【SS】 出会い #シロクマ文芸部
恋は猫が運んでくる。僕と彼女の縁は三毛猫との出会いが始まりだった。
僕の住むアパートに三毛猫が迷い込んできたのは、初夏の曇り空の日曜日。特にすることもなく部屋でぼーっとしていたら、窓から三毛猫が覗いていた。僕が窓に近づいても逃げる気配がない。そっと窓を開けると、ヒョイっと部屋の中に入り、僕のベッドに我が物顔で飛び乗ってくつろいだ。
よくみると可愛い赤い首輪をつけている。きっと飼い主は探しているんだろうなと思い、僕は重い腰を上げ、猫を抱っこして表に出た。猫は抱っこされても全く嫌がるそぶりもなく、僕の腕の中で気持ちよさそうにじっとしている。まぁ、それほど暑い日でもないので、このまま散歩しながら飼い主を探そうかなと当てもなく歩き始めた。
川沿いのところまで歩いてきたら、土手沿いの道を前からキョロキョロしながら歩いてくる女性が見えた。ノースリーブのワンピースの裾を翻しながら何かを探しているような感じだった。まさかとは思ったが、その時抱っこしていた猫が急に目を開けて、鳴き始めた。
「ニャア、ニャーア」前から歩いて来ていた女性が猫の声に反応した。
僕のところに女性は駆け寄ってきて、光るような汗をひたいから流しながら叫んだ。
「パイン、パインよね。よかった〜。もう、どこに行ったかと思ったのよ。急に走り出して行っちゃったから〜」
「あのう」一応僕が抱っこしている状態で、猫とだけ会話されても困ってしまう。そう思い、声をかけた。
「あ、ごめんなさい。この子、私が飼ってる猫ちゃんで、パインっていうんです。おいでパイン」
そうやって、女性が手を伸ばすと、それまで僕の腕の中でじっとしていた猫が、急に体を捻り、脱出するかのように女性の方に移って行った。これが、僕と彼女が知り合ったきっかけだ。僕が二十六歳、彼女が二十四歳だった。パインのおかげでめぐり逢った僕たちは、一年後結婚した。
それから月日は流れた。僕たちの間にできた娘が小学生になる頃には、パインはすでに亡くなり、パインの子供の猫が一匹だけ我々と一緒に生活をしていた。名前はピーチ。子供の成長は早いもので、僕たちの娘はあっという間に大きくなり、大学生になった。
ある初夏の日、ピーチが姿を消した。娘は焦って家の周りを探したが見つからない。ノースリーブのワンピースを着て探しに出かけ、川のほとりまで行った時、正面から猫を抱っこして歩いてくる男性を見つけた。その腕の中に抱かれているのは、ピーチのようだった。娘は走ってその男性の側まで行った。ピーチも嬉しそうに鳴き、娘も声をかけた。
「ニャア、ニャーア」
「ピーチ、ピーチよね。よかった〜。もう、どこに行ったかと思ったのよ。急にいなくなっちゃったから〜」
この後、娘は大学卒業を待ってこの時出会った男性と結婚した。僕たちの家族はみんな信じている。恋は猫が運んでくるものだと。さて、次は孫の番かな。
了
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