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5月2日 郵便貯金の日 【SS】飛脚は見た

日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。


【今日は何の日】- 郵便貯金の日

1950年(昭和25年)に郵政省(現在の日本郵政)が制定。

1875年(明治8年)のこの日、東京府下18ヵ所と横浜1ヵ所に貯金預所を創設し、郵便貯金の業務が開始された。創業を行ったのは郵便制度を立案した前島密(まえじま ひそか、1835~1919年)で、「日本近代郵便の父」として知られる。


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【SS】飛脚は見た

 時は江戸時代、もうすぐ明治となる前のことである。飛脚たちは日本中を己の足で駆け回り、大切な書状を人から人へと届けていた。何日もかかって届く書状にはそれなりの重みもあり、数日では覆らない情報が記載されていたことだろう。

 ある日、早駆け飛脚の走次郎は、書状を持って九州北部の道を懸命に西に向かって走っていた。書状の届け先は生月島という小さな島だ。九州本土からは船で平戸島に渡り、平戸島を駆けて横断し、さらに船で生月島に渡らなければならない。ほとんど幕府も手を出していない場所だ。

 実は、生月島にはひっそりと隠れて暮らしているカラクリ技師がいたのだ。名を継未来の助つぐみ きのすけというほとんど島民とも親交のない男だった。この男が暮らしている家からは、時折ピカッと光るものが見えたりするので、島民も気味悪がって近よらないでいたことも親交がない要因の一つだった。

「ごめんよー。こちらに継未来の助様はおいでかー」

「ガタガタ、ピー、ザーザー、ブツブツ、こちらは」なにやら変な音が家の奥から聞こえてくる。飛脚の走次郎は一層大きな声をだして叫んだ。

「ごめんくださいませー。こちらは、継未来の助様のお屋敷ですかー」

「ん、だれじゃ。わしを訪ねてくるやつなどまだおったのか。あぁ、なんだ、飛脚か」

「いや、旦那。なんだじゃ無いですよ。さっきから大きな声で呼んでるんですから。書状を預かってきましたのでお渡しします」

「おお、そうか、すまんすまん。ちょうど今、新しいカラクリに命を吹き込んでおったものでな。書状は誰からじゃ、どれどれ、お、長州からか」

「じゃあ、あっしは確かに書状をお渡しいたしましたので失礼します」

「まぁ、待て、飛脚。今日書状を持ってきたのも何かの縁じゃ。今日完成したカラクリをお主も見ていけ。駄賃代わりじゃ」

「へぇ、そうですか。カラクリってぇのは見たことがないので、お言葉に甘えやす」

 そう言って走次郎は草鞋を脱いで部屋の奥へと上がっていった。上がっていった先の部屋では何やら壁に映し出されているものがある。人形師が使う影絵のようにも見えるがそれよりも遥かに鮮明で、人が奇妙な服を着て動いているのが見えた。

「おい、飛脚。これはな。未来を映し出しているんじゃ、今は江戸時代だが、今から百年以上先の日本の映像じゃ。写っているのは、百年以上も先の時代で書状をどこにでも届ける仕事と人様のお金を預かって管理する仕事の様子じゃ。今は、金子を扱うというのは、両替屋と金貸し屋だな。書状に関してはお前たち飛脚の役割だろ。それがな、この時代には一つになるんじゃ」

「え、金貸しと飛脚が一つにですかい」

「ああ、まぁ、最終的には別々になるんじゃが、今映っている時代では一つじゃな。しかも書状は日本全国どこにでも二、三日もあれば届く時代になってるんじゃよ。それに金子を預けていれば一年後には利息がついて戻ってくるんじゃよ。未来では、そんな仕事を扱うところを郵便局と名付けたようだ。郵便とはお前たちが運んでいる書状などのことだ。そして金子を預けるのは郵便貯金とよばれているぞ」

「へー、そんな時代になるんですかい。この日本は」

「あぁ、そうだ。しかも郵便貯金は預けたお金を日本中どこからでも引き出すことができるんじゃよ。便利じゃろう」

「ほえー、なんでそんなことができるんですかのう」

「まぁ、仕組みは説明しても分からんじゃろうからしないけど、そんなすごい世の中に変わるっていうことじゃよ」

「あのう、なんでこんな動く絵が壁に写ってるんでしょうか。壁の中に人がいるみたいで気味悪くて仕方ないんですが」

「ははは、これは未来と繋がっていてな、エレキというもので動く絵を作り出しているのじゃ。ちょうど繋がった先が書状を取り扱う郵便局というところだったから、お前に見せてやろうと思ったのだよ」

「へぇ、あっしには珍紛漢紛です」

「はは、まぁ、そうだろうな。しかし、これは本物の未来なのだぞ。ここを出たらここで見たことは決して誰にも話をしないようにな」

「へい、わかりやした」

 映像には、昭和時代の郵便局の様子が映し出されていた。通帳を広げて窓口に札束と一緒に出して、四角い受付印鑑を通帳に押され、札束分の金額が記入された通帳が戻されているところだった。また、その横では、薄っぺらい封筒に入った手紙に対し小さい紙に絵が書いてある切手を貼って郵便窓口に差し出していた。走次郎の目には、全く理解できない映像としか写っていなかった。ただ、自分たちがこの世からいなくなった時には、両替屋と金貸しと飛脚の仕事が一つになるのだと理解していた。

 走次郎は、継未来の助の屋敷を出たあと、きた道の逆をたどって船と駆け足で長州まで戻っていった。屋敷にいる時、継未来の助から返書を預かっていたので、それを大切に抱えて長州に潜んでいた坂本龍馬の元に届けたのである。どうやら、坂本龍馬は、継未来の助のカラクリのことを知り、今後の日本の改革を正しく選択するために、未来のことを教えてもらおうとしていたのだった。そのカラクリがちょうど完成したところに飛脚が手紙を届けにきたのだった。これで日本の運命が変わった。未来の政府や金融のことを継未来の助は返書に記して飛脚に託したのだった。長州にて返書を受け取った龍馬は、自分の考えに間違いはないと確信し、命を賭してでも世の中を変えなければならないと決意した。政治と経済を支えるための金融界の再編成の必要性も関係者へと情報が伝達され、郵政と銀行という構造を作っていくことにつながったようだ。
 
 歴史における軌道修正は要所要所で時を超えた情報の共有を元に行われていたようだ。郵便局で郵便貯金の業務が始まったのも国として銀行の独走を許容させないためだったのかもしれない。時を超えた情報を入手していたはずの継未来の助は、キリスト教徒でもあったため、隠れるような生活の中でひっそりとそのその生涯を閉じた。継未来の助が発明したカラクリは一切発見されることはなかったそうだ。もしかすると未来の誰かが回収に来て持ち去ったのかもしれない。歴史の中にはまだまだ我々が知らない不可思議な現象が隠されているのかもしれない。


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