだからな。人間を利用するしかないだろう』
『人間を利用する?』
『ああ、お前たちが住んでいる家の住人に協力してもらうんだよ』
『一体どういうことだよ』

 猫たちは相談を終え、その日の夜から実行に移すことにした。時間との戦いだと誰しもがわかっていた。マークはすでに自分の家になったと豪語し、隣に住み着いている。弟の葬儀もそこそこに遺品整理まで始めてしまっていた。警察も動いてはいたが手がかりもなく難航していた。自宅の防犯カメラも裏の庭のカメラは故障中で映像が無かったのだ。

 ミータたちは自分たちが棲み着いている家で、隣の庭に向いている防犯カメラに映るように一晩中鳴いた。住人が出てくるとサッと姿を消し、部屋の中に入ると鳴き続けるということを繰り返した。流石に猫嫌いだった住民は警察に連絡を入れてくれた。ブラックたちは祈った。

「連絡をもらい、こちらの家にやってきましたが、何か問題が起きましたか」

 警官が玄関で話し始めた。

「ええ、猫だと思うのですが、鳴き声が止まらないのです。何とかしてもらえませんか」
「場所とかわかってますか」
「もちろん。裏の庭で隣と接している部分だと思います」
「なるほど。今は何も聞こえませんが、録画した映像か何かありますか。あれば我々も動きやすいのですが…」
「あっ、防犯カメラがありますよ。少し待ってください」

 住人は映像をクラウドに保存するように設定していた。タブレットを持ってきて接続し、警官に渡した。警官は何日か前に遡り、早送りで映像を確認した。

「あっ、映ってる。しかも鮮明に。こいつは手配中の男じゃないか」

 警官が見つけたのは、猫たちが騒ぎ始める前の日の殺人事件の映像だった。この映像を元に動き出し、二日後にはロブを殺害した犯人が逮捕された。別件で追いかけていた男だったようだ。警察はたなぼたのような情報に感謝し、持ち主に感謝した。数日のうちに隣に住み始めたマークは敢えなく逮捕され収監されてしまった。

 その日の夜は、ブラックとミータが持ち寄った食事で祝杯をあげていた。

『上手くいったなぁ』
『いやぁ、こんなに早く逮捕されるとは思ってなかったよ』
『しかし、これで完全に俺様も野良猫の仲間入りだぁ』

 風が強く吹く海岸沿いの街で、釣り人が残していった魚を争奪する生活がしばらくは続きそうである。    
 


あとがき

 今、私が住んでいる街も風が強いんです。特に夕方が強くなる気がします。野良猫はいませんが、周りが海に囲まれているこの場所のイメージを膨らませ、綴ってみました。

 表紙の画像はCHATGPTに作ってもらいました(内容と誤差があるのはご愛嬌)


下記企画への応募作品です。

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